• 公開日:2025.07.22
アシックスがサッカー靴のカンガルー皮革全廃 主要メーカー方針出そろう
  • 廣末 智子
従来のカンガルー皮革に代わる新素材「SILKYWRAP」を取り入れたアシックスのサッカー用スパイクシューズ「DS LIGHT X-FLY6」

アシックスはこのほど、2025年末までに、サッカースパイクなどのスポーツシューズにおけるカンガルー皮革の使用を取りやめると発表した。カンガルー皮革を上回る柔らかさと耐久性を兼ね備えた新素材を開発し、すでに市場で高評価を得ていることなどから判断したという。 
 
カンガルー皮革を巡っては近年、各国の動物愛護団体などがシューズに使用しないよう働きかけを強めるなど、倫理的な観点からも素材の切り替えが迫られ、プーマやナイキ、アディダスといった大手も同様の方針を打ち出している。 

2年がかりで開発、新素材搭載のスパイクが好評 

カンガルー皮革は、軽さと柔軟性、強度の高さなどを特長とし、サッカースパイクに最適な素材とされてきた。世界の名だたるトッププレイヤーにも愛用され、その高いパフォーマンスを支えるシューズとして、各社が競って生産してきた歴史がある。 

今回、アシックスがカンガルー皮革の使用を全面的に取りやめると発表したのは、サッカー用スパイクシューズを中心に、フットサル用シューズとラグビー用スパイクシューズも含めたスポーツシューズだ。同社によると、カンガルー皮革に代わる素材として柔軟性と耐久性に優れた新素材「SILKYWRAP(シルキーラップ)」を搭載した商品を約2年かけて開発。すでに2024年12月から販売していた。 

このSILKYWRAPは、同社の調べで、従来のカンガルー皮革と比較しても、より柔らかく、“伸びの戻りが大きい”こと、また耐久性においても優れていることが分かっている。このため、足へのフィット感を求めるプレイヤーと、耐久性を求めるプレイヤーの両方のニーズに合致し、実際に履いたプレイヤーからは、「天然皮革のような素足感がある。スプリント時の1歩目が速く出る感覚だ」といったコメントが寄せられているという。 

倫理的な調達を重視しつつ、機能性と品質を追求 

一方、従来のカンガルー皮革については近年、アニマルウェルフェアを重視する倫理的な観点から、欧米を中心に、動物愛護団体などがシューズに使用しないよう各メーカーに働きかけを強める動きが活発化。これに呼応する形で、2023年にはプーマとナイキ、ニューバランスが、2025年5月にはアディダスが、合成繊維素材への切り替えを発表していた。今回のアシックスによるカンガルー皮革の使用中止決定も、一連の動きの一つとみられる。実際にアシックスには日本のNPOから、豪州における“カンガルー狩り”を阻止することを目的に、カンガルー皮革の使用を止めることを要請する文書が届いていたようだ。 

こうした見方について、アシックスはサステナブル・ブランド ジャパンの取材に対し、今回のカンガルー皮革の使用中止決定は「倫理的な調達を重視するとともに、継続的に製品のより良い機能性と品質を追求」してきた結果であり、「カンガルー皮革よりも高性能な製品開発を実現したこと」に伴う判断だと強調する。 

またスポーツシューズ以外のカテゴリーでも、動物由来の天然皮革を使用した製品はあるが、そうした天然皮革の調達に際してはアシックス独自の材料選定ガイドラインに基づき、「食肉産業の副産物から取得する」といった責任のある調達を行っていることを説明。 

さらに2018年からは持続可能な皮革製造方法を推進するレザーワーキンググループ(LWG)にも加盟し、「天然皮革製品のトレーサビリティの向上と、より持続可能な天然皮革の調達への移行」を目指しているという。 
 

注視される「カンガルー皮革全廃のその先」 

今回のアシックスの決断により、サッカースパイクをはじめとするスポーツシューズ業界では、今後、カンガルー皮革を使用しない流れが決定的になりつつある。現時点でミズノも「段階的にカンガルー皮革の使用をやめていく予定」としており、主要メーカーの方針はほぼ出そろった形だ。 
 
動物由来の天然皮革を巡っては、近年、多くのラグジュアリーブランドが“ファーフリー”を掲げて毛皮の使用を廃止してきたことが想起される。こうしたエシカルな選択が、技術革新と結びつくことで、今後、シューズやスニーカー業界でも天然皮革以外の素材を模索する動きがさらに広がりを見せる可能性は高い。 

一方で、天然の皮革素材は食肉産業とも密接に関わり、地域の生計や雇用を支える側面も大きい。動物福祉や倫理だけでなく、産業構造や地域社会への影響にも目を向けながら、「次の素材」をどう選び取っていくのか──。「カンガルー皮革全廃のその先」が注視される。 

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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