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モビリティカンパニーとして「幸せの量産」に挑む――大塚友美・トヨタ自動車デピュティ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー

Interviewee
大塚友美・トヨタ自動車デピュティ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー
Interviewer
足立直樹・サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー

自動車をつくる会社からモビリティカンパニーへと変革を進めるトヨタ自動車は昨年、SDGsに本気で取り組むことを宣言し、新たな経営理念「トヨタフィロソフィー」を掲げた。社内外のさまざまなステークホルダーに向け、コロナ危機において「自動車が日本経済のけん引役になりたい」という強い思いを発信している。100年に一度といわれる自動車産業の大変革期に、同社はどのようなサステナビリティ戦略を描き、どのようなモビリティ社会の未来を描いているのか――。大塚友美デピュティ・チーフ・サステナビリティ・オフィサーに聞いた。

マルチステークホルダーの視点で取り組む

足立:コロナ禍に見舞われた昨年(2020年)、御社は2月にサステナビリティ部門を統括するチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)を新設し、早川茂副会長がCSOに、大塚さんが副CSOに就任され、5月に開かれた2020年3月期決算説明会では豊田章男社長が「SDGsに本気で取り組む」と宣言されるなど、経営戦略がサステナビリティに向かって大きく動いた1年だったと感じています。なぜこのタイミングだったのでしょうか。

大塚:弊社は創業時から、自動車産業の確立を通して社会経済の発展に寄与する「産業報国」の精神を掲げた「豊田綱領」を企業理念として大切にしており、その精神はSDGsと一致しております。

昨今、サステナビリティ全体に対する注目度がさらに上がる中で、あらためてESGも含めてサステナビリティへの取り組みを強化していくことを決めました。そこで2019年にサステナビリティ推進室をつくり、ステークホルダーの方々とのエンゲージメントを強化していくためにCSOを設置することにいたしました。5月に社長がSDGsについて初めて言及し、宣言をしたのは、一つにはやはりコロナ禍でみなさまが苦しんでおられる中、復興のけん引役として少しでも日本を元気にするお役に立てれば、という一心でした。

足立:サステナビリティに関してステークホルダーへのエンゲージメントを強めると言ったとき、どういったステークホルダーをいちばんに想定し、重視していらっしゃるのでしょうか。

大塚:すべてのステークホルダーを重視しなければならないと考えております。私は以前、モータースポーツとスポーツカーを担当する部署におり、社長の豊田と間近に接する機会が多くありました。豊田は、車の限界性能を試し開発につなげること、そして、クルマ好きのみなさまを大切にしたいという2つの思いでモータースポーツに取り組み、メカニック、ドライバー、主催者、ファンのみなさまなど、いろいろな立場のステークホルダーの方々と話し、その中で気付いたことをスピード感を持って形にしています。それを見て、モータースポーツに限らず、自動車ビジネス全体ですべてのステークホルダーの視点に立つことがビジネスチャンスにもなりますし、とても重要だということにあらためて気づかされました。

足立:なるほど。示唆に富むお話ですね。株主といえば、最近はESGという面にも関心が高まっています。御社に対しては、これまで財務的な部分で業績に対しての期待が高かったと思いますが、近年はESG、サステナビリティに関するような問い合わせが増えていると感じられますか。

大塚:はい。とても増えています。日本はもちろん北米や欧州の株主、投資家の方々と直接IRのメンバーがエンゲージメントをさせていただいており、私が同席することもあります。特に欧州では非常にこの部分に対する期待が高いと感じます。弊社は、まだまだやらなければならないことがあると思っています。世の中の期待値を受け止め、共通言語であるSDGsも含めて、コミュニケーションしていくことの重要性を感じています。

足立:ESGの中で、御社に対しては投資家やアナリストもモビリティの未来に関しての期待は当然大きいと思いますが、それ以外の、社会に関する質問も増えているのですか。

大塚:はい。まさにソーシャルの部分で、サプライチェーンの人権の問題ですとか、ダイバーシティの取り組みを進めていく必要があると考えています。そういうことも、今回、サステナビリティにより本格的に取り組むこととなった背景の一つです。

