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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

持続可能性の先にあるリジェネレーションへ熱い議論――サステナブル・ブランド国際会議2021横浜 1日目

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「第5回サステナブル・ブランド国際会議2021横浜(以下、本会議)」が2月24日-25日の2日間、開催中だ。緊急事態宣言下の今、会期中に行われる50以上のセッションはそのほぼ全てをリアルタイムで配信。登壇者の一部はWEB会議ツールを活用しオンラインで意見を交わすという、パシフィコ横浜ノース現地とインターネットのハイブリッド開催に初めて挑戦している。2日間での延べ参加登録数は、オンラインも含めると過去最高の約3800人だ。社会のさまざまな場面でサステナビリティが無視できなくなっている今、さらに一歩先の「Regeneration(再生)」を見据えた熱い議論、提言が飛び交った。本会議初日の基調講演を中心に速報する。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

基調講演に先立ち、Sustainable Brands Japanの鈴木 紳介Country Directorの挨拶では、25日に今年初めて日本、韓国、タイ、マレーシアのサステナブル・ブランド(以下、SB)コミュニティが連携して開催するアジア圏リージョナルカンファレンス「SB`21 ASIA-PACIFIC(SB APAC)」の紹介と、各国の代表のビデオメッセージが放映された。SB タイのシリクン・ヌイ・ローカイクン氏はSB APACの主要なテーマは3つのC、つまり「コミュニティ」「コラボレーション」「サーキュラリティ」だと話した。

初日のウェルカムアドレスを飾ったのは長坂 真護氏。ガーナのスラム街に広がる貧困問題と環境問題を解決するために行動する同氏は、MAGO CREATIONの代表取締役で美術家だ。世界最大の「電子ごみの墓場」と言われる劣悪な環境から素材を得て作品を生み出し、収益を利用して現地に住む人たちの生活や教育を改善する活動を積み重ねている。同氏を追ったドキュメンタリー映画は今年、全米で公開予定だ。

長坂氏は「10年後、(スラム街の住人たちに)リサイクル・ギガ・ファクトリーをプレゼントしたい。でも時間が足りない。この瞬間に苦しんでいる人がいる。だから僕たちは、スピードを上げます」と話し、自身が電子ごみから創り出したキャラクターをアニメ化し共有する新たなプロジェクトを発表した。

続けて「楽しむこと、地球をきれいにすること、それらを通して経済をつくること。この3つのシンプルなフィロソフィーを、企業のコンセプトに、起業する理念に取り入れてみては。利益だけを追求する時代は終わった」と力強く語り、「愛を追求して利益を生むようなサステナブルな社会をつくっていきましょう。立ち上がって、進んでいきましょう」と呼びかけた。

関連記事=「電子ごみの墓場」をなくすために芸術はどう向き合うのか

本会議のテーマは「WE ARE REGENERATION」

米国からオンライン登壇したサステナブル・ブランド国際会議創設者のコーアン・スカジニア(米サステナブル・ライフメディア社CEO)はサステナビリティの実現に本腰を入れ始めた世界各国の政府や経済界の現状を語り、本会議のテーマ「Regeneration」に通じる社会の回復と未来の創造に取り組むブランドに言及した。

「私たちのコミュニティメンバーは、より良いブランドへの消費者の関心を持続可能な製品の売り上げに結びつけている。そして過去に厳しく問い詰められたブランドは今、創造的な自己破壊に取り組んでいる。この緊急事態から、新しく健全な成長が生まれるだろう」

UN SDG Advocate, Social Innovation, Climate Change, Agriculture, Food, and Beverage ExpertのMarc Buckley(マーク・バックリー)氏はタイやスペインなどのSB国際会議でも講演をしている、グローバルゲスト講師。気候変動の課題に長く携わる専門家だ。「REGENERATION」とは何か、その本質の解説を行った。

マーク氏は「われわれ人類は、循環再生的な地球の上の、複雑な系の一部だという考え方、意識が出てきている。それはビジネスモデルとしても優れているし、生活や、調和の中で仕事をするといったときにもより良い戦略となる」と話す。再生能力を備えた自然環境にインスパイアされた再生的なビジネスモデルでは、製品の素材、材料はもともと環境の中にあるという発想で設計をする。農業などの一次産業だけでなく、あらゆる場面、多角的な側面で「再生的」な視点がある。

