
気候変動は「票を動かす」アジェンダとなるのか――? 約1カ月後の参院選と東京都議選を見据え、一般社団法人ジャパン・クライメート・アライアンス(JCA)が全国約5000人に実施した世論調査で、有権者の71.2%が次の選挙で気候変動や環境、エネルギー問題に関心を持ち、約3人に1人が「気候変動に対応する政策を重視して投票する」と回答したことが明らかになった。これまで環境問題は生活実感から遠く、投票行動には結びつきにくいと見られていたが、連年の猛暑や災害の多さが暮らしに影響を及ぼす中で、潮目は変わりつつある。
気候変動が一人ひとりの日常の課題に
調査は、4月30日から5月7日にかけ、インターネットを通じて全国の18歳以上に実施。回収した5000サンプルをもとに結果を分析した。

調査結果によると、今すでに自分自身の生活が、気候変動の悪影響を受けていると感じている人は85.9%に、その影響が「この2〜3年で大きくなっている」と感じている人は72.3%に上った。
とりわけ影響が深刻だと感じる項目としては、「農作物の品質や収穫量・漁獲量の低下(54.9%)が最も多く、「食品価格や電気代など、生活費の上昇」(44.4%)、「災害によって停電や交通まひなど、インフラやライフラインに被害が出る」(31.1%)、「暑さによって外での活動が制限され、熱中症のリスクが増大する」(30.1%)が続いた(複数回答制)。 これらの項目に対する回答率の高さは、気候変動が単なる環境問題ではなく、生活者一人ひとりにとって、日常的な課題として認識されつつあることを浮かび上がらせている。
次の選挙で47.6%が気候変動に対する政策に関心

さらに次の選挙で何に関心を持っているのかに焦点を当てた質問には、「エネルギーや環境、気候変動」が71.2%と、「社会保障」(73.9%)「防災(73.7%)」とほぼ並び、「景気・物価対策」(84.0%)に次ぐ高水準に(複数回答制)。中でも、「エネルギーや環境、気候変動」と答えた人の66.9%、全体でも47.6%と約半数の人が、次の選挙で候補者の気候変動に対する政策に関心を持ち、全体の33.1%が、そうした政策を強調する候補者に投票すると答えた。
また気候変動政策に関心がある人の57.7%が、「支持政党以外の候補者であっても、(気候変動政策によっては)投票を検討する」と答え、候補者自身の公約を重視する傾向が強いことも分かった。

調査は、そうした気候変動政策に関心がある人に対して質問を深掘り。気になる時事テーマについては、「コメ価格の高騰」(80.2%)が最も多く、家計の負担になっていると感じる費用は、「食品」(80.2%)「光熱費」(68.5%)「ガソリン代」(45.9%)の順に(複数回答制)。食品が値上がりしている要因については、50.7%が「気候変動などによる農作物の不作」を挙げ、多くの家庭で切実な生活費の上昇が、気候変動の深刻さを実感することにつながっていることが見て取れる。

一方、気候変動への責任が「非常に多い/多い」とされた対象は、「企業(44.9%)」「政治家(41.8%)」が上位。政府の取り組みに対する評価は厳しく、「十分に行っている」との回答はわずか1.3%にとどまった。また、他国の対応に関わらず、「日本は積極的に気候対策を進めるべき」とする声が過半数(約56%)を占めた。
日本も気候変動対策を参院選のアジェンダの一つに
今回の調査は、「これまで選挙において気候変動に関する投票意向を問う調査はほとんどなかった」ことを踏まえ、「気候変動の解決のために行動する人や団体を支援する」ことを掲げるJCAが初めて行った。2023年、2024年と、史上最高気温が2年連続で更新され、豪雨などの災害が頻発する中、「気候変動の影響を肌で感じている有権者が一定数存在しているのではないか」という仮説のもとに、有権者の意識を可視化し、間近に迫った参院選や都議選で、気候変動問題を争点の一つとすることを目的とするものだ。
5月26日には調査の監修に携わった東京大学未来ビジョン研究センター副センター長の江守正多氏と、選挙プランナーの松田馨氏が、調査結果を分析し、解説する記者発表が行われた。この中で松田氏は、7月の参院選を見据え、「物価高対策が大きな争点になるとされる中で、それとリンクする形で、有権者の関心が気候変動対策に向いていることが、非常に高い数字で示された。海外では欧州のほか、5月に行われたオーストラリアの総選挙でも気候変動対策を推進する与党が勝利したケースがあり、日本でも、参院選のアジェンダの一つとして候補者には気候変動対策へのスタンスを明確にすることが求められている」などと調査結果を総括。
一方、江守氏は、気象科学者の観点から「ソーシャルメディアなどを通じた印象としては、気候変動に懐疑的な見方や、再エネ賦課金で電気代が上がっていることを理由に再エネの拡大に反対する声が目立つが、実際には多くの人が常識的な認識を持っている。米国が気候変動対策に逆行する中でも、日本は積極的に対策を進めるべきだという人が多かったことも、勇気づけられる結果だ」と調査の意義を語った。
【参照サイト】 ・ジャパン・クライメート・アライアンス「選挙と気候変動に関する世論調査」結果 https://www.climatealliance.jp/post/elections_climatechange_polls2025 |
廣末 智子(ひろすえ・ともこ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。