
気候変動、価値観の多様化、マーケットの急速な変化——。企業がサステナビリティを理念で終わらせず、事業の推進力へと転換するには何が必要か。サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のプレナリーでは、花王とオリオンビールが「Adapt and Accelerate:変化を力に変え、サステナブルな未来を加速する」をテーマに登壇した。創業から受け継がれる経営理念と社会変化への適応のリアルが語られ、規模も業種も異なる2社に共通する「社会との絶え間ない対話」が、変化への原動力になっているという事実が浮かび上がった。
| Day1 プレナリー ファシリテーター 田中信康・サステナブル・ブランド・ジャパン総責任者兼ESGプロデューサー/Sinc 代表取締役社長兼CEO パネリスト 大谷純子・花王 執行役員 ESG部門統括 齋藤伸太郎・オリオンビール コーポレートバリュー・クリエーション部長 |
135年の原点に宿るサステナビリティ
花王のESG部門統括を務める大谷純子氏は、まず同社の原点へと話を向けた。創業から3年後の1890年、花王は当時、庶民には手の届かなかった良質なせっけんを自社で作り、広く届けることから出発した。「いい暮らし、いい社会、そしていいビジネスを作ろうと一念発起したのが花王のスタート。サステナビリティの原点はここにある」と大谷氏。

企業理念「花王ウェイ」では使命に「豊かな共生世界の実現」を掲げる。英語では「As one, we create a Kirei life for all」と表現し、全社員が一つひとつの製品に「心豊かな暮らしを人と地球に送りたい」との思いを込めてものづくりをする。
その理念を実装する仕掛けの一つが「商品開発五原則」だ。1番目の「社会的有用性の原則」は、社員一人ひとりが常に自らに問い続けるものだという。「社会も環境もどんどん変わっていく。自分たちのものづくりもアップデートしないと、存在を許してもらえない」と大谷氏は語った。
Adapt and Accelerate(適応と加速)を体現する事例として大谷氏が挙げたのが、洗濯洗剤「アタック」の進化だ。1987年の発売当初、バイオ技術で体積4分の1・重量2分の1を実現し、使いやすさと同時に輸送・包装の環境負荷も大幅に低減した。スプーンを付属させて計量を習慣化し、使いすぎを防ぐという生活変容まで促した。2009年には「すすぎ1回」で水と電力の消費を削減し、2019年には天然由来の界面活性剤「Bio IOS」で洗浄力と環境負荷低減を両立している。
根底にあるのは、サステナブル商品開発方針として掲げる「Maximum with minimum」。つまり、暮らしと社会への価値はMaximum(最大)に、負荷はMinimum(最小)にという発想だ。「相反することをイノベーションや工夫で乗り越え、環境負荷を下げながら価値を上げて、事業も伸びていく。この好サイクルを回すことがサステナブルなビジネスにつながる」と大谷氏は力を込めた。
地域と循環するビジネスモデル
背中にオリオンビールのロゴが入ったシャツ姿で登壇した齋藤伸太郎氏に、会場は歓声で沸いた。「わが家はめちゃくちゃ花王製品が入っていて、おむつはメリーズ、洗剤はアタック、めぐりズムは家族で奪い合っている」と笑いを誘いながら、自社の歩みを語り始めた。

オリオンビールは1957年、過酷な戦争で傷付いた沖縄で「郷土の若者に勇気と希望を与えたい」との思いから設立。社名は県民公募で決まった、まさに「沖縄とともに歩んできた会社」だ。2019年のMBOを経て経営改革を推進し、2025年9月には東証プライム市場に新規上場。沖縄県内では製造業初のIPO(新規公開株式)となった。「創業の思いをAdapt and AccelerateできたIPOだった」と齋藤氏は振り返る。
同社のミッションは「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」。コアバリューには「まくとぅそーけーなんくるないさー(誠を尽くせばなんとかなる)」「いちゃりばちょーでー(一回触れ合えば皆きょうだい)」など沖縄の精神文化が息づく。これらは、若手を含め、社員が議論を重ねながら作成したものだという。
日経クロストレンドの顧客幸福度調査2024でビール業界1位を獲得したオリオンビール。主力商品「オリオン ザ・ドラフト」の2024年リニューアルでは1万5301人の県民に試飲・アンケートを実施し、プレミアム商品のパッケージも県民公募・投票で決定した。齋藤氏は「消費者の中でオリオンビールはニアリーイコール沖縄。県民の皆さんと一緒にビールをつくることが大事」と語る。
IPOに際し、「沖縄と共に循環成長するビジネスモデル」を掲げた。県民に愛されるブランドが観光客を惹きつけ、年3回開催のビアフェストや工場見学が沖縄体験を深め、SNS発信で県外・海外へとブランドロイヤリティが広がる。刷新したブランドメッセージ「飲んで、笑って、またあした。」「遅刻の数だけ乾杯がある」は、沖縄らしい人のつながりの濃さを体現する。「沖縄の良さはつながりと仲間意識。オリオンビールはそこに寄り添いたい」と齋藤氏は笑顔で話した。
社会との対話が「Adapt」を駆動する

花王とオリオンビール、それぞれの歩みを振り返りながら、「変化を力に変える」姿が語られた。ファシリテーターの田中信康氏は「2社の共通点は、社会と対話し続けていること。花王はマーケットを先取りし、オリオンビールは沖縄という地域の中でそれを体現している。ブランドを作り、育て、マーケットをリードする力の源泉はそこにあるのではないか」とセッションを締めくくった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。














