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「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」開幕:障がい者と健常者の垣根越えるアート展

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障がい者と多様な分野のプロフェッショナルによる現代アート国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」が18日、横浜市役所新市庁舎とオンラインで開幕した。同展は2014年から3年に1度開催しており、3回目の今回で完結。集大成として「障がい者と健常者の垣根がない世界観が表現できた」とヨコハマ・パラトリエンナーレ総合ディレクターの栗栖良依氏は話す。世界的なアーティストや作家、身近な表現者たちが、障がいの有無に関わりなくさまざまなかたちで作品づくりに参加した。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

2014年、2017年に続き3回目となる「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」が18日、開幕した。コロナ禍を受けて展示、表現の方法や方針を前回までから大きく変え、オンラインとリアルの会場・横浜市役所新市庁舎での展示・上映が融合したチャレンジングなプログラム構成だ。開催テーマは「our curioCity – 好奇心、解き放つ街へ」。その中からいくつかのプログラムを紹介したい。

イベントのプラットフォームは「パラトリテレビ」

「人が集まる」ということが難しくなっている。これまでの芸術祭などでは会場が参加者のプラットフォームとなっていたが、今回の「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」ではその機能はオンライン配信が担う。番組は8月のプレ期間にスタートして継続的に情報を発信している。

左からアーティストの井上唯さん、パラトリテレビナビゲーターで車いすインフルエンサーの中島涼子さん、栗栖良依氏
井上唯さんの作品「whitescaper」はパラトリテレビ特設スタジオ周辺にインスタレーション展示されている。全国各地の有志の自宅や施設などでつくられたパーツで構成される

18日からは、ソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」が出演する「おうちでサーカス」や、これまでパラトリエンナーレに関わった人が思いを語る「Hello! My Neighbors わたしとあなたのパラヒストリー」、詩人の三角みづ紀氏と、ろう者のアーティスト南雲麻衣氏による「Play 手話と詩であそぼう」などのレギュラープログラムを生配信するほか、乙武洋匡氏などが登場する公開トークも開催。

読む展示会「そのうち届くラブレター」

プラットフォームがオンラインであれば、作品の展示はどうしたか。今回は、あるアーティストの作品に、別のアーティストが応答し作品を表現するという複数のコラボレーションを1000ページを超える「本」に収め、メインの媒体とした。会場の横浜市役所ではこの本を1000部限定で無料配布し、収録作品の実物やパネルを展示する。参加したアーティストには障がい者もいるし、健常者もいる。

現代美術家リ・ビンユアンさんによる「画版100×40」は力強い映像作品
リ氏の作品に応答した書家の華雪さん。「線を引く――「一」を書く」制作風景。何度も繰り返し全霊を込めて書かれたー。紙と墨と書家によるテクスチャはぜひ会場で実物を見てほしい

BOOK PROJECT「そのうち届くラブレター」から次を抜粋したい。

(前略)そういう背景があるので、締めくくりとなる今回は、障害者のアートイベントという位置づけから、次の状況への橋渡しが重要な目標となった。作家ラインナップは、過去のパラトリ同様、障害のある表現者、ない表現者が混ざっている。でもことさら障害者と健常者のコラボ、というセットにこだわるのをやめた。両者が曖昧に混ざっていることのほうが大事だった。(中略)

ふだん世界の第一線で活躍する現代美術家が参加するのだから、彼らの実践にもきちんと関係するものが必要だった。つまり、障害のある人による表現を美術と分けて扱うのではなく、現代美術が主に扱う、現代を生きる人間の問題意識をカバーするテーマとの接続を行うことが、私たちの重要な仕事のひとつだった。(以上、「そのうち届くラブレター」の最初の文章「わかりあうことの不可能さと、あきらめないことについての考察」より)

ドキュメンタリー映像「Me, My Mouth and I」

jess TOMさん

英国のアーティスト、Jess TOM(ジェス・トム)氏はトゥレット症候群。チックの一種で、自分が意図していないときに突然脈絡のない単語や言葉、「ビスケット!」「猫!」などを口にしてしまう。同氏は劇場で「うるさい、迷惑だ」と言われたその症状を創造に昇華しようと、自身が舞台に立つことにしたという。話題を呼んだ作品「Not I」の創作プロセスのドキュメンタリー映画が、「そのうち届くラブレター」に収録される関連作品として、日本初公開される。21日(土)にはオンラインで本人が登場する特別上映関連トークイベントも開催する。

サーカスアニメーション「MEG -メグの世界-」

「SLOW CIRCUS PROJECT」の金井ケイスケさんが監修するソーシャルサーカス

「ソーシャルサーカス」は、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014をきっかけに結成された「SLOW CIRCUS PROJECT」による国内初の障がいのある人のサーカスプログラム。本来、会場で公演を行うはずだったが、今回はストーリー仕立てのアニメーション作品としてYOUTUBEや横浜市役所のスクリーンで上映・配信をする。制作方法は何と、各々のメンバーがグリーンバックを背景に自宅などで一人で演技。映像を合成しているという。ムービー編集はJVCケンウッド(神奈川・横浜)が協力した。

そのほか、多数の展示、配信プログラムあり。

栗栖氏(左)とドキュメント展示「sing a sewing」を説明する港南福祉ホームの面々

次は街に実装する段階

オンラインと横浜市役所の会場、写真・映像や本、実物の作品を行き来する展示表現は、「混ざっていることのほうが大事だった」という「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を、鑑賞を通して体感できる構成に感じる。栗栖良依・ヨコハマ・パラトリエンナーレ総合ディレクターは「私たちが目指すのは障がいの有無による垣根がない世界。それを表現できたと思っている」と話す。同展は3回目の今回で完結。「フェスティバルの形態を活用した模擬演習は2020年まで」と栗栖氏は発信している。「今回の開催が終われば、次は街に実装する段階」だと話した。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ総合ディレクターの栗栖良依氏

前回のヨコハマ・パラトリエンナーレのテーマは「sense of oneness とけあうところ」。垣根を越えることを標榜し、今年は「our curioCity – 好奇心、解き放つ街へ」――。好奇心とチャレンジでそれを創造・表現した。これから先は、社会へと広げる。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020

主催:横浜ランデヴープロジェクト実行委員会/NPO法人スローレーベル 
共催:横浜市(文化観光局・健康福祉局)
チケット:無料(一部有料)
コア会期:11月18日(水)~11月24日(火)
場所:オンライン横浜市役所アトリウム

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

フリーランス記者。2017年頃から持続可能性をテーマに各所で執筆。好きな食べ物は鯖の味噌煮。