「これは新しい市場であり、経済モデルであるだけでなく、新しい文明でもある。世界は加速度的に成長し、変化している。追いつくためには文化的な進化が必要だ」(バックリー氏)

事業、製品が切り拓く新たな風景

すべては「幸せの量産」のために。決意を感じさせるタイトルの講演を行ったのはトヨタ自動車の大塚 友美Deputy Chief Sustainability Officer。同社の根幹にあるミッション「幸せの量産」とビジョン「可動性を社会の可能性に変える」を着実に実現するため、トヨタ自動車は自動車の製造会社から「モビリティカンパニー」へと大きな変革を遂げようとしている。大塚氏はその具体像を解説した。

象徴的なプロジェクト、近未来型実験都市「ウーブンシティ」は静岡県裾野市で、講演前日の23日に着工式が行われた。そのコンセプトは「人中心」「実証実験」「未完成」という3つ。多くの社会課題解決に資する技術やアイデアを実装していく構想だ。

「トヨタ自動車はこれからも、自由な視点、SDGsの視点で仕事の目標や進め方を見直し、ステークホルダーの皆さまと連携してカーボンニュートラルというチャレンジングな目標に全力で取り組んでいく。連携して動き出せば、風が生まれ、景色が変わり明日に近づくと信じている」(大塚氏)

積水化学工業の取締役、専務執行役員 上脇 太氏は同社のサステナビリティ貢献製品を通じた社会課題解決について話した。サステナビリティ貢献製品は社会課題解決力、ガバナンスや顧客満足度、サプライチェーンの健全性や収益性など多くの項目による同社内の認定制度によって評価された製品だ。認定には社外の専門家や消費者などアドバイザリーの意見も取り入れられる。積水化学工業の製品の売上高のうち、サステナビリティ貢献製品は約60%を占めるまでに増えているが、目標は「80%以上」と意欲的に取り組んでいるという。

上脇氏は同社のサステナビリティ貢献製品や技術の一端を紹介した。その内容は下水管を更生するSPR工法から微生物を活用したプラスチックのリサイクルまで、多岐に渡る。

「対外的な評価もいただいているが、まだまだやることがある。評価に恥じないようにさらに製品を磨いて社会課題解決につなげたいと考えている」(上脇氏)

企業のイメージ調査「ジャパン・サステナブルブランド・インデックス」

サステナブル・ブランド ジャパンは初めて、9000人の消費者への企業のイメージ調査「ジャパン・サステナブルブランド・インデックス(Japan Sustainable Brands Index:JSBI)」を発表した。対象となった企業は17業種180社。基調講演のパネルディスカッションではSBアカデミックプロデューサーで駒澤大学 総合情報センター 所長 経営学部 市場戦略学科 教授の青木茂樹氏、花王 ESG部門統括 執行役員のデイブ マンツ氏、セブン&アイ・ホールディングス サステナビリティ推進部 執行役員の釣流 まゆみ氏の3名がJSBIの報告と企業の視点から戦略発表を行った。

持続可能な環境・社会への取り組みを行っているというブランドイメージの上位にはトヨタ自動車、良品計画、日立製作所などがランクインしたほか、SDGsの認知度は58.1%に及んだ。

花王のマンツ氏はESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」、セブン&アイ・ホールディングスの釣流氏は同じく「GREEN CHALLENGE 2050」の詳細を中心に発表を行った。両社に共通しているのは課題への危機感は勿論、そのための「連携」を重視し、具体的な取り組みを発表したことだ。

花王とライオンが協働しリサイクルの実証実験を開始したニュースは記憶に新しいが、企業間ではたとえ同業他社であっても、究極的には持続可能な社会の実現を目指して手を取り合うことが増えている証左だろう。また釣流氏は「パートナーシップを重要視しているが、最大のパートナーは消費者だと考えている」と話した。登壇した2社間でもプラスチックのリサイクルに関して協働を行っている。青木氏は「消費者も交えてジャーニーをつくろうという戦略を学んだ」とセッションを締めくくった。

