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ウイグル族の強制労働問題 問われる日本企業のビジネスと人権への対応

厚生労働省で行われた会見の様子

日本ウイグル協会と国際人権団体ヒューマンライツ・ナウはこのほど、ウイグル族の強制労働に関与していると指摘された日本企業14社の対応に関する調査結果を発表した。無回答の1社を除き13社は関与を否定しているが、実態調査の方法はさまざまで、透明性の確保や対応への疑念が残る。両団体は、疑わしい限りは取引を停止するよう強く求めている。日本ウイグル協会のレテプ・アフメット副会長は「強制労働は外部からの圧力がなければ解決しない。企業には人権問題の全体像に目を向けて欲しい」と訴えた。ヒューマンライツ・ナウは「最終的には機関投資家が離れる。基本的人権や民主主義をどう体現していくのか」と企業、そして国家のガバナンスやサステナビリティに対する根本的な姿勢が問われていると指摘する。(サステナブル・ブランド ジャパン=小松遥香)

日本企業14社の対応はさまざま

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は昨年、日本企業14社を含む大手グローバル企業83社の中国国内のサプライヤー工場で、イスラム教の少数民族であるウイグル族が監視下に置かれ、移動や信仰などの自由を奪われた状態で強制労働させられていることを示す調査報告書を発表した。2017年から2019年の間に、新疆ウイグル自治区の再教育収容所などから中国全土の工場に送られたウイグル人は8万人を超えるという。

これに基づき、日本ウイグル協会とヒューマンライツ・ナウは該当する日本企業14社に対し、質問状を送る形で見解および対応策について調査を行うとともに、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に則り、企業の社会的責任を果たすことを求めてきた。

14社に含まれるのは、日立製作所、ソニー、TDK、東芝、京セラ、三菱電機、ミツミ電機、シャープ、任天堂、ジャパンディスプレイ、パナソニック、無印良品(良品計画)、ユニクロ(ファーストリテイリング)、しまむら。パナソニックは無回答で、そのほか13社は質問状に回答する形で強制労働への関与を否定している。

このうちサプライヤー工場に対して第三者監査を実施したと回答しているのは、日立製作所、ソニー、TDK、東芝、京セラ、無印良品(良品計画)の6社。日本ウイグル協会とヒューマンライツ・ナウは、第三者による監査を実施したことは前向きに評価するとしながらも、中国の体制下で透明性のある監査が実施できたか疑念を拭えないとし、「強制労働の事実が明確に否定できない限り、即時に取引関係を断ち切るべき」と勧告する。なお、京セラは「取引停止の可能性も含め検討している」と回答しており、アフメット副会長は「監査したが問題はなかった、と回答する企業よりも一歩前向きな対応だ。検討結果に期待したい」と話した。

三菱電機、ミツミ電機、シャープは指摘されたサプライヤーとの取引はないと否定するに留まり、任天堂とジャパンディスプレイについては「自己評価的調査を実施したように見受けられるが、調査内容が不明で詳細が分からない」と評した。無回答だったパナソニックについては絶望的と肩を落とした。

一方、世界の綿の2割、中国産綿の8割が新疆ウイル自治区で生産されているといわれ、強制労働問題に懸念を示したH&Mやナイキが中国で不買運動の対象になるなど、注目されているのがアパレル産業だ。ファーストリテイリングは同日、自社の決算記者会見で柳井正会長がこの問題について「政治的なことなのでノーコメント」と答えたことを共同通信などが報じた。同社は、「報告書に記載の2社と取引がないことを確認し、取引先工場の上流工程にある主要な素材工場なども調査した結果、強制労働は発生していない」と否定したが、日本ウイグル協会は、その2社のHPに今年3月半ば時点で取引関係があることが記載されていたと指摘している。しまむらは「該当サプライヤーに事実関係を確認したが、そのような行為はないとの報告を受けた」と回答。アフメット副会長は、取引企業に強制労働の有無を聞いても「ない」と答えるのが当たり前で、調査になっていないとした。

2団体は以下を勧告する。

1.指摘されている日本企業及び組織は、該当企業との取引関係を明らかにし、説明責任を果たすべきである。
2. 仮に現時点でも取引が継続している場合、報告書が指摘する強制労働の事実が明確に否定できない限り、即時に取引関係を断ち切るべきである。
3. 強制労働に対する是正措置及び再発防止策を策定し、それを公表すべきである。

ウイグル問題が浮き彫りにする国際秩序

アフメット副会長は「企業は強制労働のその先を見ていない。働いている人たちは自らの意思で出稼ぎに行っているわけではない。ウイグル人の社会、伝統、文化、生活様式という、ウイグル人として生きる上で不可欠な環境から切り離し、独自性を破壊する目的で新疆ウイグル自治区から各地に送られている。勤務時間外に政治学習などが行われ、帰りたい時に自宅にも帰れない。唯一の望みは外部からの圧力。この時代に、こうした非人道的なことは放置できない、ウイグル人に限らずこうしたことが世界中どこで誰の身に対して起きても放置できないという圧力が世界中からあって初めて解決に向かう」と語った。

