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技能実習生らの人権を守る日本企業の取り組み 来年1月に外国人労働者向けポータルサイトの実証実験開始へ

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ビジネスと人権を巡る国際社会の目が厳しさを増す中、外国人技能実習制度などを利用して来日し、農業や漁業などの一次産業やさまざまな企業の生産工場などの現場で、貴重な労働力として雇用されている外国人労働者の人権を守るための行動に今、国を挙げ、本気で取り組むことが求められている。背景には、日本の外国人技能実習制度については米国務省が兼ねてから「強制労働に当たる」と非難しているのに加え、EU(欧州連合)でも中国・新疆ウイグル自治区の人権侵害を念頭に強制労働によって作られた製品をEU市場から排除するための法制定を目指す動きが進もうとしていることなどから、日本企業にとって、この問題に対処しないでいることはそのまま経営のリスクにつながる恐れが強まっていることが大きい。昨年11月に日本で初めての枠組みとして設立された「責任ある外国人労働者受入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」の動きなどを通して、この問題に対する日本企業の取り組みの進捗状況をレポートする。(廣末智子)

外国人労働者向けポータルサイトの実証実験 参画企業の決定はこれから

9月中旬、「トヨタなど200社共同制作 外国人労働者に人権アプリ」の見出しとともに「トヨタ自動車やイオンなど約210の国内企業・団体が、外国人労働者の人権を守るためのスマートフォンアプリを共同制作することが分かった。日本で働く技能実習生らが会社に知らせず、アプリを通じて第三者機関に相談できる」とするニュースが共同通信社から配信された。記事には「JICAと人権団体が事務局となり」とあるが、人権団体の名前は明記されていない。実はこの団体とは、持続可能なサプライチェーンの推進を行う一般社団法人ザ・グローバル・アライアンス・フォー・サステイナブル・サプライチェーン(ASSC)のことであり、JICAとASSCとが共同で設立したのが「JP-MIRAI」だ。

もっともこのニュースについて、JP-MIRAIの事務局を務めるJICAの担当者は、「現時点では会員企業に協力をお願いするとともに、ポータルサイトの構築に携わる開発業者を企画競争の形式で決めるための『政府開発援助業務』の公示をしている段階で、それ以上のことは公表できる段階にない」と話す。予定ではこの開発業者や協力企業の決定を経て、2022年1月から、「日本初のマルチステークホルダーで実現する『ビジネスと人権原則』準拠の人権デューデリジェンスおよび救済メカニズム構築に向けたパイロット事業」として、来日前を含む外国人労働者を対象とするポータルサイトの実証実験を行う計画であり、配信記事にあるような「トヨタやイオンなど約210の国内企業・団体が共同でアプリを制作する」といった表現は10月5日時点でも決定事項ではない。ここで名前の上がっている企業はJP-MIRAIの会員企業に名を連ねていることには間違いないが、パイロット事業に参画・協力するかどうかは未定であるのが事実だ。

マルチステークホルダーによる協働型救済メカニズム構築

JP-MIRAIは、2030年までに日本が外国人から「選ばれる国」として、SDGsの目標の一つである「働きがいも経済成長も」を実現することを目的に、外国人労働者を取り巻くさまざまな問題を社会共通の課題と捉え、多様な関係者の連携を通じて解決策を見出す目的で設立された。昨年11月の設立当初、会員企業はセブン&アイ・ホールディングスやトヨタ自動車、愛知商工連盟協働組合など41の企業と団体、12の個人だったが、約1年が経過して現在の会員は企業と団体が213、個人は110にまで増えている。

この間、JP-MIRAIでは、相談と救済に関する研究会を計4回開催。企業活動が国境を越え、企業が人権に及ぼす影響力が増大する中、2011年に制定された国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の中で、「人権を尊重する企業の責任」について示した原則22には「企業は負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力すべきである」とあり、その手段として救済メカニズムを整備すべきであるといった、人権に関する企業責任の基本から学びを深めてきた。

指導原則上の救済は、司法型と非司法型、また国家と企業の役割で分けられ、原則29では「苦情への対処が早期になされ、直接救済を可能にするように」として企業に苦情処理のメカニズムを確立するよう求めている。ここでいう苦情処理のメカニズムとは、社内の相談窓口やホットラインを整備するなど、裁判による判決によらず、話し合いによって解決するような場の提供を指す。また原則30では、労働組合や産業団体、NGOなどのマルチステークホルダーによる協働型の苦情処理メカニズムについても定めている。

さらに原則31には、苦情処理メカニズムの実効性を確保するため、正当性、アクセス可能性、予備可能性、公平性、透明性、権利との適合性、継続的学習の源泉、エンゲージメントと対話、からなる8つの条件が示されている。これらは1企業が完璧に網羅するにはかなり厳しい基準であり、だからこそ、協働型の取り組みが重要になってくる。

これに該当するのが、JP-MIRAIがパイロット事業を通じて構築しようとしている外国人労働者の総合情報窓口となるポータルサイトだ。事務局によると、外国人労働者に関する問題の早期発見と対応に向け、有益かつ信頼できる情報を母国語で提供し、電話やメール、SNSなどを通じて気軽に問い合わせができるようにすることで信頼を得るとともに、多額な仲介料などが問題となっている送り出しや受け入れに関する団体などに対しても、改善を促したり、悪徳な場合は排除することも含めて情報をフィードバックする体制を整える方針だ。

