• 公開日:2025.08.28
イオンだからできる環境行動、地域とともに描く未来――渡邉祐子・イオンGX担当責任者
interviewee
渡邉 祐子

イオンGX担当責任者

interviewer
眞崎 裕史

サステナブル・ブランド ジャパン

日本全国に店舗を展開し、さらにはアジア各国にも積極的に出店する、日本の小売最大手のイオン。植樹活動をはじめ、地域とともに歩んできた歴史は30年以上に及ぶ。同社は2018年から「脱炭素ビジョン」を掲げ、再生可能エネルギーの導入や冷凍・冷蔵機器のノンフロン化に加え、食品廃棄物の削減や資源循環の推進など、環境全般を対象としたGX戦略を加速している。基本理念である「平和・人間・地域」を基盤に、サステナビリティと成長の両立をどう実現するのか。GX担当責任者としてイオングループの環境・社会活動全般に携わる渡邉祐子氏に聞いた。

経営理念とサステナビリティの関係

――イオンは「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」という基本理念を掲げています。この理念とサステナビリティ経営は、どのように結びついているのでしょうか。

渡邉祐子 イオンGX担当責任者(以下、渡邉):イオンの基本理念は、「平和・人間・地域」が基盤です。サステナブル経営を進めることは、実はこの理念の実現そのものです。例えば環境活動に取り組むことは、地球を大切にするという視点で「平和」につながり、人々の心の豊かさを実現することは「人間」の尊重につながります。そして、イオンが事業を展開する地域のさまざまな人たちと一緒に活動することは「地域」と直結します。

企業が果たすべき責任はますます重くなっており、持続可能な社会の実現と、企業成長の両立を目指すことが重要です。イオンでは2011年に「イオンサステナビリティ基本方針」を定め、事業活動を通じて社会課題の解決を進めています。1991年から続けてきた植樹活動は1276万本を超え、100万人以上のお客さまが参加してくださっています。私個人の夢は日本中の人、全員に木を植えていただくことです。みんなが植樹の経験を持てば、自然や環境への意識は必ず変わります。イオンだけでなく、多くの企業・自治体と連携し、活動をさらに広げていきたいと思っています。

――あらためて、ご経歴と現在のミッションについて教えてください。

渡邉:1995年にジャスコ(現イオン)に入社し、長くデベロッパー部門に携わりました。2021年3月から2025年2月まで、ファッションビル事業を展開するOPAの社長として、ファッションサーキュラーエコノミーの実現に挑戦しました。ファッション産業(アパレル産業)は、世界で第2位の汚染産業とされています。そのファッションビジネスを、いかに持続可能に変えていくかが大きなテーマでした。

そして2025年3月から現職に就いています。環境問題の幅の広さを実感する日々ですが、私のミッションを一言でいえば、「環境を軸にイオンの企業価値を高めること」です。イオングループ全体の事業活動と地域社会、自然資本をどう結び付け、課題解決を先導していくか。その責任を担っています。

イオンモール、本年度までに100%再エネ化

――「イオン 脱炭素ビジョン」では、グループ全体で温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすると掲げています。進捗はいかがでしょうか。

渡邉:2023年度末時点で、国内店舗の電力の55%を再生可能エネルギーに切り替えました。「2030年までに50%」とする中間目標を、7年前倒しで達成した形です。

具体的には、オンサイトPPA(事業者の敷地内に太陽光発電設備を設置し、発電事業者が所有・運営して電力を供給する契約方式)で、2024年度までに累計1473店舗で太陽光発電を展開しています。また、2023年4月にオープンした愛知県の「イオンモール豊川」からは、新たなオンサイトのPPA方式として、ソーラーカーポートを稼働させています。オフサイトのPPAも拡大を進めており、2024年度までに全国1390カ所の発電所から合計120メガワット規模の再エネを調達し、計60施設に供給しています。日本国内で展開するイオンモールは、2025年度までに全ての施設で100%再エネ化を達成する見込みで、すでに最終段階に来ています。

――店舗運営ではテナントや顧客との協力も必要だと思います。

渡邉:モールごとに電力使用量の削減目標を掲げているのですが、テナントの皆さまと一緒に目標値を定めています。皆さま、非常に協力的で前向きです。また、お客さまのご理解がないと進まないこともあります。省エネのために照度を下げる際には「みんなで電力を減らしましょう」とポスターなどでご案内しています。イオンモールをはじめとしたイオングループの施設や店舗を「クールスポット」として開放し、お客さまにご自宅の冷房を止めてモールなどで過ごしていただく取り組みも行っています。「クールシェア」として、地域全体で電力消費を減らしていく工夫です。

――冷凍・冷蔵機器のノンフロン化について、7月25日に新たな目標を発表されました。

渡邉:気候変動対応や老朽設備対策、そして企業の社会的責任の観点からも、脱フロンへの転換は非常に重要な課題だと認識しています。フロン類の漏洩防止について、イオンは2011年に「自然冷媒宣言」を発表しています。また、私たちの事業は、店舗運営によるエネルギー使用や冷凍・冷蔵機器での代替フロン冷媒の使用によるGHG排出量が多いことから、2018年には「脱炭素ビジョン」で店舗から排出するGHGを実質ゼロにする目標を掲げました。この取り組みをさらに加速するため、進めています。

