
2025年9月25日、オリオンビールが東京証券取引所プライム市場に上場した。初日の終値は公募価格の2.29倍の1950円をつけるなど、沖縄を代表する企業のIPO(新規株式公開)は県内外で大きな注目を集めた。その約1ヶ月後の10月30日、FDSF(一般社団法人 科学と金融による未来創造イニシアティブ)の沖縄ツアーの一環として、オリオンビール コーポレートバリュー・クリエーション部長の齋藤伸太郎氏と、サステナブル・ブランド ジャパン総責任者でSinc代表取締役社長兼CEOの田中信康氏による特別対談が行われた。IPO後の成長戦略やブランド価値向上をどう描くのかーー。同社の挑戦が語られた対談の様子を紹介する。
ブランドの一丁目一番地
齋藤氏が冒頭で強調したのは、変わらない「原点」だった。「オリオンの一丁目一番地は、県民に愛されることです。その期待に応え続けるブランドでありたい」
創業は1957年。戦後の混乱が続く沖縄で「郷土の若者に勇気と希望を与えたい」と、具志堅宗精氏(故人)らが中心となって立ち上げた。それ以来、「ワッター(私たち)自慢のオリオンビール」と歌われるほど、地元密着のブランドとして成長してきた。
その哲学は商品開発にも息づく。主力商品「オリオン・ザ・ドラフト」の刷新時には、1万5301人の県民が試飲・アンケートに参加。「沖縄の人に、もっと愛される味へ」をコンセプトに掲げ、2024年にリニューアルを果たした。
その成果は、消費者の評価にも現れる。2024年の日経クロストレンド「顧客幸福度調査」では、ビールブランドで1位を獲得。齋藤氏は「沖縄という地域が持つ幸せなイメージが、オリオンの価値を押し上げている」と語る。田中氏も「沖縄×オリオンという強い文脈は、唯一無二のブランド優位性」と指摘した。
MBOからIPOへーー「守られた経営」からの脱皮
オリオンビールは2019年、カーライル、野村キャピタルとともにMBO(経営陣による買収)を実施した。齋藤氏はこれを「第二の創業」と位置付けるが、その背景には明確な危機感があったという。

「株主が600人以上に分散していて、これをまとめるのが直接的なきっかけでした。加えて、(沖縄の産業を守ることを目的にした)酒税の軽減措置が切れることも想定されていました。『守られた経営』のままで良いのか。若い世代にこの会社を残したいという思いから、MBOを決断しました」
MBO後は、ガバナンス改革やデータ・ドリブン経営を導入。資本効率に基づく意思決定が加速し、外部人材の登用も積極的に行なった。その中で、資産売却(那覇市のホテルなど)が県内でハレーションを生む場面もあったが、齋藤氏は「資本効率性や企業価値への貢献について説明し、理解をいただいた」と振り返る。
同社の売上高はコロナ禍の2022年3月期以降、順調な伸びを見せる。その成長をけん引する一つは、沖縄の「外」の市場だ。田中氏も「これからのドライバーはEC、海外、県外だ」と述べ、沖縄市場にとどまらない成長戦略の重要性を強調した。
これに対し、齋藤氏は地域ごとに最適化されたブランド戦略を紹介。沖縄になじみのある台湾や韓国では「沖縄でいかに愛されているか」を訴求する一方、オーストラリアではエキゾチックな日本のビールとしての価値を訴える。さらに、在沖米軍基地の元駐在員という新たなターゲットにも着目。米国に約1000万人いるとされる彼らに向けたマーケティングを強化しており、米国市場が海外市場の大きなドライバーになるとの見通しを示した。
沖縄と共に循環成長するビジネスモデル

齋藤氏がブランド戦略の中核として強調したのが、「沖縄と共に循環成長するビジネスモデル」だ。このモデルは、沖縄という地域特性を軸に「魅力ある商品・体験を県民や観光客に届け、沖縄と共に持続的な成長」を目指す。
まず、日常の中で県民に愛されることを起点とし、次に工場見学やビアフェスト、ホテル滞在などの体験を通じて観光客がブランドに触れる。そしてその「沖縄の思い出」が、県外や海外の再購買やファン獲得につながっていく。この循環が、オリオンビールの成長エンジンとなっている。沖縄県北部では、2025年7月にオープンした大型テーマパーク「ジャングリア」とも連携。観光動線の変化を捉えながら、成長機会を創出している。
もう一つの成長軸が、ブランドライセンス(知的財産)事業だ。齋藤氏によると、約60社とライセンス契約を締結しており、オリオンのロゴやデザインを使用したアパレルや雑貨は1500にも及ぶ。齋藤氏は「お金をいただきながらマーケティングしていただいている感覚」と語り、高収益事業としてのIPビジネスの魅力と、アルコールを飲まない若年層との接点づくりの意義を強調した。
手触りのあるインパクトを
対談で齋藤氏が強調したのが、「手触り感のあるインパクトマネジメント」だ。沖縄にはさまざまな地域課題があるが、「いろいろなものを解決して価値を生んでいく。そんな経営のモデルが沖縄から発信できれば」と齋藤氏。田中氏も「今後のオリオンのチャレンジに期待したい」と述べ、対談を締めくくった。
IPOという節目を経て、オリオンビールは新たな成長局面へと歩み出した。その中心にあるのは、「沖縄から、人を、場を、世界を、笑顔に。」というビジョンだ。地域に深く根差しながら県外・海外へと広がる成長ストーリーは、「沖縄発ブランドの可能性」を示す象徴的な取り組みと言えそうだ。

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













