日本の高校生が「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」に参加し、議論や発表、交流に臨む「第2回SB Student Ambassadorプログラム」。同プログラムの選考に先駆けて高校生がSDGsに関する知識や企業・団体の実際の取り組みを学ぶ「SB Student Ambassador 西日本大会」が11月7日、関西大学千里山キャンパス(大阪・吹田)で行われた。参加した約180人の高校生は持続可能な社会の実現に向けて活躍する企業・団体の担当者らの基調講演を通して学びを深め、次世代を担う自分たちが、目の前の社会を変えていくアイデアを発表しあうワークショップに取り組んだ。(横田伸治)
SB Student Ambassador西日本大会 開催レポート(1)
「航空会社はCO2を削減し、気候変動と戦っていく責任がある」
オーストラリアのカンタス航空を招いたテーマ別セッションでは、同社が取り組む「カーボンニュートラルプログラム」が紹介された。同社の犬飼克俊法人営業部長は「カンタス航空を聞いたことがありますか?」と高校生に問いかけ、2020年に創立100周年を迎えた同社の概要を説明。オーストラリアの国内線・国際線の年間計4000本以上のフライトにより、交通インフラを支える一方で、カーボンニュートラルに向けた取り組みにも早期から力を入れてきたという。
同社は2050年までにCO2実質排出量をゼロとすることを目指している。犬飼氏は、日本国内のCO2排出量の0.9%にあたる約1000万トンが航空業界によるものであるとして、「排出はゼロにできなくても、吸収量でバランスを取らなくてはいけない。2019年のCO2排出量を維持しながら、森林保護活動などを加速させている」とその意義を説明。
具体的には、乗客がカンタス航空ウェブサイトから航空券を購入する際に、寄付型のオフセットプログラムに参加することが可能で、寄付額に応じて、同社のマイルを貯めることができる仕組みを導入している。例えば東京~シドニー間の片道フライトの場合、CO2排出量を相殺するために必要な費用は1人当たり約900円で、グレートバリアリーフ沿岸の熱帯雨林の植林やタスマニアでの森林保護などのほか、森林火災予防にも活用されるという。
また同社は、ごみを出さないゼロウェイスト・フライトの実現にも取り組んでいる。通常、一回のフライトに伴って機内食の容器や食器類など約34kgの廃棄物が出るが、サトウキビから作られた容器、作物でんぷんから作られたカトラリーなど、使用後はたい肥として活用できる素材を生かし、2019年には業界で初めて、シドニー~アデレード間でごみを出さない商業飛行を実現している。
さらにバイオ燃料の活用も進めており、2020年にはメルボルン~ロサンゼルス間で、バイオ燃料を10%配合してのフライトに成功。通常のCO2排出量の約7%にあたる1.8トンの排出を削減した。現在は配合率を50%に高めたフライトの実験も続けているといい、犬飼氏は「バイオ燃料活用にあたって農家とも提携し、雇用創出にもつながっている」と強調した。
2019年に同社のCEOは、「航空会社にはCO2排出量を削減し、気候変動と戦っていく責任がある。新型航空機の導入など、もっと真剣に、もっと早く取り組まなければならない」とする声明を出しており、危機感は非常に強い。「今は、コロナ禍で色々なところへ行くことは難しいが、やはり自分で直接物事を見て考えることは大切。今後も是非、自分の目でまず世界の現状を確かめてほしい」。犬飼氏は最後にそう語りかけ、高校生たちは講演後、同社の事例を参考に、カーボンニュートラル・ゼロウェイストを実現するプロジェクトについてアイデアを出し合った。
「ものづくりを通じたSDGs考えて。多様な視点から課題解決の力を」
同じく気候変動にフォーカスして講演を行ったのは、積水化学工業の三浦仁美・ESG経営推進部担当部長だ。三浦市は冒頭、「Z世代の皆さんは、どんなことに課題意識を持っていますか?」と投げかけ、同社はものづくりが環境に及ぼす影響に着目し、その製造過程や製品の利用自体によって社会的課題に取り組んでいることを紹介した。
同社は現在、ESG経営を基本戦略とした2030年度までの「Vision2030」を定めているが、そのルーツは1960年代、生ごみ処理などに広く使われていた蓋つきプラスチックごみ箱「ポリベール」にさかのぼるという。従来製品より軽く、1人で持ち上げることが容易なためごみ収集システム全体の効率化につながり、CO2排出量を削減できた。
「ごみ箱の開発で、社会を変革することができる」と、三浦氏はものづくりによる課題解決の仕組みを説明。現在では、工業化住宅「セキスイハイム」の製品として、ソーラーパネルで再生可能エネルギーを発電でき、蓄電池に貯めることもできる「おひさまハイム」を販売している。その工場においても、プレカット品の納入や廃棄物の分別回収を通して廃棄物削減とリサイクルを並行して実現しているという。
また、上下水道の配管も手掛ける中で、老朽化した水道管を更生する「SPR工法」も紹介された。管を掘り出すことなく、埋設状態で内側からプラスチック材料を用いて補修するもので、▽管の寿命を延長することで、製品のライフサイクルとしてのCO2削減につながる▽水インフラの強靭化によって、気候変動に強い都市づくりができる▽老朽化した管を廃棄しないためごみを削減できる▽道路交通を止めず渋滞を起こさないため、CO2削減に貢献できる――など多くのサステナビリティを実現できるという。
「創業以来大切にしているのは、インフラ創造とケミカルソリューションによって、世界の人々の暮らしと地球環境の向上に貢献すること」。三浦氏は特に、水に関連する製品が多いことから「水リスク」、石油を原材料として多く使用することから「資源循環」を課題として認識しているとして、「気候変動を引き起こしたのは、人間の無責任な生産・消費活動。製品を通じた課題解決を、ビジネスとして成立させて持続させていかないといけない」と訴えた。
「皆さんには、ものづくりを通じたSDGsを考えてみてほしい」。同社は次世代の意識改革にも取り組んでおり、従業員の子ども向けのSDGs教育プログラムや、2017年には世界13か国が参加した「世界こどもエコサミット」を開催している。三浦氏は最後に、「会社に入るというのは、社会で生きていくための一つの選択肢。人と違う課題認識があるなら起業してもいいし、公務員でも政治家でもいい。いろいろなことを勉強する中で、やりたいことが見つかるはず。多様な視点から物事を考え、課題を解決するための力を養ってください」とエールを送った。
高校生たちは4テーマに分かれて講演を聞き、それぞれの内容に沿った新しいアイデアを出し合うワークショップに臨んだ後、全体に集合。各テーマで優れた発表として選ばれた代表チームによる発表が行われた。基調講演に登壇したエバンズ亜莉沙氏は「『誰一人取り残さない』という考え方は難しく聞こえるかもしれないが、もともと自然界のすべては関わり合って、意味を持っている。人間が社会でそれを実現するためには、みなさんが考えてくれたように、システムを見つめなおさないといけない。理想の世界を実現するために、これからもさまざまな人や物と出会ってほしいし、今日出会った仲間ともつながり続けてほしい」と総評した。
横田伸治(よこた・しんじ)
東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞記者として愛知県・岐阜県の警察・行政・教育・スポーツなどを担当、執筆。退職後はフリーライターとして活動する一方、NPO法人カタリバで勤務中。