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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

誰もが尊重し合える社会づくりとは NPO代表らが議論

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朝山氏、宮治氏、松中氏

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の重要性が叫ばれて久しい昨今、私たちの暮らす日本は誰もが誰もを本当の意味で尊重し合える社会に近づいていると言えるだろうか――。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では、「日本を変える3つのNPOと考える〜尊重し合える社会づくりとは〜」と題したセッションが行われ、全く違う分野での活動を展開するNPOの代表3人がそれぞれの思いを語りつつ、どうすれば人はこうあるべき、といった固定観念から抜け出すことができるのかといったテーマで意見を交換した。そこから見えてきたのは、一人の人間として、自分の物差しだけではなく、いかに想像力を持って相手の立場に立った行動ができるかどうかという感性の大切さだ。(廣末智子)

ファシリテーター:
木村則昭・オルタナ総研 フェロー
パネリスト:
朝山あつこ・キーパーソン21 代表理事
松中権・グッド・エイジング・エールズ 代表
宮治勇輔・農家のこせがれネットワーク 代表理事

子どもの『わくわくエンジン』を引き出す

「ちゃんとしなさい」「あなたのためよ」「何やってるの?」

自分に自信が持てず、意欲をなくしている子どもたちにそんな言葉を掛けていないか。朝山氏はそれらを絶対に掛けてはいけない『呪いの言葉』だという。「呪いをかけられ続けているうちに、自分の人生なのに他人事のように生きている子ども、大人がたくさんいる」。その現状を変えるために取り組んでいるのが、『わくわくエンジン』と名付ける、子どもが一歩を踏み出すための原動力を引き出す仕掛けづくりだ。

例えば野球の好きな子であれば、野球の何が好きなのか、どうしてワクワクするのか、と理由を問うことで、作戦や戦略を立てることが好きな子、チームでの達成感がワクワクするという子、筋トレや素振りなど日々の成長に嬉しさを感じている子・・・とそれぞれの違いが見えてくる。

「大事なのはそのワクワク!作戦を練るのが好きな子なら、地域のお祭りにどうやったら人が集まるかを一緒に考えることで、一歩を踏み出すための経験を積ませてあげられる。『わくわくエンジン』を引き出し、認め、伴走する。子どもの背中を押してあげる」

そのための対話トレーニングを、保護者や教員だけでなく、企業や行政関係者など地域の『第3の大人』たちに行い、20年で関わった子どもは5万人を超える。

地域の伝統や文化、歴史をつなぐのは家業の役目

「自分にしかできないことはなんだろうと考えた時、実家に帰って親父の跡を継ぐことじゃないかと。一次産業をカッコよく、感動があって、稼げる『3K産業』にしたいと思った」

藤沢市で養豚業を営む傍ら、自分と同じ農家の後継者のネットワークを立ち上げ、さらには農業の枠を超えてすべての家業の後継者に向けた情報交換の場づくりを行う宮治氏はそう振り返る。

宮治氏によると、世界の創業100年を超える企業のうち約40%、200年を超える企業では約65%が日本の企業で、「日本は世界一の家業大国」であると言える。そうしたなか、「社会や時流の変化に対応できずにビジネスモデルが賞味期限切れになっている」企業も多くあるのが現状だ。

「地域の伝統や文化、歴史をつなぐのは家業の役目。会社を潰さず、どう襷をつないでいくか。われわれ後継者自身だけでなく、日本人一人ひとりが考えなくてはいけないのではないか」

LGBTQ +の人たちの問題を可視化「誰もが命に関わる」

一方、日本でも9割以上がその言葉を知っているとする調査結果が出るなど、認知度が急速に高まっている「LGBT(レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を指す)」に、「Q」と「+(プラス)」を加えた「LGBTQ +」について、松中氏は「『Q』は自分の性の在り方が定まっていないクエスチョニング(Questioning)や、そもそも人と違っているということをポジティブに捉えるクィア(Queer)を、『+』はそうしたさまざまな性的少数者の広がりを表す」と説明。さらにそうした人たちが、「日本では人口の5〜10%、左利きの人やAB型の人、佐藤、田中、鈴木、高橋さんと同じくらい存在する」と述べ、いかに身近な存在であるかを強調した。