コロナ禍で「社会のためにできること」が加速

足立:先ほどお話に出ましたが、コロナ禍で多くの方々が大変な思いをする中、サステナブル・ブランド ジャパンでは昨年4月の段階で、企業のウェブサイト上での対応を調査しました。すると、グローバル企業では、自社のリソースを使ってどうパンデミックに立ち向かうかということに力を入れ、新型コロナウイルス感染症を一緒に乗り越えていこうとコミュニケーションしているところが多かったのですが、日本企業のウェブサイトではそれまでのトップページのままの企業が多くありました。その中で、御社のトヨタイムズの動画では、豊田社長が全世界のサプライチェーンや社員に向けて「明けない夜はないから頑張ろう」ということをおっしゃっていて、トップ自らがああいうメッセージを訴えていたことが印象に残っています。

大塚:弊社はその段階で、新型コロナウイルスに対する考え方をニュースリリースやHPなどを通じて発信しました。こういう時だからこそ自動車産業が頑張ることの意義は大きく、感染拡大は抑えながらしっかりと稼働を続け、車を1台でも多くお客さまに届けて経済を回し、社会に貢献していこうというものです。もし、それができないのであれば、生産性の秒単位の改善などこの間に競争力を高めることをしようと。

もう一つは、やはりモノづくりで培った力を通じて特に医療現場の方々のご支援をしていきたい、何かやれることはないか、ということで、フェイスシールドやマスクの生産を行いました。また、日本でも大量の医療用防護ガウンが必要になりましたので、防護ガウンを生産する企業に社員がうかがい、やりにくい作業を見直すなど、トヨタ生産方式のノウハウによって、支援させていただくといったことにも力を入れてきました。

足立:そういう活動はどの部署が中心となって動かれていたのですか。

大塚:自然発生的にと言いますか、それぞれの部署がやれることから始めましたが、国内ではデイリーにミーティングを行い、海外とも情報共有をすることで、展開を図ってきました。

人を中心に据え、幸せを量産する

足立:大塚さんが副CSOに就任された段階で、そもそも環境(E)だけではなく、SやGも含めたサステナビリティの中でどの部分にいちばん力を入れていくかというのは決まっていたのでしょうか。

大塚:決まっていたわけではありません。ただ、私どもは100年に一度と言われる自動車産業そのものの大変革期にあって、モビリティカンパニーとして大きく変わっていこうとする中、変わらない軸として、昨年、豊田綱領を頂点とする「トヨタフィロソフィー」を策定しました。その中で、「幸せを量産する」をミッションに、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」ことをビジョンに掲げております。ここでの考え方は、今後、車が単体でというよりは、社会システムの一部として存在していく上で、今までのお客さまだけではなく、マルチステークホルダーの観点を大切にし、人を起点とし、人を中心に据えた経営をやっていこうというものです。

足立:その、トヨタフィソロフィーの中で、いちばん気になるのはミッションとビジョンです。「幸せを量産する」というのは少し漠然とした印象も受けますが、具体的にはどういう意味でしょうか。

大塚:そうですね。幸せがガチャンガチャンと量産されていくようなイメージを持たれてしまうかもしれませんが、実はこの量産というところが肝です。実験室レベルで素晴らしいものを一つ、二つつくったとしても世の中全体の幸せにはつながらないんじゃないか、環境性能に優れた車にしても普及してこそ意味があると考えています。ハイブリッド車をはじめとする電動車についても、みなさまに使っていただけるものを早く導入することが大事だということで進めており、そういう意味で、量産ということにすごくこだわりがあります。

その一方で、これからの量産というのは画一的なものをお届けすればいいというものではなく、やはり人を中心に考えることがすごく重要です。いろいろなステークホルダーの方を想像し、イマジネーションの力を持って量産に挑んでいくという、ものすごく難しいことではありますが、それが私たちのやらねばならないことだと考えています。

足立:同じモノを量産するのではなく、より多くの人が幸せになることをサポートしていくという意味合いが込められているわけですね。では、「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」というビジョンについてお聞きしたいと思います。まず、モビリティという言葉をあえて「可動性」という日本語にしているのはどういう思いからでしょうか。