こうした状況を踏まえて、ノンフロンへの転換を「脱炭素ビジョン」の実現に向けた重要なステップと位置付け、2040年までに日本国内の全ての店舗の冷凍・冷蔵機器をノンフロンに切り替える新たな数値目標、「イオン自然冷媒転換目標」を掲げました。2030年度までに約30%、2040年度までに全てを切り替えます。性能や機種の制約があって進展が遅れていましたが、技術的なブレイクスルーが見えてきており、一気に加速できる段階に来ました。今後はパートナー企業と連携して投資を拡大し、切り替えを進めていきます。

――EV充電ステーションの整備も進んでいますね。

渡邉:イオンでは2010年から店舗敷地内にEVステーションの設置を進めており、2025年2月末時点で、国内外に約3200基を設置しています。車社会が急速に進展する海外では特に重要で、電気自動車の普及と移動時のCO2削減に直結します。具体的な導入年次はまだ決定していませんが、物流車両の電動化も実証段階に入っています。

こども食堂から寄せられた喜びの声

――2025年度までに、食品廃棄物を2015年度比で50%削減する目標も掲げています。進捗はどうでしょうか。

渡邉:2023年度時点で、2015年度比62%まで削減できています。現在、「店舗」「商品」「地域」という3つの切り口で取り組みを強化しています。店舗では、AI技術を活用した発注の適正化や、値引き販売の工夫などでロスを減らしています。そういった発注精度の向上に努めてはいますが、実際にゼロにするのは難しい。極力、廃棄しない仕組みづくりがとても重要です。例えば、すぐに召し上がる予定がある食品であれば、消費期限が近い商品を選んで買ってもらえるよう、お客さまへのメッセージ掲出なども実施しています。

また、フードバンクと連携し、2023年からこども食堂への寄付を行っています。全国2000店舗以上にフードドライブの拠点を設置し、お客さまからご家庭で消費しきれなかった食品をお預かりしています。広島では、「粉はあったがソースがなくお好み焼きが作れなかった」というこども食堂に、お客さまから寄付されたソースを届けることができました。「ようやくお好み焼きが作れました」と喜びの声をいただき、取り組みを広げていく意義を強く実感しました。

――調達方針について詳しく教えてください。

渡邉:2010年に「生物多様性方針」、2014年には「持続可能な調達原則」を策定しました。2017年には農畜産物・水産・紙パルプ・木材・パーム油を対象に「持続可能な調達方針」を発表しました。自然資源の違法伐採や乱獲を防ぎ、生物多様性の保全を重視しています。

2024年度の実績として、野菜や果物加工品など、オーガニック認証商品の売り上げは約300億円まで伸びています。ほかにも、フェアトレード認証など、国際的な第三者認証を取得した商品の取り扱いを拡大しておりますが、お客さまのニーズが非常に高いコーヒーに関しては「サステナブル コーヒー プロジェクト」として、ベトナム・ソンラ省でコーヒー農家を支援するプロジェクトを進めています。これらの取り組みを通じて、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」で販売するコーヒー豆については、2030年までに全て持続可能性の裏付けが取れたものに変換していきます。また、トップバリュでは、2025年度末までに全ての商品を環境配慮型にする目標も掲げており、順調に進んでいます。

小売最大手としての責任と使命

――次期中期経営計画に向けた考えをお聞かせください。

渡邉:現行の中計(2021〜2025年度)では「電気使用量削減」「食品ロス削減」など、環境負荷を「減らす」ことが柱でした。次期中計については発表前の段階なので具体的には申し上げられませんが、現中計でも掲げている「マイナスをゼロに。ゼロをプラスに。そしてプラスを最大にする」という、「増やす」フェーズへ進みたいと考えています。例えば、お客さまご自身に体験していただける環境活動の場を増やしたり、トップバリュの環境配慮商品をより多くの人に選んでいただけるようにするなど、これまで以上に店舗や商品を通じたお客さまとのコミュニケーションを強化していきたいと考えています。

環境負荷を減らす行動の輪を広げ、仲間を増やし、プラスを交換していくことが柱です。また、企業理念の一つ、「平和」の最大の脅威は気候変動だと考えています。気候変動への対応に寄与し、適応できる商品・サービスをどのように提供できるかを、次の中計で示したいと思います。

――最後に、イオンが果たすべき社会的使命をどう捉えていますか。

渡邉:私たちの事業は自然の恵みなしには成り立ちません。そういった意味では、地球環境を守るのは企業の責任であり、持続可能な社会の実現は使命です。特にイオンの場合、日本全国に店舗があり、地域に根差した事業を展開しています。顧客接点の多さはわれわれが持つ強みであり、お客さまと共に環境問題を考え、取り組むことができます。これは「われわれにしかできない。われわれがやらなくて誰がやるのか」との強い思いがあります。そういう信念で地域社会とともに行動し、日本全国に豊かな暮らし、豊かな自然を残していくことが、イオンの使命だと考えています。

写真:原 啓之

interviewee
渡邉 祐子(わたなべ・ゆうこ)

イオンGX担当責任者

1995年ジャスコ(株)(現イオン(株))入社。2014年イオンモール(株)イオンレイクタウン活性化PTを経て、2021年(株)OPA代表取締役社長に就任。 2025年3月より現職。

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