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脱炭素を加速させるソーシャルイノベーションの起こし方

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坂野氏、坂本氏、長谷川氏、遠藤氏(左上から時計まわり)

企業の脱炭素に向けたシフトが喫緊の課題となっている今、社会を変えていくソーシャルイノベーションの必要度が増している。サステナブル・ブランド国際会議2022横浜では脱炭素に向けた社会的なイノベーションを他社に先駆けて取り組んでいる企業や組織が登壇し、具体的な施策やその先のトランスフォーメーション(変革)につなげるために重要なポイントについて話し合った。そこからは分野を横断した共創、社会を巻き込んでいくポジティブな呼びかけ、プラットフォームや仕組みづくり、企業と行政の間に立つブリッジ人材などが欠かせないことが明らかになった。(環境ライター箕輪弥生)

ファシリテーター:
古野 真・三井住友信託銀行 ESGソリューション企画推進部 主任調査役
パネリスト:
遠藤理恵・セールスフォース・ジャパン サステナビリティ&コーポレートリレーション 執行役員
坂野 晶・Green innovation理事、ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事
坂本尚也・ウフル 常務執行役員
長谷川琢也・ヤフー SR推進統括本部 Yahoo! JAPAN SDGs編集長

他企業を巻き込むポジティブな呼びかけを――セールスフォース

顧客管理を中心としたクラウドサービスを提供するセールスフォースは昨年9月、自社のバリューチェーン全体での温室効果ガス実質ゼロを達成した。

同社はサービスを提供するだけではなく、自らが排出量ネットゼロを実現することで脱炭素へ向かうソーシャルイノベーションへの道を他社に示している。

遠藤理恵氏は、「ビジネスこそが世界を変える最良のプラットフォームだ」というマーク・ベニオフCEOの言葉を紹介し、脱炭素を加速させるために作成した「気候変動アクションプラン」について説明した。

それによると、同社は自社で再生可能エネルギーを調達し、生態系の回復に向けて、2030年までに1兆本の樹木を保全・回復させる世界経済フォーラムのイニシアティブの発起人となった。さらに今年3月には企業の環境データを可視化し、排出量削減につなげるクラウドサービス「Net Zero Cloud」の提供を開始した。

加えて、気候政策に対する国への働きかけや、社員が自ら環境について学んでアクションを起こしていく「アースフォース」などの取り組みも紹介した。

遠藤氏は、「1.5℃の未来をつくっていくためには、自社だけの取り組みではなく、他の企業が一緒に行えるフレームをつくることが必要だ」と指摘する。

ファシリテーターの古野真氏からの「今後のトランスフォーメーションに資するようなプラットフォームはどのようなものか」という問いかけに対して、遠藤氏は地域社会をよりよくするために就業時間の1%、株式の1%、製品・サービスの1%を社会に還元する同社の「1-1-1 モデル」を紹介した。

遠藤氏によると、世界中で1万5000社を超える企業がこのモデルを導入し、そのインパクトの大きさに驚いたという。

この例でみられるようにソーシャルイノベーションを起こすポイントとして、遠藤氏は次のように指摘した。

「まず枠組みをつくり、これをすることでこんなにいいことが社会や環境にあり、それを実践するとこんな風に企業価値が上がります、といったポジティブな呼びかけで社会を巻き込んでいくことが重要だ」

排出量の可視化と共創推進力が重要――ウフル

ウフルは、前述のセールスフォースのクラウドサービス「Net Zero Cloud」の開発にも関わり、ビジネス、クリエイティビティ、テクノロジーを掛け合わせて企業や社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)とデータ活用を支援・推進している企業だ。

同社は製造業などの温室効果ガスの可視化に取り組み、グローバルなプラットフォームをつくっている。

一方で、ローカルでは和歌山県白浜町にオフィスを構え、地域でドローンやモバイルオーダー、センシングなどさまざまなテクノロジーを使って、地域活性化をはかり、防災にも強いスマートシティをつくる試みも行う。

たとえば、和歌山県すさみ町では、スマホで注文するとドローンを使ってとれたてのカツオが漁港から道の駅に届き、レストランで提供されるといった新しい試みを提案している。

