サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

サステナブル・ブランド調査結果に見る企業と消費者の関係とは

  • Twitter
  • Facebook

サステナブル・ブランド ジャパンが日本の生活者9000人に対して行った調査、JSBI(Japan Sustainable Brand Index)は、生活者がどのような企業を「持続可能性を実現する活動に積極的だ」と評価しているのかをスコアに表した指標だ。企業のサステナビリティに対する活動はどれだけの消費者たちの共感を呼び起こしているのか。そのために企業は今何を為すべきなのだろうか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演では調査の概要と先進企業の取り組み事例が発表され、消費者の価値観に寄り添ってライフスタイルの実現を支援し伴走するという、企業のあるべき姿が垣間見えた。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局)

パネリスト:
デイブ マン 花王株 ESG部門統括 執行役員
釣流まゆみ セブン&アイ・ホールディングス サステナビリティ推進部 執行役員
ファシリテーター:
青木茂樹氏 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
駒澤大学 総合情報センター 所長 経営学部 市場戦略学科 教授

今、企業経営を考えるとき、顧客満足度は当然のように考慮される。しかし以前、顧客の満足は必ずしも売り上げに直結するとは考えられていなかった。80年代から90年代後半にかけて米J.D. パワーがその指標を確立したことによって、当たり前になったのだ。「サステナビリティと売り上げの関連性も同様に、今後、企業にとって重要な評価軸になるのではないか」――。基調講演で行われたパネルセッション「サステナブル・ブランドへの羅針盤―JSBI(Japan Sustainable Brand Index)の調査報告と企業のサステナビリティ&コミュニケーション戦略事例」で、青木教授はそう話した。

2020年12月に調査されたJSBIはさまざまな興味深い結果を示した。まず、現在の消費者のサステナビリティへの関心の高まりだ。SDGsの認知度は2018年1月に9.3%、2019年3月に27.8%(ともにサステナブル・ブランド ジャパンとインテージによる合同調査)。今回のJSBIの調査では58.1と過半数にまで上昇している。一方で、サステナビリティに関連する商品を購入する消費者は約30%程度とギャップがあるとも言われる。このギャップを埋めるためにも、サステナビリティに関心のある消費者が企業をどう評価しているかの指標が有益だ。

JSBIでは、9000人の消費者へのアンケートをもとに、大きく分けると2つの評価得点によって最終的な企業の評価指標を算出している。ひとつは調査対象の企業が「SDGsに取り組んでいるかどうか」のイメージを指標化した「SDGs貢献イメージ得点」。もうひとつは、各企業が具体的にSDGsの何の目標に対し、どういう取り組みをしているかを指標化した「SDGs評価得点」だ。これら2項目の合計点を偏差値化し、最終の得点としている。

JSBIの観点は「従来のCSR評価や、ブランド価値の評価指数とは少し異なっている」と青木教授は説明する。JSBIではサステナビリティに関心の高い消費者の回答を重視した係数を組み込むため、消費者のサステナビリティへの関心や企業への認識が、購買や推奨といった実際の行動にどのように影響を及ぼすのかが表されているのだ。

またイメージ得点と評価得点を引き算することにより、企業イメージと実際の企業アクションのギャップを測ることもできる。つまりそのギャップが大きければ、企業の実際の行動の割には消費者から「サステナビリティに積極的な企業だ」と思われていないということになる。

今回の調査では、国内の全業種の平均で見たとき、企業の取り組みが進む課題として「健康」や「持続可能な経済成長と雇用」、「インフラとイノベーション」に消費者の注目が集まっている傾向が見られた。一方で「海洋保全」や「不平等の是正」、「貧困」といった課題に対しては、国内企業が貢献しているという消費者の認識の広がりが遅れている。

さらにJSBIでは、調査結果を深掘りするためにカスタマー・エンゲージメント(顧客と企業ブランドの感情的なつながり)と評価指標の関係性も分析している。カスタマー・エンゲージメントは「参加」「評判」「パーパス」「社会性」「ブランド」「エコ」「労働環境」という7つの因子で分類した。この分析は持続可能な社会に対してアクションしたいと思っている消費者を企業がどう支えるのか、という観点で重要なポイントになる。青木教授は「カスタマー・ジャーニーを提供することが肝心だ」と強調した。

今回の調査は180社を対象にした。前述の通り偏差値化した指標のため調査対象企業の中で平均的な得点は100点となる。セッションでは花王とセブン&アイ・ホールディングスの取り組みが先進事例として発表された。

消費者の持続可能なライフスタイルの実現を支援する――花王

花王は2019年4月、「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を発表した。従来から社会への貢献を企業活動の中心に据えてきた同社だが、その核となる新たなESG戦略だ。

「私たちは、消費者が人生の選択をする上でのenebular(エネブラー)になりたいと考えている。それによって消費者はより持続可能な生活を実現し、人生が美しくなっていく」――。マンツ氏は戦略の狙いをそう説明する。持続可能なライフスタイルを実現したいと願う生活者に、それが叶う環境を提供することで企業の役割を果たす。先述の青木教授の言葉では「顧客のジャーニーを支援する企業」ということになろう。