大塚:人とモノの両方にかかる言葉として「可動性」と言っています。モノを効率的に動かすということはトヨタ生産方式の根本的な考え方であり、人とモノの両方の流れを担うことによって社会に貢献していくのだということを示したものです。同時に、一人ひとりの人間がアクションを起こすことの重要性もこの言葉には込めています。豊田は社長に就任して以来、トヨタらしさを取り戻す闘いをする、と言っています。本来、豊田綱領にあるように、自分以外のだれかのためにやってきた会社だったのが、収益やボリューム偏重になってしまっていたのではないか、そういう反省を踏まえ、皆がもう一度原点に立ち戻ってアクションを起こしていくんだという思いです。

足立:つまり、単に移動する能力ということではなく、人間の能力、アクションを引き出すような可動性ということですね。

そういう思いをどう伝えるかということがすごく重要なのだと思いますが、それで思い出したのが、初代プリウスが出た時のコマーシャルです。「21世紀に間に合いました」というコピーと、実験車のような車が市販の車になったというのはものすごい衝撃でした。今からすれば、あれがトヨタ流の解答の示し方だったということですね。

一方で、最近の動きを見ていますと、少し世の中の状況が変わってきたのではないでしょうか。昨年末に発売された燃料電池車「MIRAI(ミライ)」は、初代のものに比べて遥かに実用的になったと感じますが、今、世界はさらにその先を語っていて、ミライが語っている未来が現実にこだわり過ぎているのではないか、私たちはもっとその先の未来も見てみたいという思いがあります。そこの辺りはどんなふうに考えておられますか。

大塚:そうですね。おっしゃる通り、先ほどのステークホルダーとのコミュニケーションの話もそうですが、これまでのトヨタは確実なものになるまで外部にお伝えしない、というようにコミュニケーション全般に少し守りの姿勢がありました。今は、先々に向けたビジョンや、少なくともこういう意志を持っているんだということをお伝えするのが大事な時代ですので、しっかりやっていきたいです。

足立:そこのさじ加減はすごく難しいと思うのですが、御社はやはり日本の企業というよりは世界的な企業です。世界のステークホルダーが御社に期待していることはもっと遥かに先をいっているのではないかという気がします。国ごとに、地域ごとに、ステークホルダーの求めるものが分かれてきていますからね。

大塚:そうだと思います。バランスが難しいところはありますが、意欲的に、本気で取り組むところについてはお伝えした方がいいと思っております。例えば環境面ですと、欧州では再エネがかなり普及し安価になっていますが、地域によってエネルギーミックスの状況はかなり異なります。弊社としては、各地域の状況に合わせ、環境にとってベストなものを選んでいただけるように努めています。そういったところをもう少し、上手にお伝えできていれば良かったのかなと思います。

Woven Cityは、人中心の実験都市

足立:やはりCO2排出量実質ゼロに向けてどうなるのか、日本でも2030年代後半には脱ガソリンにということが議論になっていますが、海外ではハイブリッドを含めて2030年代には卒業だと言われています。御社は静岡県裾野市にWoven city(ウーブン・シティ)と呼ばれる自動運転などの実証実験都市を今年2月にも着工する計画を発表されていますよね。御社が2030年代、40年代、50年代にどういうロードマップを描かれているのかを知りたいです。

大塚:モビリティカンパニーへと変わっていく中で、ハードウェアだけではない会社になっていくことは間違いありません。CASE(コネクティッド、自動運転、シェアリング・サービス、電動化)の進展によって、クルマは都市のインフラに組み込まれ、コネクティッドカーから得られるデータは都市のビッグデータと連携することで、サービスの創出や社会課題の解決につながる可能性を持ちます。ですから、モビリティサービスは、都市のプラットフォームと共に企画開発した方が良いと考えました。ウーブン・シティは、私どもが良いと思うことを実際に試せる、問題解決のために役立つと思えることを試せる実証実験場であり、リビングラボだと言っています。

足立:では、そこで何を実験するかがすごく重要になってきますね。ITによって便利なんだけれども管理されたような社会がつくられてしまうんじゃないかという懸念も一部ありますが、そういうことではなく、もっと人間の創造力を伸ばすようなモビリティ、可動性を生かすような実験の場であるのですね。

大塚:そうです。人を中心に、というのはまさにそういうことです。住んでもらう人たちは高齢者と子育てファミリーと発明家と決めております。高齢者と子育てファミリーは世界的にみてもさまざまな課題を抱えている層です。その方たちと発明家が一緒に住むことで身近なところで問題を発見し、その場でソリューションを考えていく場にしたいと考えています。巨大なシステムでがんじがらめになるというよりは、皆がいろいろなことを自由に試せる場になっていくでしょう。