今ではちょっとした秘密を告白することのように使われる「カミングアウト」という言葉は、もともと自分の本来の姿を仕舞い込んで生きるLGBTQ +の人たちに対して比喩的に使われた「Coming out of the closet (洋服ダンスから出てくる)」が語源とされる。つまり今でも多くの人が「偽の姿」で暮らしているため、周囲に気づかれない。

さらに、社会の中で、車椅子に乗っている人であれば、段差に困るだろうなと手を差し伸べることもしやすいが、LGBTQ +の人たちの場合、「目に見えやすい違いがないので、何に困っているのかも見えづらい」ことから、これを可視化する活動に取り組んできたという。

自身もゲイ当事者である松中氏は、2016年、ある事件をきっかけに会社を辞め、活動に専念することを決めた。出身校でもある一橋大学の学生がゲイであることを友達にカミングアウトしたことで噂が広がり、心を病んで校舎6階から転落死した、「一橋大学アウティング(本人の了解を得ずに他の人に公表していない性的指向などの秘密を暴露すること)事件」だ。

「僕自身も大学時代、ホモネタ、レズネタで笑いをとってごまかしていた経験があった。つまり、そこにいたのは僕かもしれない。誰もが命にかかわる問題だと痛感した」

自らの性的指向について悩み始める思春期。LGBTQ +の若者の自殺率は数倍高い(LGBは6倍、Tは10倍)と言われている。「それを変えていきたい。そういう子たちの居場所をつくりたい」。

共通点は「背中を押す存在が要る」こと

3者の活動の共通点はどこにあるのか。キーワードを挙げるなら、それは伴走支援になるだろう。

宮治氏は、朝山氏の発表を聞いて、「子どもの背中を押す存在(としての大人)が要る、というところに、家業の後継者問題と同じものを感じた。後継者が良かれと思って提案しても、大抵は先代から『そんなの無理だ』と言われるのが関の山で、どうしても周りの支援が必要だからだ」と話した。

つまり、いくつになっても親が子どもに投げかける『呪いの言葉』がある、ということ。朝山氏は、「その否定的な言葉を跳ね返す、自分の信念が『わくわくエンジン』だ。それが分かると頑張るエネルギーになる」と、子どもに寄り添い、原動力を引き出すためのプロセスの大切さを強調し、宮治氏も「まさに家業の後継者にも必要な視点だ」と応じた。

大人の子どもへの接し方については、松中氏も「よく『そんなんじゃ幸せにならない』といった発言を聞くが、その幸せは、あなた(発言者)が思う幸せだからと。この子にとっての幸せはこの子にしか分からないし、自分でつくる力があると思う」と主張。さらに「どうしても人は、『結婚もしない、子どもも持てないゲイカップルは幸せじゃないよ』などと、自分の物差しで他人の幸せを測ってしまいがち」と指摘し、「そうではなく、自分達にはこういう幸せの姿がある、ということをお互いがリスペクトできるといい」と続けた。

いろいろな課題にそれぞれが取り組んでいるからこそ社会は良くなっていく

会場からは大学生が質問に立ち、「私自身、何をしたらいいのか分からないという中学生のいとこにどう答えればいいか分からなかったり、ジェンダーのことについても、知らず知らずのうちに偏見の目を向けていることがあるのではないかと思った。相手の立場に立つために、自分の物差しとは違う物差しを増やしていくにはどうしたらいいのか」というストレートな投げかけもあった。

これに対し、朝山氏は、「答えは子どもの中にある。教えるのでなく、子どもから答えを引き出すという眼差しを大切にして」と再度、対話の重要性を強調。松中氏は「あなたは存在しているだけで素晴らしいと伝える。あなたには何かあるはずだ、何かにならないといけない、と言うのでなく、今のままでも大切な、かけがえのない一人なんだという自己肯定感を持たせてあげることだと思う」と語った。

また宮治氏は「ファミリービジネスの大切さを話す僕と、女性だから男性だからという固定観念に縛られないことの大切さを訴える松中さんとでは結構真逆にあるのかもしれない」とした上で、「要はそれぞれの立場で、みんな違ってみんないい、ということ。それこそが多様性ではないか」と指摘。最後に「いろんな分野の課題に対してそれぞれの人が取り組んでいる。だからこそ少しずつ社会が良くなっていく。視野を広く持てるんじゃないか」と述べて、セッションは終了した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。