イオンは独自ホットライン開設 「外国人からの相談はまだ」

一方、最近は指導原則29に基づく動きとして、外国人労働者を対象とする相談窓口を設置したり、実習生の雇用状況を調査する大企業も少なくない。そうした1社がイオンで、今年2月、サプライチェーン上の人権リスクに対して救済の手段が与えられるよう、同社のプライベートブランドである「トップバリュ」の商品について、原材料の調達から製造、在庫管理、配送、販売までの全プロセスに関わる取引先の従業員から相談や通報を受け付けるホットラインを開設した。

相談はHP上の相談フォームかメールまたはフリーダイヤル、もしくは提携する第三者機関であるNGOの運営するスマートフォンアプリから受け付ける仕組みで、アプリには外国人労働者が相談しやすいよう、ベトナム語や中国語、タイ語、ミャンマー・ビルマ語など8言語で対応した。

このホットラインの利用状況について担当者に問い合わせたところ、数は多くないものの、サプライヤーの従業員からの多岐にわたる相談が寄せられているという。もっとも技能実習生をはじめとする外国人労働者からの相談はまだなく、「苦情処理システムはたどり着くことが難しい。上流サプライヤーへのアプローチが課題であり、悩みながら進めている」と話す。

共同通信の配信記事で、JP-MIRAIの事業にイオンが加わるとあったことについては、「イオンが参加するとは表明しておらず、現時点で何も決まっていません」とした上で、「各企業が個々に対応するのではなく、集約して対応ができるというコンタクトポイントで、より影響力のある形で相談を受けることも必要とは考えている」という。

米国政府の人身取引報告書に厳しい文言

米国では国務省が日本の技能実習制度について、兼ねてから「強制労働に当たる」と指摘し続けている。同国政府が出した2021年の人身取引報告書には同制度の非難すべき点が詳細に記され、「優先すべき勧告」の項目には「外国人技能実習機構および出入国在留管理庁の職員を対象とした被害者認知の研修、外国人技能実習機構とNGOとの連携の向上、技能実習計画認定前の全ての契約の審査、雇用主に対する調査の増加、労働者が支払う過剰な手数料やその他金銭を課す外国の募集機関との契約解除などにより、技能実習制度改革法の監督および執行措置の実施を強化する」「要望があれば、全ての外国人労働者が雇用主や産業を変更できる公式な仕組みを確立する」「雇用主が外国人労働者全てのパスポートやその他の個人文書を保持することを禁止する法律を制定する」「全ての労働者に支払いが課される募集費用およびサービス料を廃止するための関連政策を改定することにより、移住労働者が借金による強制の被害に陥りやすい状況を減らす」などの文言が並ぶ。

今回、筆者が在住する地方都市で一次産業の現場で働く技能実習生に困りごとなどについて話を聞こうとしたところ、雇用主が言うには、実習生に取材をするには必ず、県と、制度の運用指導に当たる団体に対して取材内容を伝えて許可を取る必要があるという。そこには、実習生が雇用主らの管理下でしか自由にものを言えないでいる姿勢が強く感じられた。現在、相談窓口としては厚労省と出入国管理庁、外国人技能実習機構が共同で開発したスマートフォン用のアプリのほか、県にも「外国人生活相談センター」などがあるが、どれほどの実習生がその存在を知り、また知ってはいても利用しようという気持ちになっているだろうか。

労働者のエンパワーメントも重要に

もっとも技能実習生ら外国人労働者を対象とするポータルサイトなどの相談窓口を、実効性のあるものにするために重要な点は何かーー。ビジネスと人権リソースセンター日本リサーチャー代表で、ヒューマンライツ・ナウの事務局次長も務める佐藤暁子弁護士に聞いた。

佐藤氏はまず、前述した国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の原則31を挙げ、「8つの要素の一つでも欠けては実効性のある制度にはならない」と指摘。例えば予測不可能性(ここに相談するとどのくらいの期間でどのように申し立てが扱われるのか)、公平性(自分に不利にならないか、ちゃんと言い分を聞いてくれるか)、透明性(手続きの流れが明らかか)、権利適合性(国際的な人権を保障するものになっているか)、エンゲージメントと対話(そもそも仕組みをつくる際にどれだけ当事者の声を聞いたのか)といった観点から仕組みを再考することが肝心だという。さらに「前提として、労働者自身が自らの権利について認識し、理解していることが重要であり、労働者のエンパワーメントも制度の実効性を高める上では必要だ」と話した。

JP-MIRAIが開発するポータルサイトは将来的には会員企業に限定せず、すべての外国人労働者が利用できる仕組みの構築を目指しているという。企業が自社のサプライチェーン上で起きている労働環境問題について責任を持って把握し、対処することはESGの観点から当然のこととなる中、今後もつくられるであろう各企業の苦情処理メカニズムとともに、その実効性に期待が増す。

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廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。