「私が変われば、世界が変わる」27校180人の高校生がサステナビリティ議論――SB Student Ambassador 西日本大会 (1)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局
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日本の高校生が、国内外で持続可能な環境・社会・経済の実現に取り組むトップリーダーとともに「サステナブル・ブランド国際会議2022横浜」に参加し、議論や発表、交流に臨む「第2回SB Student Ambassadorプログラム」。同プログラムの選考に先駆けて高校生がSDGsに関する知識や企業・団体の実際の取り組みを学ぶ「SB Student Ambassador西日本大会」が昨年11月7日に行われた。会場となった関西大学千里山キャンパス(大阪・吹田)に27校から約180人の高校生が集まった。高校生たちはまず、最先端の活動に取り組むオピニオンリーダーによる基調講演を聴講。さらに、サステナブルな社会の実現に向けて活躍する企業・団体の担当者らを交え、次世代を担う自分たちが、目の前の社会を変えていくアイデアを発表しあうワークショップに取り組んだ。(横田伸治)
「私が変わることで世界が変わる。理想の世界体現から始めてほしい」
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午前の基調講演には、エシカルコーディネーターとして活動するエバンズ亜莉沙氏が、「私が変わることで世界が変わる」というメッセージを込めた「Be the change」という演題で登壇。初めに「私が世界に興味を持ったのも、皆さんと同じ高校生の頃だった」と語り、米オレゴン州で過ごした高校時代を紹介した。そこで環境科学の先生に出会い、毎年4万種の生物が絶滅しているとされる現状や、身近な食べ物の裏側に多くのコストがかかっていることなどの社会問題を知り、衝撃を受けたという。さらに自身のキーワードとして「旅」を挙げ、高校卒業後に訪れたハイチ共和国での経験も踏まえ「普段の生活と違う世界に行くことで、視野を広げ新たな価値観と出合うことはとても重要」と強調した。
「そもそも、エシカルという言葉を聞いたことがある人はどれくらいいますか?」。エバンズ氏は高校生たちに問いかけた後、「直訳すれば倫理的、道徳的であるということ。食べるもの、飲むもの、着るものなど、何かを選んで買うことで、どこにどういう影響があるのかをしっかり考え、思いやりを持つことかなと思います」と説明。自身はこれまでに、国際女性デー(3月8日)の知名度を上げるためのミモザフェスタというイベントや、伝統技術・オーガニック素材にこだわったファッションブランドの運営、プラスチックごみ問題に対応する量り売りのスーパーマーケットのプロデュース、ポートランドをモデルとした環境都市計画である「Kashiwa-no-ha Smart City」プロジェクトなどの活動を行ってきたことを紹介した。
ファシリテーターを務めたサステナブル・ブランド国際会議D&Iプロデューサーの山岡仁美氏はエバンズ氏の活動について「ファッションや女性のライフスタイルなどは『つくる責任つかう責任』にも関わってきて、SDGsはゴール同士もつながっていますね」と感想を述べた。エバンズ氏は「SDGsは2030年までの目標だが、私たちはその先もこの地球上で暮らしていく。一つひとつのゴールというより、続けていくこと、持続可能であることが一つの大きなテーマとなる」と強調。さらに「チャレンジは重要だが、無理をしても短期的な試みで終わってしまうことになる。プラスチックが使われた衣服だとしてもすぐ捨てるのでは地球にやさしくない。まずは持っている服を大事にすることは誰でもすぐできるし、とてもエシカルなことであるはず」と続けた。
エバンズ氏は講演の最後に、社会問題の「原因と仕組み」を考えることの重要性も指摘した。例えば、発展途上国の教育支援のために短期的に文房具を届けたり寄付したりするだけではなく、親世代の貧困を課題としてとらえ、安定した雇用を生むために、消費者一人ひとりが日常的にフェアトレード製品を選ぶことが長期的解決につながる、といった考え方だ。その上で改めて「私が変われば、世界が変わる。自分が理想とする世界を、まず自分が体現していくことを今日から始めてほしい」と高校生たちにエールを送った。
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「大阪の使命とは?」持続可能な観光の意義を再考する大阪に学ぶ
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午後は4つのテーマに分かれ、企業や団体のリーダーを招いたセッションが行われた。公益財団法人大阪観光局の田中嘉一・MICE政策統括官を迎えたグループでは「『次世代の観光』創出に向けた大阪観光局のチャレンジ」と題し、2025年に大阪万博を控える中、コロナ禍で大きな変革を迎えた観光業界について議論が交わされた。
田中氏はまず、コロナ以前の大阪観光について「訪日外国人の伸び率が全国1位と、絶好調だった」と総括。ところが感染拡大により街から人影が消えると、「観光は感染拡大や環境破壊を生む」というイメージが広がったことや、インバウンド消費に偏ったオーバーツーリズムの実態が露呈したことなどから、「われわれがやってきたことは間違っていたのでは」と反省し、持続可能な観光収入を生む施策へと転換したことを明かした。
観光の意義を再考した際に見える、「大阪の使命とは何か?」。この問いに対し、田中氏は▽外国人が大阪から入国し、全国に足を運ぶ「日本の新しい玄関」になること▽大阪で日本全国の魅力を伝える「日本観光のショーケース」になること▽万博のホストシティとして、新しい観光の姿を発信するトップランナーになること▽大阪にないものを持った地域と連携し、大阪自身が進化すること――を挙げた。
