• 公開日:2026.01.07
沈黙せずに団結を――反ESGに立ち向かう「国連ビジネスと人権フォーラム2025」
  • RICHARD HOWITT
Photo: Salya T / Unsplash

国連ビジネスと人権フォーラムが2025年11月24日から3日間にわたって開催された。参加者からは、反ESGの波で企業が萎縮している現状の報告や、国家や国連が果たすべき役割を再認識すべきだとの意見が寄せられた。また、人権侵害があってはならないという原点や、一人ひとりが声を上げることの重要性を訴えた登壇者もいた。国連の場に集うことの重みや多様な組織が団結することのパワーなど、会場で感じられた思いを伝える。(翻訳・編集=遠藤康子)

国連ビジネスと人権フォーラムとはそもそも、責任ある企業行動の推進に向けて以前から力を尽くしている企業やステークホルダーが集う場だ。とはいえ、フォーラム参加者はいわゆる「反ESG」という逆風が吹くさなか、その取り組みを維持・擁護していくためにどのような戦略を打ち出しているのだろうか。

14回目を迎えた今フォーラムで作業部会メンバーのフェルナンダ・ホッペンハイム氏は、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」が企業のみならず国家に対しても人権を尊重するという責任を課していることを再認識してほしいと主張した。そして、風向きを変えるためには、政府がビジネスと人権に真剣に取り組んでいることを改めて表明することも必要だと述べた。

続く登壇者からは、その一環として国連制度をさらに積極活用してはどうかという提案があった。具体的には、国連の人権メカニズムであるUPR(国連人権理事会の普遍的定期的審査)に基づいて各国政府が発表する報告書で進捗状況や課題を明示することや、国連人権理事会の特別手続きによる視察や勧告を受け入れたりすることなどが挙げられた。

ホッペンハイム氏は企業に向けても、責任ある企業行動を後退させることなく取り組みを続けていくよう求め、こう呼びかけた。「現状に萎縮して立ち止まってはいけません。取り組みの改善に向けて態勢を整えてください」

沈黙してはならない

ビジネスと人権を専門とする米ボストン大学教授のエリカ・ジョージ氏は、米国企業の間では対外向けのDEI(多様性・公平性・包摂性)の情報開示を縮小する動きが目立つと述べた。ハーバード大学法科大学院コーポレートガバナンス・フォーラムが実施した調査によると、米国主要企業500社で構成されるS&P500のうち、米国証券取引委員会(SEC)への届け出書類に記載するDEI関連の開示内容を大幅に修正、または削除した企業が59%に上ったという。

それでもなお、セッション全般を通じて、「沈黙するわけにはいかない(Silence is not an option)」という力強いメッセージが繰り返された。

「沈黙すること自体が意思表示です」とジョージ氏は語った。「戦うか逃げるか、選ばなくてはなりません。これまでは角を立てまいとその場しのぎでごまかしてばかりでした。しかし、均衡を崩すことは可能ですし、私たち一人ひとりが局面を動かす力を持っています」

他の登壇者らも、多様性はあらゆる人権と同様に不可侵であるというメッセージを、国連という場で繰り返し発信しなくてはならないとアピールした。続けてジョージ氏は、「どのような政治情勢であろうと、法律は法律です。人権について記された主要文書には必ず、差別は人権侵害だと書かれています」と述べた。

沈黙せず積極的に声を上げるよう呼びかけることは、「ビジネスと人権に関する指導原則」の「自覚し公に示す(know and show)」につながるという意見もあった。同指導原則15の解説には、企業は人権尊重に取り組み、その内容を公に示す必要があると記されている。

積極的に声を上げている企業として、米カリフォルニア州の化粧品会社エルフ・ビューティー(e.l.f. Beauty)が紹介された。同社は「Not-so-White Paper」と題した白書を発表し、多様性への取り組みがいかに重要であるかを強く打ち出している(Not-so-Whiteは「それほど白くない」という意味。転じて「多様な色がある」というメッセージになっている)。

株主や投資家の意義ある働きかけ

また、株主アクティビズムが勢いの増す分野として挙げられた。今年に入ってからは、アップルや米会員制量販店コストコといった企業の年次株主総会で、DEIプログラムの継続に対して株主から圧倒的な支持が寄せられている。

投資家も、人権の取り組みを強化する上で重要な役割を担っている。世界各地の証券取引所が持続可能な開発への投資促進を目指して活動する「サステナブル証券取引所(SSE)イニシアチブ」は今フォーラムの場で、LGBTIQ+の人権擁護を訴えるイベント「Ring the Bell for LGBTIQ+ Equality」を2026年5月に開催すると発表した。SSEに参加する証券取引所によるイベントで、あくまでも象徴的なものに過ぎない。しかし、15の証券取引所がイベントへの参加を表明し、自らの影響力や上場規定を通じてDEIの取り組みを推進しようとしている。登壇者はこれについて、困難な時期において非常に意義ある働きかけだとした。

団結から生まれる勇気

反ESGという外からの批判が高まる中では、企業が団結することが非常に重要だという意見もあちこちから上がった。協調して行動することで「集団の勇気」が育まれれば、個々の企業が単独で標的にされるリスクは低下する。

今フォーラムでは、勇気を持って行動するよう呼びかける声が幾度となく聞かれた。その声にある種の切実さが漂っていたのは、多国間が参加する国連そのものが目下、政治的な圧力や批判の波にさらされているからだ。

ビジネスと人権に対する敵対心は確かに増す一方だ。しかし、国連フォーラムはそもそも、政府、企業、市民社会の担い手といった多様な利害関係者が結集する場であり、広範な枠組みで連帯することが逆境を跳ね返す力になることを証明している。団結こそがビジネスと人権を確実に進展させる上で最も有望な道だと、多くの参加者は期待を寄せていた。

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