サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

DE&Iは生命線 公正性を組織や社会に浸透させるには

  • Twitter
  • Facebook
渡部氏、原納氏、秋山氏、向井氏 (左上から時計まわり)

サステナブル・ブランド国際会議の重要な視点の一つである「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン:多様性と包摂性)」。今年の会議ではこのD&IにEを加え、「DE&I」にフォーカスしたセッションが行われた。EにはEquity(エクイティ、公正性)のほかEquality(イクオリティ、平等)やEngagement(エンゲージメント、従業員や顧客との関係性、約束)、Empowerment(エンパワーメント、能力を引き出すこと)などさまざまなキーワードを充てることができ、それらはすべて、企業や社会にとって生命線にもなる重要な要素だ。それぞれに人生の出発点が違い、能力や個性も全く違う人たちのパフォーマンスを最大に引き出し、ともに未来を築いていくために社会はどうあるべきなのかーー。多様な登壇者による議論を紹介する。(横田伸治)

ファシリテーター
山岡仁美・サステナブル・ブランド ジャパン D&Iプロデューサー 
パネリスト
秋山典子・QVCジャパン カスタマーサービス&エクスピリエンス ディレクター 
原納浩二・大和ハウス工業 上席執行役員 都市開発部長 都市開発部門担当      
向井恒道・商船三井 フェリー・関連事業部 部長         
渡部 カンコロンゴ 清花・WELgee 代表         

属性にとらわれず、誰に対しても共感を――QVCジャパン

QVCジャパンの秋山典子氏は初めに、背の違う3人の子どもが塀を前に立っているイラストを示し、「3人に同じ大きさの箱を平等に配っても、その上に立った時、背の低い子はまだ高さが足りずに向こう側を見ることができない。だが、背の低い子には箱を2つ、中ぐらいの子には箱を1つ配ることで、全員が塀の向こうを見ることができる」と説明。

同社の目指すDE&IのEは、この、それぞれの状況に応じて公正に箱を配る「Equity」を大事にしている。さらに、「属性にとらわれず、誰に対しても共感を持って行動することでお互いに思いやりを持つ」観点から、「Empathy(エンパシー、共感)」にも軸足を置き、それらを行動指針に掲げているという。

2021年にはグローバルの有志従業員らでつくるDE&I推進グループが発足。日本でも「民族+人種」「LGBTQ+」「ジェンダー」「メンタルヘルス」「障がい+年齢」の領域で、社内セミナーや外国籍社員へのインタビュー動画の制作など、啓発が活発に行われていることが紹介された。

地域全体のエンゲージメントやエンパシーに――大和ハウス工業

大和ハウス工業は、郊外型住宅団地の新たな価値を創出する「再耕」事業を全国で推進している。兵庫県三木市ではその一環で、団地内に同社が開発したミニ胡蝶蘭の栽培施設をつくり、地域の障がい者や高齢者ら誰もが働きやすい職場を提供しているという。

同社の原納浩二氏は、この施設でインターンを経験し、今春就労する女性が「ミニ胡蝶蘭は、人と人とをつなぐ、なくてはならない花。優しいリーダーになって定年まで勤めたい」と話しているエピソードなどを紹介。「インクルーシブ農園として整備を進め、地域全体のEngagementやEmpathy、Education(エデュケーション、教育)やExperience(エクスペリエンス、経験)にもつなげていきたい」と語った。

Eとはエンパワーメント 外国人材紹介事業に力――商船三井

一方、1884年創業の海運会社、商船三井は現在、世界に2万人いる船員のうち日本人は1000人足らずであり、向井恒道氏は、「船の上は多様性そのものだ」と説明。このため同社ではその特性を生かして外国人材の紹介事業に力を入れていることを紹介し、「私たちにとってのEとはエンパワーメント。個々人がやりがいを感じながら、成長・満足することで職場に力が生まれる。そのためのお役に立ちたい」と力を込めた。

境遇にかかわらず、共に未来築ける社会を――難民支援NPO WELgee

難民支援を行うNPO法人WELgeeの渡部カンコロンゴ清花氏は、日本の難民認定率が0.3%と先進国で最も低く、申請から認定までに約4年4カ月もかかる現状を報告。彼らの中には起業家やプログラマーなどさまざまなパイオニア人材がおり、難民認定申請中でも就労の在留資格を得ることで「意欲溢れる外国人社員として活躍し、もはや難民ではなくなる」と言う。その多様なバックグラウンドや経験を企業にアピールしマッチングする「ジョブコーパス」事業を展開していることを紹介した。

彼らを雇用する際のポイントについて渡部氏は、効率性や合理性の観点から自社に適応しやすい人を求めるのではなく、「その人が持っている、自分達にはないものに目を向けてほしい」と強調。その上で、「Equityがキーになる。生きて、日本に来て良かったと思える外国人が増え、誰もが境遇に関わらず、ともに未来を築ける社会をつくっていけたら」と思いを語った。

セッション後半のクロストークでは、違いを包摂し、一人ひとりのポテンシャルを生かす組織づくりの重要性が語られたが、「日本では子どもの時から『公正』についてあまり勉強しておらず、Equity的な評価はなかなかできていないのが実情だ」(原納氏)というように、日本ではまだまだ本当の意味でのEquityが企業に浸透していない課題が浮き彫りに。

これに対し、渡部氏は、Equityを考える上での分かりやすい例として、コロナ禍で起きた国の給付金を全国民に支給するのか、それとも生活困窮世帯に絞って支給するのかという議論を挙げた。それと同じように、どこかで線引きをしないといけないようなことが会社であった場合、「まずは会社の中で議論を始め、Equityの概念を自分の頭で考える人たちが出てくれば、それが地域では、国政ではどうかということにつながる」という。

「目に見えないものだからこそ、身近なところからどんどんトピックにしていくことで感覚が醸成される。大事だよね、という議論だけでは前に進まない」(渡部氏)

最後に山岡氏は、「議論を重ねることが多様性に気づく入り口でもある。それぞれに違いがあるなかで全員が伸び伸びと力を発揮する、より良い企業風土を追求していくことができる」と総括し、セッションを終えた。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。