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森発言機にダイバーシティ&インクルージョンあらためて訴え:資生堂など参加「30% Club Japan」が声明

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企業の重要意思決定機関に占める女性割合の向上を目的とした世界的キャンペーン、「30% Club」の日本での活動を推進する「30% Club Japan」(会長=魚谷雅彦・資生堂社長)は15日、「東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会」が掲げる「多様性と調和(ダイバーシティ&インクルージョン)」の重要性をあらためて訴える声明を出した。女性蔑視と受け止められる発言によって森喜朗氏が五輪組織委員会の会長辞職に追い込まれたのをきっかけに、そもそもオリンピックの基本であるジェンダー平等と多様性の受け入れを強く求める国内世論が広がる中、東証一部上場企業も多く参加する組織として、日本企業におけるジェンダー平等をより実効性のあるものとし、これまで以上に加速させる考えだ。(廣末智子)

森氏の発言を巡ってはトヨタ自動車やキヤノン、P&Gなどスポンサー企業61社のうち37社が14日時点までに、その発言を遺憾とするだけでなく、同大会の掲げる「多様性と調和」のビジョンを推進すべきだなどとする声明を出し、ムーブメントとなっている。

2030年めどに女性役員割合を30%に

「30% Club」は、2010年に英国で創設された世界的キャンペーンで、NPOやNGOといった法人格を持たず、ボランティアとして運営する方式により、現在、17カ国に拡大。日本では2019年5月に只松美智子氏(デロイトトーマツコンサルティングシニアマネージャー)が創設した。現在のメンバーは、企業経営者や機関投資家、大学やメディア関係者らで構成する58人(2020年9月時点)で、企業の意思決定機関における健全なジェンダーバランスの達成を通して、未だ社会に根深く存在する偏った見方を払拭しつつ、ダイバーシティ&インクルージョンを実現することにコミットした活動を展開している。

具体的には「30% Club」の名前通り、2030年をめどに「TOPIX100(東証株価指数の大型株100銘柄)」に入る企業の女性役員の割合を30%とすることを目標に設定。同グループがこれを実際に調査したところによると、2016年には7%だったのが、2020年には12.9%と、徐々にではあるが伸びていることが分かった。もっとも同グループに加盟する「TOPIX100」と「Mid400」(同中型株400銘柄)の企業22社の女性役員割合は2020年7月時点で21.3%と、同じ時点での全上場企業の女性役員の割合6.3%と比べると3倍以上高いものの、30%には届いていないことから、今後も日本企業全体のけん引役としてジェンダーギャップの解消に努める方針だ。

「多様性と調和」に反する森発言
日本企業のブランド・アクティビズムか

今回の騒動は、各国と比べても極めて低い水準にある、日本の“ジェンダー不平等”の実態もあらためて炙り出す格好となった。世界経済フォーラム(WEF)が2019年末に発表した政治・教育・経済・健康の4分野における男女の格差を数値化した「ジェンダー・ギャップ指数2020」で、日本は153カ国中121位であり、しかも前年の110位から大きくランクダウンしていることなどが話題となったのだ。もっとも、森氏の発言で何より問題とされたのは、「東京2020 オリンピック・パラリンピック」が大会のビジョンとして掲げる3つのコンセプト「全員が自己ベスト」「多様性と調和」「未来への継承」のうち、「多様性と調和」の精神から逸脱しているとされたことだろう。その内容をHPであらためて見ると、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」とあり、あらためてオリンピックという国際大会の長がその精神に反して発した発言の軽さに愕然とする。

問題が起こった当初、国内外からの批判が高まり、沈黙することは暗黙の了解につながるとする、#DontBeSilent のハッシュタグをつけてSNSで抗議する世界的な運動も起こった。当初は静観していた企業がある時点から批判攻勢に出たのには、こうした沈黙は了解も同然という世論に加え、昨年、ブラック・ライブズ・マター問題に揺れた米国で、少なくない企業が声を上げ敢えて明確な態度を見せるなど、社会が直面している喫緊の課題の解決に対し、企業がそれぞれの信念やパーパス(存在意義)に基づいて自らの立場を明確にした「ブランド・アクティビズム」の流れが日本企業にも到来しているのを感じさせる。

女性の力や視点が今まで以上に必要

森発言問題を契機に「わたしたちはあらためてダイバーシティ&インクルージョンの重要性を訴えます」とする声明を出した「30% Club Japan」は、宣言文の中で、「組織におけるダイバーシティ&インクルージョンは、さまざまなバックグラウンドをもった人材が多角的な視点で意見を活発に交わすことにより、創造的なアイデアを導き、イノベーションを促進することに貢献します。意思決定の場面でメンバーに偏りがある場合、視点が一方的になり、集団浅慮に陥りやすいことが指摘されています。したがって、自由闊達な議論が促進され、その透明性が保たれるよう組織のガバナンスを強化することが重要です」と、ダイバーシティ&インクルージョンの重要性を強調。その上で「新型コロナウイルス感染症との闘いは長期化する可能性があり、従来の発想では危機を乗り越えることができません。東京オリパラの実現も、企業経営も、コロナ禍においてはすべての局面においてダイバーシティ&インクルージョンの推進がますます重要で、女性を含むダイバーシティの力や視点が今まで以上に必要と考えます」と指摘している。

森氏が後継に指名した川淵三郎氏も一夜にして就任を辞退するなど、混迷を深める東京五輪組織委員会会長職だが、選考過程の透明性はもちろん、30% Clubが訴えるように、ダイバーシティ&インクルージョンの視点がいちばんに求められている。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。