本会議参加者数に応じて植樹

Salesforce Sustainability Vice Presidentのパトリック フリン氏は「この1年、地球の生命の脆さと回復力の両方を私たちは目の当りにした」と講演を切り出した。フリン氏は「コロナ禍と気候変動の関連性は明らか」とした上で、「気候変動が人類にとってもっとも複雑な課題だと私たちは理解している」と話した。

カーボンニュートラルの実現に向けて、実はSalesforceが大きく力を入れているのが森林の復元だ。森林は火災や伐採など、人間の行動によってシステマチックに破壊されてきた歴史がある、とフリン氏はこれまでの経緯を顧みる。同社は1兆本の樹木を保全・再生・植樹する政府や企業、NPOなどの連携プロジェクト「1t.org」に賛同している。1t.orgは、地球温暖化のスピードを抑制し、生物多様性を促進して、生態系を回復させることを目標とする。

Salesforceはこの中で2030年までに1億本の樹木の保全に協力することを宣言している。さらにフリン氏は講演で「サステナブル・ブランド国際会議2021横浜とSB‘21 ASIA-PACIFICの参加人数の数だけ植樹をする」と宣言した。事前申し込み時点のユニークな人数に応じ、 2500本の植樹が約束された。

「会議の参加者一人ひとりに代わって植樹できることを誇りに思う。しかし、まだまだ不十分だとも感じている。気候変動に対して私たちは、やれることを全て、可及的速やかにやらないといけない」(フリン氏)

同社が支援するプロジェクトの詳細や進捗は こちら から確認が可能。 寄付という形で支援 することもできる。

従来の枠組みを超えて広がる事業領域

セイコーエプソン 取締役 常務執行役員 サステナビリティ推進室長 CFO CCOの瀬木 達明氏は同社の持続可能な取り組みについて講演を行ったが、その中で特にイノベーティブな事例が布素材へのデジタル印刷技術の活用だ。高い品質、鮮やかな色を実現できるだけでなく、環境負荷が低く、労働環境が改善でき、短納期化などの課題が生まれている昨今のテキスタイル業界のソリューションとして有効だという。またセイコーエプソンは教育分野の実証実験に参加している。同社のプロジェクターを活用した遠隔の合同事業などを企画しているという。

「持続可能な社会を実現するために、参加者、視聴者の皆さまとパートナーシップを組みたいと考えている。ぜひ一緒に、明るい持続可能な社会をつくりあげましょう」(瀬木氏)

たばこ会社でありながら「煙のない社会」を目指すフィリップ・モリス ジャパン。昨年の「サステナブル・ブランド国際会議2020横浜」で会場の参加者に禁煙、また新規に喫煙者にならないことを呼び掛け、「ベターな選択肢」として加熱式たばこを推進し、将来的には紙巻きたばこ事業からの撤退も視野に入れていると話した職務執行役副社長の井上 哲氏は本会議で進捗を発表した。

加熱式たばこは日本において、2015年9月頃から本格的に普及し始めた。その結果、紙巻たばこの消費量は大きく減少していることが米国がん学会の調査でわかった。「この現象は世界で大きく注目されている」と井上氏は報告した。2011年から2015年の間、紙巻きたばこの消費量は毎年約1.5%のペースで減少していた。しかし2015年9月以降、2018年までの間には年間約9.5%と、減少速度が大きく加速している。

「紙巻きたばこの健康への影響を真摯に受け止め、研究開発においては少しでも健康への影響を低減できないかというテーマで取り組んできた。今、事業のトランスフォーメーションの途上にある。煙のない社会、紙巻きたばこのない社会の実現に向けて多くのステークホルダーの皆さんとともに、着実に歩みを進めたい」(井上氏)

パシフィコ横浜ノース会場では万全のコロナ対策

緊急事態宣言下の開催となった本会議。リアル会場では消毒液の設置、マスク着用の遵守、検温などの基本事項に加え、徹底したソーシャルディスタンスの確保、アクリルパネル設置や飲食の制限、入室人数の制限など万全の体制がおかれた。それに伴い例年行われているレセプションパーティは見送りとなったものの、企業ブースでは適切な距離を保ちつつも有益なネットワーキングが行われている光景も多く見られた。

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。