⇒Kirei Lifestyle Plan関連記事
「きれい」をグローバル基準に ESG戦略に込めた“よきモノづくり”を追求する花王の矜持
正道を歩み「こころ豊かな暮らし」の実現へ――花王 デイブ・マンツ ESG 統括部門 執行役員

特に2020年、コロナ禍にあって、洗浄や衛生用品のメーカーとして生産体制を迅速かつ大幅に増強するなど、花王が速やかに社会の状況に反応できたのもこのような考え方に基づいた企業活動の結果だろう。一例として「暮らしのきれいを守る」ことを目指す同社の事業横断プロジェクト「プロテクトJAPAN」は単なる商品展開・紹介に留まらず、衛生情報を幅広く発信し、直面するパンデミックにどう対応し、商品を活用すればいいのかを伝えている。このプロジェクトは国内だけでなく、台湾やタイでの展開に広がっているという。

また同社はKirei Lifestyle Planに沿ってゼロ・ウェイストを強力に推進している。詰め替え可能なパッケージの提供拡大やフィルム容器の導入拡大によりプラスチックの使用量を大幅に削減することに加え、容器としてのリサイクルが難しい場合には「リサイクリエーション」プログラム上でリサイクル素材を地域社会への取り組みに生かすなどの啓発にも活用している。商品に貼られるアイキャッチシールの全廃を発表したことも記憶に新しい。

一方で「まだ完全に(ESGを重視した社会貢献を)実現できているわけではない」とマンツ氏は明かす。そこでマンツ氏が強調したのが他企業も含めたステークホルダー連携だ。同社はライオンとの協働によるリサイクル推進や、セブン&アイ・ホールディングスとの連携による容器の回収など、協業を広げ活動を増幅している最中だという。

「実際に、(消費者の)目に見えるかたちで活動を展開することの重要性を感じている。世界的にもフィルム容器の取り組みを広げていきたい」とマンツ氏は今後の展開に意欲を見せる。米国ではKirei Lifestyle Planを体現する新ブランド「MyKirei by KAO」の展開を開始するなど、新たな取り組みを続ける同社のアクションは止まることがない。製品を売るだけでなく、消費者の生活をどう変えるか。ライフスタイルの構築までをも企業戦略に組み込んだ好事例だ。

ステークホルダーと共に持続可能な社会目指す――セブン&アイ・ホールディングス

セブン&アイ・ホールディングスの歴史は1920年、羊華堂洋品店(後のイトーヨーカ堂)の開業にまで遡る。「創業から100年が経過した。その間、社会課題、お客様の生活の課題を解決することで成長してきた。企業の成長と共にお客様の生活がより良くなったと信じながらやってきた」と釣流氏は同社を紹介した。

現在、セブン&アイ・ホールディングスのグループ企業による店舗は国内で約2万3000店。世界では7万店強だ。レジを通過する消費者は国内だけで毎日のべ2500万人。釣流氏は「フロントラインにいる企業の責任として、(ESGに)舵を切った。長い歴史を持つ企業活動の中で、これまでも今も最大の課題は環境負荷の低減だ」と話した。

セブン&アイ・ホールディングスは2019年に、「環境宣言GREEN CHARENGE2050」を発表。「CO2排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」という4つのテーマを定め、2050年までに目指す姿を宣言した。さらに発表時点ではCO2削減目標は80%減だったが、2020年、国の姿勢に協調しカーボンニュートラルに目標を再設定した。

この宣言はグループ内で企業の垣根を越えたチームを組織して推進している。「活動は企業が持続可能であってこそ進められること。それまで企業ごとの目標はあったが、グループでひとつのゴールを定めたのは初めて。やり抜くためには横断的な活動をしていく」と釣流氏は言う。そうした組織にすることでイノベーションが生まれる土壌を形成しているという。

具体的にどういう活動を行っているのか。例えば神奈川県にあるセブンイレブン10店舗では2019年9月から、再生可能エネルギー100%で店舗運営を行う実証実験を開始している。効率的な太陽光パネルを採用し、EVのバッテリーをリユースすることで夜間の電力を補う、一般家庭の「卒FIT電力」を活用するなど新技術が生かされた仕組みを構築している。また「アリオ市原店」ではメガソーラーパネルの設置・活用により店舗の全電力使用量の24.3%を太陽光発電で賄うことに成功しているという。エネルギーの循環を地産地消する事例だ。

また、2013年から開始したグループ店舗でのペットボトルでの回収・リサイクルにも引き続き力を入れている。2019年には合計約9800トン、3億6000万本のペットボトルを回収した。回収は消費者が使用済みペットボトルを洗浄した上で機械に投入する。

「プラスチックの完全循環(のさらなる普及)はできると考えている。特にペットボトルのような単一素材であれば、比較的やりやすい。ただし、これは皆さまの協力あってこそ。きれいなペットボトルであれば何度もリサイクルが可能だ。ご理解をいただきながら、生活者の皆さまと共に歩んでいくことが小売りの役割」(釣流氏)

⇒関連記事
セブン&アイとコカ・コーラ、完全循環型ペットボトル実現

設置された同社のペットボトル回収機の数は現在、全国で1000台。「まだ1000台。これを国内約2万3000のすべての店舗に広げていきたい」と釣流氏は力強く語った。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。