サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

困難を抱える若年女性に大きな応援団をーー村木厚子さんが熱意を込める若草プロジェクト

  • Twitter
  • Facebook

貧困、虐待、DV、いじめ、薬物依存など社会のさまざまな問題に苦しみ、生きづらさを抱える少女や若い女性たちがいる。彼女たちは自分の苦しさの原因が何であるのか分からず、相談すらできていないという。作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんや元厚生労働事務次官の村木厚子さんが代表呼びかけ人を務める一般社団法人若草プロジェクトは、そうした困難を抱えた若年女性を支援している。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜に登壇した村木さんは「SDGsの目標で日本が最も立ち遅れているのはジェンダー平等。企業は女性活躍に相当真剣に取り組んでいると思うが、女性活躍のスタートラインにすら立てていない少女たちがいることにぜひ思いを寄せてほしい」と訴えた。(松島 香織)

「日本は意外に貧困率が高い国」――。貧困により十分な教育が受けられず進学や就職に不利であり、次世代にも貧困の状況が連鎖する、と村木さんは指摘した。また児童虐待も急増しているが、年間十数万件ある相談のうち保護されるのは約3%に過ぎないという。村木さんは「多くの少女は自分で何とかしようと頑張っている。非常に厳しい状況にある」と実情を強調した。

自分で必要なモノを選び取り、真のエンパワーメントへ

若草プロジェクトは、弁護士で日本女子大学非常勤講師の大谷恭子代表理事が中心になり2016年に設立された。名称はオルコットの小説『若草物語』から付けられた。すべての若年女性が主人公の4姉妹のように、大人として尊重され「自分らしさ」を取り戻し、自立できるようにとの思いが込められている。

このプロジェクトでは、主に「つなぐ」「まなぶ」「ひろめる」の3つの事業に取り組んでいる。「つなぐ」は生きづらさを抱えた若年女性と支援者をつないだり、支援者同士をつないだり、支援の現場と企業などをつなぐ取り組みだ。

LINE相談の実施、シェルターである「若草ハウス」の運営、日本生命保険相互会社やロート製薬などの支援を受けて「若草メディカルサポート基金」を設立した。基金は、虐待や性暴力被害を受けた若年女性の診察・治療やカウンセリングなど医療的ケアの財源となる。村木さんは「今後、医療支援にも力を入れていきたい」と力を込める。

また2020年12月に開設した、企業と支援の現場を結ぶデジタルプラットフォーム「TsunAが~る」(つなが~る)を紹介した。日本財団や日本産業パートナーズなどの支援を受けて開設された「TsunAが~る」は、支援の現場のニーズと企業が提供できる物品や人材、知財、イベント企画などをマッチングするシステムだ。これまでこうした「モノ」の支援は、必ずしも現場で必要とされるものではなく、持続的な支援でなかったり、緊急のニーズに対応できたりするものではなかった。

「TsunAが~る」開設のきっかけは、支援する現場から寄せられた切実な声だった――。「お仕着せの支援ではエンパワーされない。自分たちで必要なモノを選び取り、いい形で支援を受けることで本当のエンパワーメントや自立につながる」。このシステムが開設されたことで、きめ細やかなニーズの収集を行うことができるようになった。

現在、若草プロジェクトはファーストリテーリングやネスレ日本などの企業と協働している。日本国内で難民の雇用などに取り組むファーストリテーリングは、「居場所のない少女を『国内の難民問題』と捉えてくれた」と村木さんは話す。若草プロジェクトが選定した約300のシェルターや自立援助施設などに、企業が提供する物品の情報を公開している。

ネスレ日本は、3月8日の国際女性デーに合わせてミモザの花と「キットカット」5000個を用意し、「On your side あなたのそばに」というメッセージを送ったという。

取り組みの2つ目「まなぶ」では、生きづらさを抱えた若年女性の現状を理解し、支援の方法を学ぶため、連続研修会を実施したり、支援者のためのマニュアルを発行している。2020年12月には、コロナ禍では人が集まることが難しいため、You Tubeの「若草チャンネル」で動画配信を始めた。そして取り組みの3つ目「ひろめる」は、社会に若年女性が抱える問題の深刻さを伝えることだ。

若草プロジェクトとSDGsの取り組み

若草プロジェクトはSDGsの目標5の「ジェンダー平等」をメインターゲットにして活動しているが、社会では、若年女性が抱える困難の背後にある貧困や虐待、性暴力などはともすると見過ごされがちだ。村木さんは、本当の意味で支援するには「目標1:貧困をなくそう」「目標2:飢餓をゼロに」「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標4:質の高い教育をみんなに」「目標10:人や国の不平等をなくそう」「目標16:平和と公正をすべての人に」にも取り組まなくてはならない、と力説する。

最後に村木さんは「企業の持つさまざまな力をしっかりとつなげ、さらに教育、医療、就労、住宅などの分野ともつながり、社会に大きな応援団を作りたい。多くの企業に参加していただき、彼女たちのエンパワーメントにつなげていきたい」と「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」への取り組みを呼び掛けた。

松島 香織 (まつしま・かおり)

サステナブルブランド・ジャパン デスク 記者、編集担当。
アパレルメーカー(販売企画)、建設コンサルタント(河川事業)、
自動車メーカー(CSR部署)、精密機器メーカー(IR/広報部署)等を経て、現職。