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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

『社会インフラ』として自販機の利用性能拡充 日本コカ・コーラが国内初、スマホアプリで場所探しから購入までを手助け

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日本コカ・コーラによるアクセシビリティを拡充した新自販機のイメージ画像

日本コカ・コーラは25日、サステナビリティの取り組みの一環として、障がい者や高齢者がより自動販売機を利用しやすいよう、公式アプリのアクセシビリティ機能を拡充した新バージョンを公開した。視覚障がい者の、そもそも自販機がどこにあるのか探せないといった声や、通常、約1.5メートルの高さにある上段のボタンは車いすからは押せないといった声に応え、スマートフォンの振動で近くにある自販機の場所を伝えたり、音声読み上げ機能を使って自販機内の商品を検索・選択し、手元の画面操作だけで購入できるようにしたものだ。同社によると、スマートフォンアプリとの連動で自販機を探し、飲料を購入するまでの流れをアシストする仕組みの導入は国内初で、全国48万台の対応自販機で利用できる。(廣末智子)

日本コカ・コーラと全国5社のボトリング会社などで構成する日本のコカ・コーラシステムは、飲料業界の中でいち早く、1991年には、製品の取り出し口を高い位置に配置したバリアフリー自販機を導入するなど、自販機のユニバーサルデザイン化を推進してきた。2016年に公式アプリ「Coke on(コークオン)」を導入してからは自販機本体の機能とスマートフォンの機能を組み合わせることで、キャッシュレス化とともに多様な利用者のアクセシビリティの改善を進め、2024年2月現在、アプリは5200万ダウンロードを超えているという。

「コカ・コーラ自販機の進化の歴史」(日本コカ・コーラのプレゼンテーション資料より)

新バージョンのコークオンは、ホーム画面の、文字の大きな「クイックメニュー」から「自販機を探す」をクリックすると、近くの自販機を探して接続する機能が起動。自販機に近づくにつれてスマートフォンのバイブレーションが速くなり、振動で利用者に場所を伝える。自販機にたどり着くと、製品を画面で選択することができ、音声でも確認することができる(音声による検索機能は4月以降に追加)。

いかに視覚情報に頼ったサービスをつくっていたか――障がい者の声聞き、改良重ねる

今回のアップデートを前に、日本コカ・コーラは2022年、ユニバーサルデザインに関するコンサルティングを行うミライロ(大阪市)と共同で、視覚、上肢、下肢、体幹のいずれかの障がいのある人333人を対象にした「障がい者の飲料購入に関するユーザー調査」を実施。その結果、70%が日常的に自販機で飲料を購入し、32%がコークオンを利用、または利用したことがあると回答し、メリットとしては「キャッシュレス決済」(65%)、「スマホで飲料が選べる」(53%)などが挙げられた。一方、困る場面では「コカ・コーラ社の自販機を探す時」(46%)、「自販機とスマホを接続する時」(39%)が上位を占めたという。

この調査結果について25日、日本コカ・コーラ本社ビルで開かれた記者説明会の席上、同社のマーケティング本部 IMX事業本部 デジタルプラットフォーム部ディレクターの宇川有人氏は、「いかに我々が視覚情報に頼ったサービスをつくっていたのか。標準的な自販機には利用障壁があり、誰もが使えるものではないことに気付かされた」と述べ、そこから約1年半をかけてアプリの改良を行ってきたことを説明。今回のアップデートは「今後も継続して改善を行っていく中での現在地」であり、「さまざまな方にとっての使いやすさを改善していくことは社会インフラとしての自販機の使命だ」と強調した。

障がいのある人にとって新しい生活のインフラに――“デジタル手帳”と連携も

説明会には、ミライロの代表取締役社長、垣内俊哉氏も出席し、今回のコークオンアプリの新バージョンについて、「間違いなく、障がいのある人にとって新しい生活のインフラになる」と話した。なぜなら、自身も車椅子ユーザーである垣内氏を含め、現状では飲み物を自販機よりもコンビニやスーパーで買っている人が多いからだ。

障がいのある人を巡っては今年4月から、障害者差別解消法が改正施行され、行政機関や事業者に対して、「不当な差別的取り扱い」を禁止し、申し出があった場合に、負担が重過ぎない範囲で「合理的配慮の提供」を行うことが義務化される。その前提として、垣内氏は、「不特定多数の利用を想定した「事前的改善措置」の必要性を挙げ、「自販機のアクセシビリティ向上は合理的配慮と事前的改善措置の両面を満たした新たなアクションであり、今後、多くの企業の手本になる」と評価した。

25日の新アプリ発表会に参加したミライロの垣内氏(左から2人目)と日本コカ・コーラの関係者ら

一定以上の障がいのある人に交付される「障害者手帳」は、制度の根拠となる法律等によって異なり、垣内氏によると、現在日本では283種類ある。ミライロではこれを一つにすることで、手帳を提示する障がい者と、それを確認する事業者双方の負担を軽減させる “デジタル手帳”として、障害者手帳を所持する人を対象としたスマートフォンアプリの『ミライロID』を2019年に導入しており、現在、ユーザー数は30万人を超えるという。

新バージョンのコークオンアプリはこのミライロIDと連携していることも特徴で、4月8日から、コークオン内の登録ページでミライロIDの認証を行うと、ドリンク購入時にもらえるスタンプが常に倍になるなどの特典が受けられる。

ミライロと連携した障がい者への割引の狙いについて日本コカ・コーラの宇川氏は取材に対し、「さまざまな生活のシーンで相対的に制限を受けることの多い障がい者の社会活動を後押しする狙いがある」と説明。また同社のベンディングオペレーション部門でバイスプレジデントを務めるレハン・カーン氏は、現在、日本で88万台ある同社の自販機を「2030年までに100%コークオンアプリ対応にすることを目指す」考えを表明した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。