具体的には、大阪は元々海だったため緑が少ないことに着目し、森林を観光資源として生かしたツーリズムに注力している。森林率が全国で最も高い高知県と協定を交わし、同県の観光PRを大阪で行うことで、自然や森林の重要性を啓発しているほか、大阪市内の緑化自体も推進。ほかにも、大阪万博の会場の回廊に日本各地の木材を活用することで、他の地域が持つ自然環境の魅力を大阪から発信する仕組みも準備しているという。
留学生の支援にも力を入れている。従来は学校や企業が個別に留学生支援を行っていたが、「留学生支援コンソーシアム」を立ち上げ、ポータルサイトによる情報発信や住まい・就職サポート、留学生による観光ガイドプログラムなどのサービスを一元化して実践している。田中氏は「留学生を支援することで、多様性を受容する都市を実現したい」と意気込みを語った。
多様性への取り組みとしては、LGBTQツーリズム万博の誘致を進めるなどマイノリティに属する人たちの受け入れ環境を整備していることを紹介。元来ゲイバーが集まる地区があったり、芸術活動が盛んであったりする大阪はLGBTQの人たちとの親和性が高いとし、「多様性は万博のコンセプトでもあるし、観光という意味ではLGBTQの人たちの消費額は大きく、経済効果も見込める」と、取り組みの意義を説明。
田中氏は「コロナによって人々の価値観は進化している。未来を創るのは今。若者が主体となって行動してほしい」と呼びかけて講演を締めくくった。高校生たちは続けて、実際に次世代の観光の在り方を議論・発表するグループワークに取り組んだ。
「交通は手段。訪れたい街をつくる必要がある」
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一方、JR西日本グループを招いたグループでは、持続可能な公共交通の在り方や街づくりをテーマに議論が行われた。まず登壇したのは西日本旅客鉄道の大槻幸士・総合企画本部地域共生部(気候変動対策推進グループ)担当課長で、鉄道事業を核に、「将来世代を含め、誰もが生き生きと活躍し続けられる西日本エリアの実現」を目指す同社の取り組みの中から、特に地域共生と地球環境への取り組みが重点課題として取り上げられた。
地域共生に向けては、「人々が出会い、笑顔が生まれる、安全で豊かな社会」という中期経営計画を紹介しながら、具体例としては、新幹線を基軸とした広域鉄道ネットワークの強みをチケットレスサービスの拡充などを通じて高めていることを報告。その中で「交通はあくまで手段であり、出発地、中継地、目的地となる地域や街の存在があってこそ。訪れたい街を作る必要がある」と強調した。
また地域の魅力向上のための取り組みとして、大阪エリアで関西国際空港と新大阪駅を結節する「なにわ筋線」の開通や、新駅「うめきた地下駅」の開発を見越し、「大阪駅の拠点性を飛躍的に向上させる」再開発計画があることを披露。広島や岡山などの大都市が連なり、広域経済圏が形成されている中国地方では、「ただ鉄道で結ぶだけでなく、土地の魅力を活用する」として、瀬戸内海の観光資源を生かしたクルージングやグランピングなどの新たな観光開発や、コロナ禍でニーズが高まったワーケーションを利用しやすくするためのセットプランなどを考案しているという。
地球環境への取り組みについては、そもそも鉄道が他の交通手段に比べてCO2排出量が少ないという優位性が示された。鉄の車輪はゴムタイヤに比べ耐荷重が大きく、さらに鉄の線路との摩擦も少ないため、わずかなエネルギーで大量輸送が可能。輸送人員あたりのCO2排出量は自家用車の7分の1だという。
もっとも地球環境や気候変動への取り組みは「将来の課題ではない」と断言。実際に鉄道交通は豪雨による線路・橋梁の流出や、大雪による立ち往生などが近年も発生しており、「リスクへの対応は社会的責任だ」と強調する。具体的には、線路わき斜面の盛り土を補強、水はけを向上するなどの取り組みのほか、写真では確認できない土砂流入や落石などを把握するための航空レーザー測量技術の開発に取り組んでいることが紹介された。
温室効果ガス削減の努力は続く。同社グループ全体として2050年までに実質排出量ゼロを目指し、新型の省エネ車両への置き換えや、駅舎での太陽光発電・LED化などに注力。車両がブレーキをかける際の電力を他の車両に給電したり、駅舎のエスカレーター・エレベーターに活用する「回生電力」技術も含め、「チャレンジングな目標」(大槻氏)を実現しようとしているのだ。
最後に、同じグループ会社から日本旅行の椎葉隆介・事業共創推進本部マネージャーが登壇。熊本県阿蘇市で今年からの商品化を予定している旅行プラン「サステナブル阿蘇アドベンチャーツアー」を説明した。新大阪駅から熊本駅まで移動する際のCO2排出量を可視化するアプリを開発・利用し、旅行客が阿蘇の草原維持活動などを体験することで、一人ひとりがカーボンオフセットに取り組むものだ。この取り組みは阿蘇市・日産自動車と連携して進められていることを踏まえ、椎葉氏は「大切なのは、課題を自分ごととして考えること。そして他者と連携することで、やりたいことを達成できる」と締めくくった。
「SB Student Ambassador西日本大会」はオンライン大会も同時配信で開催。また西日本大会に先立ち、10月31日には日本大学経済学部(東京・千代田)で東日本大会も行われた。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜の「第2回SB Student Ambassador全国大会」には、このほかに北陸・中四国の各ブロック大会に参加した高校生の中から、選考によって13校が招待される。
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横田伸治(よこた・しんじ)
東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞記者として愛知県・岐阜県の警察・行政・教育・スポーツなどを担当、執筆。退職後はフリーライターとして活動する一方、NPO法人カタリバで勤務中。