会見に同席した中国研究者の阿古智子・東京大学大学院教授は、貧困対策としてウイグル人を各地に送り、雇用を与えているという中国の主張に異を唱えた。一方、中国では漢族に対しても貧困対策として労務輸出をはじめ、住む場所の移転、要望を聞くことなく雇用をあてがうといったことが行われてきた例を挙げ、「悲観的に思うのは、中国ではこの問題が悪いことと認識されていない恐れがあることだ。人権に対する考え方が一般的な民主主義国家とは違う。このことを私たちはすごく真剣に考える必要がある。これからの世界秩序を作っていく上で、私たちが正しいと思うことを正しくないと思う国とどう付き合っていくか考えていかなければならない」と語った。同時に、欧米の研究者らが報復措置で入国できなくなっていることにも触れ、中国研究者としてこの問題を語ることで、今後中国に行くのをためらう気持ちもあると吐露した。

SDGs時代に、企業や国は人権尊重をどう体現するのか

ビジネスと人権の専門家で、ヒューマンライツ・ナウの事務局次長を務める佐藤暁子弁護士は、「取引を続けるということは、自らの意思に反する、尊厳に反する状態を継続させるということだ。企業はこうした権利が侵害されないように尊重する責任を負っている」と説明。国連「ビジネスと人権に関する指導原則」で求められている、サプライチェーン上で発生する人権に関する負の影響・リスクを特定・評価し、予防や軽減、救済を行うプロセス「人権デューデリジェンス」を実施することの重要性を強調した。

日本でも昨年10月、政府がビジネスと人権に関する国別行動計画を発表している。そのなかで、人権を尊重する企業の責任を促すための国の取り組みとして、指導原則に基づく人権デューデリジェンスの実施を促す。佐藤弁護士は「指導原則は国が元々負っている人権を保護する義務を実行するもの」とし、企業が人権尊重の責務を果たせるよう政府による支援も必要だと対応を求めた。

人権デューデリジェンスを巡っては、現在、EUでバリューチェーンにおける人権と環境に対するデューデリジェンスの義務化が進んでいる。現地法人がなくても、EU域内で活動する日本企業にもその対応が求められる。今回の問題で取引停止を表明したアディダスやH&Mなどグローバル企業26社は昨年9月、EU全域でのデューデリジェンスの義務化を求める共同声明を発表し、企業も足並みを揃える形でサプライチェーン上の人権への対応を進めている。また、すでにEUのほか英国、オーストラリア、米カリフォルニアでは、サプライチェーン上の人権の取り組みの開示を義務付ける法律が存在する。

投資家も注視

企業に人権の尊重を求めるこうした動きは1990年代から高まってきた。さらにコロナ禍で、雇用や人種などの人権問題を含むさまざまな社会的課題が浮き彫りになるなか、ESG投資においても「S(社会)」を重視する流れが生まれている。

ヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士は、「最終的には機関投資家が離れていく。(ミャンマー国軍系企業と合弁事業を行っていたことで、機関投資家が投資対象から除外する可能性のある監視対象に加えた)キリンホールディングスの事例などをみても、日本企業の人権に対する行動は見られている。中国による制裁を恐れるということはあると思うが、プリンシパルを持って活動することが大事だ」と語った。

実際に、投資家も動きを見せている。『S&P Global Market Intelligence』によると、ESG投資指標「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)」で知られる評価会社、米S&Pグローバルは強制労働の疑惑を受け、アップルなど数社のESGスコアを引き下げたという。また、世界の9000社以上に投資しており上場株式の約1.5%を保有する、世界最大の政府系ファンド、ノルウェー政府年金基金は3月、強制労働に関与する企業の特定を始めたとし、上期に勧告を行う可能性があるとロイターの取材に答えている。さらに、300以上の機関投資家が加盟する米国の団体「Interfaith Center on Corporate Responsibility(ICCR)」の後押しにより50以上の機関投資家が、該当する40社以上にサプライチェーンの情報開示と、人権侵害を引き起こす状況を回避するよう求めていることも報じられている。

日本では、今年6月に施行する上場企業を対象とするコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の改訂案でも、取締役会が取り組みを検討すべき重要な経営課題である「サステナビリティをめぐる課題」として、気候変動などの地球環境問題とともに人権の尊重が初めて明記された。

しかし現状では、日本企業の人権への関心は高いとは言えず、取り組みが遅れている。佐藤弁護士は「人権も気候変動も多岐にわたる。企業も省庁も、各施策について横断的に課題への対策が反映されているかどうかを見る構造、つまり企業であればコーポレートガバナンス、国であればガバナンス、ここにおける取り組みの不足が日本の対応の遅れにつながっている」と指摘した。

サプライチェーン上の人権侵害がもたらすリスクは、投資の引き揚げや取引停止、ブランドの毀損、不買運動など広範囲におよび、企業・ブランドの存在意義に直結する問題だ。コロナ危機を経験し、新しい社会経済を築こうとする流れのなかで、世界はどういう秩序や倫理観で立て直しを図るのか。中国市場と欧米市場で異なる対応をとるダブルスタンダードが果たして成立するのか、それは長期的に企業・ブランドにどのような影響を及ぼすのかーー。地政学的リスクをはらむ難問を前に、企業は誰のものか、という命題が改めて企業のみならず社会にも問われている。

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小松 遥香 (Haruka Komatsu)

Sustainable Brands Japan 編集局デスク。アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。