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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

多様性を力に日本発のグローバルブランドへ――資生堂 魚谷雅彦 社長 兼 CEO

1872(明治5)年の創業以来、148年の歴史を持つ資生堂は2019年、新たな企業ミッションを「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)」と定めた。「ダイバーシティは物凄い力。これからの企業経営の重要な柱になる」とサステナブル・ブランド国際会議2020横浜の基調講演で話したのは魚谷雅彦社長兼CEO。2014年の就任から目標年を前倒しして「売上高1兆円」「営業利益1000億円」を達成した同社の「ESCG戦略」を力強く語った。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

「世界で勝てる日本発のグローバルビューティ―カンパニー」へ

魚谷社長兼CEOは2014年、資生堂の140年以上の歴史で初めて外部から招へいされて社長に就任した。同氏は2つの覚悟を持ってオファーを受けたという。ひとつは、日本で成長してきた資生堂をグローバルで通用する会社にするということ。そして2つ目は、この老舗企業を100年先も大きく発展する会社にするための基盤をつくることだ。

資生堂は2015年、中長期戦略「VISION 2020」のゴールを「世界で勝てる日本発のグローバルビューティ―カンパニー」と設定した。魚谷社長兼CEOがサステナブル・ブランド国際会議2020横浜に登壇した今年は、その目標年だ。その成果はどうか。

数字では2015年当時、資生堂の売上高は約7000億円、営業利益は約4%という状況が続いていた。「これでは世界で存在感は出ないし、さまざまなことに再投資ができませんでした」と魚谷社長兼CEOは振り返る。そこで売上高1兆円、営業利益10%を2020年の目標に据え、結果、売上高は3年前倒し、営業利益は2年の前倒しで達成した。

結果を出した戦略の重要要素

その戦略は「ブランディング」と「イノベーション」そして「PEOPLE FIRST」を重点とした考え方にあるという。

「ブランドは企業にとって極めて重要な無形の資産、インタンジブル・アセット(企業価値を左右し、企業の強さの源泉となる目に見えない資産)です。バリューです」

魚谷社長兼CEOはブランドとは顧客の信頼感そのものだ、と力を込めた。消費財メーカーの資生堂にあっては、ブランドの信頼感は商品のリピート購入につながる。資生堂は同社が持つブランドのうち特に日本オリジナルの「SHISEIDO」ブランドを重要視し、いまでは2000億円規模に成長した。英ユーロモニター社が2019年に発表したブランド価値調査では総合34位、日本の消費財ブランドでは1位だ。日本発を押し出し「本格的にグローバルブランドとしての価値を高めていくところに今、到達しつつある」と魚谷社長兼CEOは成果を語った。

イノベーションの側面では、「技術の信頼感、安心・安全だけでなく、日本発のきめ細やかで感性に訴えるデザインやパッケージの繊細さは、われわれの重要な競争優位になる要素です」と魚谷社長兼CEOは自信を見せる。同社は横浜市・みなとみらい地区に2019年4月、「資生堂グローバルイノベーションセンター」をオープンした。同社は研究費への再投資と人員を強化している。「基礎の研究と商品開発を並行して行い、R&Dのバランスを取るのが資生堂のあり方」だと説明した。

さらにこれらのブランディングやイノベーションを推進するのは結局「人」に尽きるという考えのもと、経営の中心に「PEOPLE FIRST」を据えているという。資生堂の従業員は世界で約4万6000人、そのうち約半数が外国籍だ。同社は2017年、東京本社内で英語の公用語化を宣言したことでも話題になった。経営会議の資料やプレゼンテーションは英語化され、そのことによって海外の人材が格段に参画しやすくなっているという。しかし、あくまでもベースには日本の感性や日本語のコンセプトがある。

「アディショナルに英語の感性で考え、バイリンガルに近づくということです。ふたつを持つ、ということは多様性です」

ダイバーシティは企業経営の重要な柱に

「ダイバーシティは物凄い力。これからの企業経営の重要な柱になると思います」と魚谷社長兼CEOが力説するように、資生堂はダイバーシティ&インクルージョンの取り組みに注力する。同社の女性管理職比率は2019年に30%超。「女性が活躍する会社BEST100」(『日経WOMAN』、日経ウーマノミクス プロジェクト)において3年連続で総合ランキング1位を受賞するなど、国内では先進的だが「本来は50:50であるべき」と魚谷社長兼CEOは意欲を見せる。

魚谷社長兼CEOは、英国発の「30% Club」に参画し、30% Club Japanの会長に就任した。30%という数字は「組織の中で影響力を持つ」割合だと言われる。現在、国内大手企業の取締役会の女性参画は約10%だが、これを少なくとも30%にすることを目指して活動する。市場では競争する花王の澤田道隆社長なども同クラブに参加し、協力して取り組んでいる。

そして多様性とはもちろん、ジェンダーだけではない。国籍や年齢、障がいの有無、仕事の経歴――。2018年の企業広告「LOVE THE DIFFERENCES.」では「多様なバックグラウンドや違いをリスペクトすれば新しい発想が生まれる」というメッセージを発信した。

資生堂のESCG経営とは

これらの戦略、取り組みの根底にあるのは何か。資生堂では一般的な「ESG経営」に「Culture」を加えて「ESCG経営」と呼んでいる。

社会的な文化でもある美容という事業領域をESGと一体化して取り組んでいるというわけだ。商品のパッケージやデザイン、素材といった本業の中の具体的な取り組み対象や、高齢化社会という化粧品事業で直面する課題、そして解決に貢献する研究開発――。海洋プラごみへの取り組みも始まっている。カネカと共同開発した生分解性の樹脂を利用する商品は今年初めて市場に公開する予定だという。魚谷社長兼CEOは「イノベーションとサステナビリティには非常に重要な連動性があります」とも指摘した。

ESCG経営は資生堂にとって基本的な価値観で「それを経営の柱に据えるかといった議論はまったくありませんでした」と魚谷社長兼CEOは語った。

「資生堂は化粧品の会社です。でも化粧品を販売することを目的にしている会社ではありません。それはツールです。事業を通じて、あるいは提供できる美の価値を通じて、人生を豊かに、幸せに生きていただくことが私たちのパーパスです。これからもESCGを資生堂の経営の中心に据えて、日本のみならずグローバルに発信することが、経営者としての自分の決意でもあります」

沖本 啓一(おきもと・けいいち)

Sustainable Brands Japan 編集局。フリーランスで活動後、持続可能性というテーマに出会い地に足を着ける。好きな食べ物は鯖の味噌煮。