• 公開日:2025.07.15
DEIだけでなくB(帰属性)も重視する企業価値向上の事例
  • 小松 遥香

誰もが生きやすい社会をつくるために、世界の企業は近年、DEIB(多様性・公平性・包摂性・帰属性)を推進してきた。しかし米トランプ政権の方針を前提に、グローバル企業ではDEIBの取り組みを廃止・縮小する動きが出てきている。強い逆風が吹き始めた今年3月、「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」では「DEIBはエンゲージメントが命~Breakthrough in Regenerationを実現する観点」と題したセッションが行われた。 

Day2 ブレイクアウト

ファシリテーター
山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議D&Iプロデューサー / グロウス・カンパニー・プラス 代表取締役 

パネリスト
大竹航・パーソルキャリア 人事本部 本部長 
廣瀬俊朗・HiRAKU 代表取締役 

「企業・社会」と「従業員・人」の相思相愛を 

山岡仁美氏

ファシリテーターを務めた山岡仁美氏は、長らく人材育成のコンサルティングに従事してきた。DEIBの重要性について、人口減少と高齢化が進む日本にこそ、多様な背景を持つ人やさまざまな働き方を希望する人が活躍できる組織が必要だと指摘。 

さらにDEIBの中でも、特にBの「ビロンギング(帰属意識)」、すなわち「一人ひとりの心理的安全性が高く、会社や組織あるいは社会に属している実感を持てること」が重要になっていると説明した。 その上で、DEIBを推進するにあたって重要になるのは「企業と従業員が互いに信頼し、期待を抱けて、それぞれを生かし合う相思相愛の関係性(エンゲージメント)を築くことだ」と強調した。 

元ラグビー日本代表キャプテンが「多様性」を大切にする理由

2012年からの2年間、ラグビー日本代表キャプテンを務めた廣瀬俊朗氏は、引退後にMBAを取得し、2019年に「HiRAKU」を起業した。現在は、スポーツの普及や人材育成などの教育・食・健康に関する事業を通じて、全ての人に学びと挑戦の機会を開く取り組みを推進している。

廣瀬俊朗氏

 

廣瀬氏は、これまでに個人で携わってきたDEIBに関わるいくつかのプロジェクトを紹介した。その一つが、女子アスリートを指導するために必要となる生理などの知識を問う「女子アスリートコンディショニングエキスパート検定」だ。またNPO法人「ワン・ラグビー」を立ち上げ、デフラグビーやブラインドラグビー、車椅子ラグビーの体験を通して、スポーツを楽しむとともに、障がいのある当事者について理解する機会をつくってきた。 

多国籍のトップアスリートが集まる日本代表チームを率いてきたキャプテンとしては、「ダイバーシティの面白さは、(互いを理解し受け入れることで)自分たちの足元を見つめ直すきっかけを与えてくれること」と考える。「文化や考え方の違いがあり最初は大変だったが、それを乗り越えたときには、これまでにないものが生まれた」と振り返った。 

「ビロンギング」についても、「ラグビーでも大切だ。認めてもらえている、活躍できるかもしれないと思える居場所をつくることで、選手のチームへの愛着が高まるし、他の選手にも優しくできるようになる」とチームビルディングの観点から共感した。 

アルムナイの価値はもはや採用だけではない 

パーソルキャリアの人事本部で本部長を務める大竹航氏は、企業を退職した人材「アルムナイ」の力を企業価値の向上につなげている自社の事例を紹介した。 

大竹航氏

アルムナイの需要が高まる背景には労働人口の不足がある。パーソル総合研究所などの調査によると、日本は2030年には644万人の人手不足に陥るという。その一方で、大手企業を中心に、退職者を「敵」や「リスク」と捉える風潮がまだ残っていると大竹氏は指摘する。 

しかしパーソルキャリアでは自社の仕事を理解し、他社で経験を積んできたアルムナイを高く評価し、積極的に採用してきた。現在では年間に数十人が再入社するという。 その想定外のメリットについて、「出戻りになるので長く働く覚悟を決めて再入社する社員が多く、再入社の社員を温かく迎える会社の姿勢に現役社員の結束力も高まる」と話す。 

2023年には、アルムナイ専用のポータルサイトを立ち上げた。退職者の6割以上が退職から2週間以内にサイトに登録しているといい、退職後に起業家やフリーランスになったアルムナイに仕事を発注したり、アルムナイと現役社員が交流したりして「企業と退職者との関係性をアップデート」させている。 

「アルムナイは、会社の一番の理解者でありながら、自社にはない価値を創造し、多様な働き方を体現している仲間。つながることで企業価値も向上する」 と大竹氏は手応えを語った。

分断が進む時代にDEIBを進め、社会を発展させるには 

世界中で事業を展開する米国の大手企業がDEIBの看板を下げる中、日本企業はどのように取り組んでいくべきなのか──。 セッション後半のディスカッションでは、それぞれの立場から意見が交わされた。

大竹氏は自社のダイバーシティ推進について紹介。 「パーソルキャリアは約7000人の社員がいるが、20人の経営陣に女性は1割しかいない。しかしこの数年間で、管理職以上の女性の割合を20%から36%まで増やしてきた」と明かし、「土台が変わることで会社の文化も変わっていくだろう。世の中のためではなく、自社のためにやるべきだと考えている」 と展望を語った。

廣瀬氏は、多様な人たちとチームをつくりプロジェクトを進めることについて、「男性だから、女性だからと考えるのではなく、個人を見て、自分と違う考え方を持っている人と仕事をしたい。創業した頃は、発想が縮まらないように、あえてラグビーに携わってきていない人と仕事をするようにしていた」と述べた。 

話題はDEIBの取り組みを継続する難しさにも発展した。大竹氏は「やればやるほど新しい問題や考え方が生まれてくるが、へこたれず続けることが大切。明るい未来を常に想像しながら取り組むことだ」と話し、 廣瀬氏も「成長思考がとても大切。お互いがより良くなるよう関係性を築き、良い未来をみんなでつくろうというマインドを持てるかが重要になる」とうなずいた。 

山岡氏は最後に、「継続していくと疲弊しがちだが、諦めずに挑戦することで未来は開ける」と、各社でDEIBに取り組んでいる参加者の背中を押した。

written by

小松 遥香(こまつ・はるか)

アメリカ、スペインで紛争解決・開発学を学ぶ。一般企業で働いた後、出版社に入社。2016年から「持続可能性とビジネス」をテーマに取材するなか、自らも実践しようと、2018年7月から1年間、出身地・高知の食材をつかった週末食堂「こうち食堂 日日是好日」を東京・西日暮里で開く。前Sustainable Brands Japan 編集局デスク。

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