
「健全な身体に健全な精神があれかし(Anima Sana In Corpore Sano)」という創業の哲学を社名の由来とするアシックス。同社がいま、ビジネスの根幹として挑んでいるのが、気候変動への対応を軸としたサステナビリティ戦略だ。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のプレナリーに登壇した代表取締役会長CEOの廣田康人氏は、猛暑によるスポーツ環境の変化を「経営の一丁目一番地」の課題と位置付け、世界最少レベルの温室効果ガス排出量を実現したシューズ開発や、技術公開による業界全体の共創を呼びかけた。
| Day1 プレナリー 廣田康人・アシックス代表取締役会長CEO |
廣田氏の基調講演は、スポーツの現場が直面している猛暑への危機感から始まった。2021年の東京オリンピックでマラソン・競歩会場が札幌市に変更された事例や、夏の甲子園での昼の試合回避、さらに2025年の熱中症による搬送者が10万人を超えたというデータを示し、「暑すぎて外で運動ができない状況は、われわれの存続を危うくする」と強調した。
この危機意識の根底にあるのは、1949年の創業時から受け継がれる「健全な身体に健全な精神があれかし」という哲学だ。廣田氏は、戦後の荒廃の中で青少年の健全育成を願った創業者・鬼塚喜八郎の思いに触れ、「この哲学を実現するためには、人々が快適にスポーツを楽しめる健全な地球、健全な環境が不可欠」と語った。
同社の売上高は初めて8000億円(2025年度)を突破。その約8割を海外が占めるなど、グローバル企業へと成長している。全世界でビジネスを展開するからこそ、地球規模の気候変動は、原材料調達の不安定化や物流の混乱を招く直接的な経営リスクとなる。廣田氏は「サステナビリティの確保は、会社経営の一丁目一番地だ」と、その重要性を説いた。
業界をリードする循環型ものづくり
具体的な取り組みとして紹介されたのが、製品を通じた環境負荷の低減だ。その象徴が、温室効果ガス排出量をわずか1.95kgに抑えたスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95」。原材料から廃棄まで、一般的なシューズが1足あたり10kg前後を排出する中、サトウキビなどを原料としたバイオマスポリマーの採用や構造の簡素化などにより、世界最少の排出量(当時)を実現した。
特筆すべきは、アシックスがこのシューズの製法を公開している点だ。廣田氏は「サステナブルに関する競争はどんどん行われていい。また、良い作り方はみんながまねて、共有化していくことも大切だ」と述べ、自社だけの利益を超えた「競争と共創」の必要性を訴えた。
続けて、リサイクル可能なランニングシューズ「NIMBUS MIRAI」も紹介された。特殊な接着剤を使用することで、熱を加えるだけでアッパーとソールを分解し、再び素材として再生できる仕組みを構築。こうした循環型ものづくりに加え、シューズボックスなどにカーボンフットプリントを表示し、消費者の環境意識を促す取り組みも進めている。
透明性の確保と課題感の共有
廣田氏は、こうしたサステナビリティ戦略を支えるガバナンス体制についても言及した。CEOをトップとするサステナビリティ委員会を年2回開催し、グローバルの幹部が全社的なPDCAサイクルを回している。また、外部への発信においては、成功事例だけでなく、課題感を併せて示すことを重視しているという。
「取り組みを伝えることは必要だが、何が課題で、それを克服するために何をしているかをきちんと示す。透明性を高めるにはそれが必要だ」
講演の最後、廣田氏は「サステナビリティにはいろんな潮流があるが、このかけがえのない地球環境を、しっかりと次の世代に引き継いでいく。それがわれわれの責務だと考えて、経営のど真ん中に置いて取り組んでいきたい」と力強く結んだ。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