同社の坂本尚也氏は、「脱炭素ビジネスには共創推進力が重要だ。いろいろな人やものをつなげていってエコシステムを形成することで、新たな力を生み出していける」と話す。さらに、「それをいかに仕組み化していって取り組み自体を広げていくかが重要だ」と指摘する。

さらに脱炭素の取り組みを広げるためには「可視化した情報をいかに自分ごとにするためのインセンティブに置き換えられるか」も大事なポイントだと強調した。

企業版ふるさと納税の制度を活用して、地域の脱炭素を加速――ヤフー

ヤフーの長谷川琢也氏は、東日本大震災後2012年に石巻へ移住、「ヤフー石巻復興ベース」を開設し、地域が抱えるさまざまな課題を解決するための取り組みを数多く実行してきた。

その経験やネットワークを生かし、昨年の4月から「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」と、9月からはウェブマガジン『Yahoo! JAPAN SDGs』の編集長も兼任する。

「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」は、企業版ふるさと納税の制度を活用して、地域の脱炭素の取り組みを支援するもの。4月から公募し、応募した地方公共団体から10団体を選定、総額約2.6億円の寄付を行なった。

選定のポイントは、1.脱炭素に対する直接的なインパクトがあるか、2. 独自性、地域性があるか、3. 横展開して全国に広がる可能性があるかの3つだ。

選定されたプロジェクトは、全国各地に散らばり、資源循環から里山の活用、未利用資源を活用したエネルギー事業などさまざまだ。

長谷川氏は「これからの脱炭素の事例になりうるような案件に寄付をさせていただいた」と話す。

分野横断と世代縦断の場づくりでイノベーターを育成――グリーン・イノベーション

ゼロ・ウェイストタウンとして知られる徳島県上勝町で活躍し、リサイクルなどの「ごみにしない」モデルに加え、「ごみを生み出さない」モデル(循環型の生産・流通・販売モデルなど)をグローバルスタンダードにすることに取り組むゼロ・ウェイスト・ジャパンの坂野晶氏は、昨年7月にもう一人の共同代表と一緒に「グリーン・イノベーション」という一般社団法人を立ち上げた。

これは、脱炭素社会の実現に向け、2030年までに経済と環境の好循環を生むイノベーターを数多く育成することを目的とする。

坂野氏は「今の私たちの行動が2050年の未来をつくっていける」と話し、「大きな変化を起こしていかなければならない時に必要なのはイノベーションであり、1企業や1産業の中だけではイノベーションは実現できない」と団体立ち上げの背景を説明した。

そのために、企業、政府、市民、教育現場が連携する「クワトロ・ヘリックス・シナリオ」を目指し、分野を横断しながら環境をつくっていきたいとする。

昨年10月から実際に学び、活動するプログラム「グリーン・イノベーター・アカデミー」がスタートし、学生100人、若手企業人が30人ほどプログラムに参加しているが、すでにグループワークで企業の壁を超えて協業する新規事業の立案も進んでいるという。

このような成果が生まれることについて、坂野氏は「分野横断と世代縦断の両軸がものすごく重要だと思っている」と話す。「いろいろな立場で葛藤している人の視点を得て、一緒にもやもやすると新たな気づきが生まれる」(坂野氏)

地域の脱炭素の加速に必要なことは

政府が「脱炭素先行地域」を全国100カ所以上に創出しようとしているように、地域での脱炭素を加速する改革の重要性が増している。古野ファシリテーターは「地域の特性を生かした脱炭素を加速させるためには何が必要か」と、共に地域に根差して活動してきたヤフーの長谷川氏とグリーン・イノベーションの坂野氏に聞いた。

「その地域にしかなくて、地元の人が大事にしているものをコアにして、それをIT技術などを使って見えるようにしていくと持続可能なプロジェクトになっていく」(長谷川氏)

「企業と行政の間に入るブリッジ人材(つなぎ役)が重要だ」(長谷川氏)

「ローカルでカスタマイズされていることを抽象化して、トランスレーション(翻訳)ができる方が重要になってくる」(坂野氏)

地域の人が当たり前と思っているような資源や取り組みの中にも、キラリと光り、大きく広がる可能性をもったものがある。それを拾い上げ、きちんと翻訳して広げていけるような人材の重要性が改めて浮かび上がった。

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。

http://gogreen.hippy.jp/