足立:ありがとうございました。大塚さんには、2月24−25日に開催するサステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演にもご登壇いただきます。そちらでまたお話をうかがえるのを楽しみにしています。

インタビューを終えて

足立直樹

トヨタと言えば、日本を代表する企業であると同時に、環境・サステナビリティのランキングでもトップクラスに位置しています。しかし、最近は社会面やガバナンス面で企業が評価される機会が増えてきましたし、環境面でも世界はZEV/電動化へのシフトを加速しています。

そうした中、昨年トヨタがSDGsに本気で取り組むと宣言し、サステナビリティ重視の姿勢を示したことが注目を集めるのは当然のことでしょう。具体的にその何を目指しているのか、何をしようとしているのか、私も興味津々で対談に臨みました。

特にお聞きしたかったのが、昨年つくられたトヨタフィロソフィーに定義された「幸せを量産する」というミッションです。これは一見、「一人ひとりで異なるはずの『幸せ』を『量産する』のか?なんと前時代的な!」と誤解を招きそうです。もちろんそんなわけはないでしょうが、その真意は何なのか。サステナビリティとはどうつながるのでしょうか。

そんな疑問を大塚さんにぶつけると、それはガチャンガチャンとオートメーションで画一的なものを量産するのではなく、あくまで人を中心に考えるけれど、たくさんの人が幸せになれるようにという気持ちをこめての「量産」なのだとお答えいただきました。量産というあえて誤解を招きそうな言葉を使ったのは、一人や二人の幸せではダメなのだ、たくさんの人が幸せにならなくてはというトヨタならではのこだわりなのだという説明に、なるほどと腑に落ちたのです。

それだけでなく、人を重視することは今になって始めたことではなく創業時から一貫する考えなのだということや、SDGsは豊田綱領に謳われた「産業報国」という創業時からの理念に通じるというお話も印象的でした。

そう考えると、昨年打ち出したトヨタフィロソフィーやサステナビリティ重視の姿勢は、すべて創業の思い、すなわちパーパスに再びスポットライトを当てたということなのでしょう。トヨタもやはりパーパスを重視した経営をしてきたのです。

ところで、トヨタは今でこそ世界的な自動車メーカーですが、その出発点が自動機織り機メーカーであったことはご存知の方も多いでしょう。機織り機で培った技術を用いて、当時の最先端分野であった自動車へと大転身を図り、時代の流れに乗って世界に冠たる自動車メーカーとなったのです。

大塚さんのお話は、そのトヨタが今再び華麗な転身を果たそうとしているのではないか、そんなことを予兆させてくれました。そして転身後に果たしてどのような姿になるのか、これからの展開がますます楽しみになりました。


文:廣末智子 写真:高橋慎一

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大塚 友美(おおつか・ゆみ)
大塚 友美(おおつか・ゆみ)

トヨタ自動車株式会社 Deputy Chief Sustainability Officer
1992年 トヨタ自動車㈱入社。初代ヴィッツ等国内向け商品の企画、ダイバーシティプロジェクト等の人事施策企画・推進、海外営業部門にて収益・人事管理、未来のモビリティのコンセプト企画、GAZOO Racing Company(モータースポーツ・スポーツカー)統括など複数分野を経験。途中、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスにてMBA取得。2020年2月より Deputy Chief Sustainability Officer(新設)として サステナビリティへの取り組みを担当。

インタビュアー足立 直樹(あだち・なおき)
足立 直樹

サステナブル・ブランド ジャパン サステナビリティ・プロデューサー
株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 / サステナブルビジネス・プロデューサー

東京大学理学部、同大学院で生態学を専攻、博士(理学)。国立環境研究所とマレーシア森林研究所(FRIM)で熱帯林の研究に従事した後、コンサルタントとして独立。株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、一般社団法人 企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB) 理事・事務局長。CSR調達を中心に、社会と会社を持続可能にするサステナビリティ経営を指導。さらにはそれをブランディングに結びつける総合的なコンサルティングを数多くの企業に対して行っている。環境省をはじめとする省庁の検討委員等も多数歴任。