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Community Column

環境と社会を良くする「サステナブルデザイン建築」のトレンドと実例

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LAGI(Land Art Generator Initiative)

[語り] LAGI [構成] 杉田真理子 [編集] 岡徳之

LAGI 創業者の2人

世界のCO2排出量のうち、建築・建設産業が占める割合は全体の40%と言われています。気候変動問題が深刻化する今、建築物の建設や運営、維持に関わるCO2排出量を減らし、また、消費する電力量と同等、あるいはそれ以上のエネルギーを建物自体が生産するなど、より自然環境に配慮した「サステナブルデザイン建築」の重要性が増しています。

では、そんなサステナブルデザイン建築には、具体的にどのようなトレンドと実例が世界にはあるのでしょうか?再生可能エネルギーと建築の新たな可能性を探るプラットフォーム「Land Art Generator」(以下、LAGI)の創業者であるロバート・フェリー氏(Robert Ferry)とエリザベス・モノアン氏(Elizabeth Monoian)に解説していただきました。

トレンド① 多様なサステナブル建材の登場

最近では、従来外観に用いられてきた金属製の建材と太陽光パネルとで、コストは大きく違わなくなってきました。太陽光パネルとその設置にかかる費用が低減された今、「なぜ、太陽光パネルを外構に用いないのか?」とよく問われるほどです。

そうした太陽光パネルをはじめとする、再生可能エネルギーへのシフトにつながるサステナブルな建材では、近年「多様化」のトレンドが見られます。

多様化とは、例えば「見た目」。先ほどの太陽光パネルについても、色やテクスチャなどさまざまなタイプのものが出てきており、中には、表面にイラストや画像をプリントしたり、鏡のようなリフレクション(反射)をつけたりできるものまで登場しています。

ビル壁面は画像を印刷した太陽光パネル。景観に融合するデザインが可能に。(出典:​Glas Troesch​)

その結果、見た目にもこだわりたい建築家にとって、サステナブルな建材はより使いやすいものとなり、多様なビジュアルのサステナブルデザイン建築が近年、数多く誕生しています。

もちろん多様化は見た目にとどまりません。最近では「アップサイクル」な素材も登場しています。これは、本来捨てられるはずだった廃棄物に工夫を加えることで、建材として蘇らせたもののことです。

実例:「Hotel GST」(3XN)

Hotel GST(出典:3XN)

アップサイクルの実例として挙げられるのが、デンマークの建築事務所「3XN」が手がけた、デンマーク・ボーンホルム島のロンネに位置する「Hotel Green Solution House」。生涯に消費するよりも多くのカーボンを吸収するように設計された、現代的な木造建築です。

この建物では、すべての建材が再利用できるように設計されていますが、建てる際に出る端材や廃材もアップサイクルされて家具や表面材に使用されています。また、会議室の装飾に地元の花崗岩(かこうがん)の採石場から出た岩の破片が用いられています。花崗岩には、熱と冷気を自然に蓄える性質があるため、会議室を適温に調整するのにも一役買うのです。

アップサイクルから生まれた建材としては、このほかにも日本の建築家の坂茂氏が、建物の構造物に中古の輸送コンテナを用いたり、一時的な構造物を作るために段ボールや筒状になった紙の素材など取り入れたりするケースも見られます。

トレンド② バナキュラーデザイン

これから建てる建物に、それが位置する地域固有の建材や技術を用いる「バナキュラーデザイン」への注目度も高まっています。この聞きなれない「バナキュラー」という言葉は、「地域特有の」「伝統的な」という意味です。

これは元々、1960年代に関心を集めた概念。ですが、地場の材料・技術を用いることで、建材の運搬などに伴うCO2の排出量を抑え、地域の雇用・文化を守ることから、サステナビリティの観点でその注目が再燃している格好です。

事実、建築界のノーベル賞といわれる「プリツカー賞」の2022年度では、「土とコミュニティで建築を造る」と標榜してきた、アフリカ・ブルキナファソ出身のディエベド・フランシス・ケレ氏が受賞しました。

日本家屋も実はバナキュラーデザイン

実は、伝統的な日本家屋もバナキュラーデザインと言えます。地元のいぐさで作る畳、日本らしさを感じさせる縁側、引き戸といった構造によって、夏は暑い日差しを避けつつ、一方で冬は日光を取り入れ、風通しがよくなるようにも設計されています。

アフリカの伝統建築も、クーラーに頼らずとも居住空間の快適さを担保しつつ、それでいて激しい気候の変化にも耐え得るという意味で、バナキュラーデザインに位置づけられます。それを実現するアフリカの泥のような「サーマルマス(蓄熱体)」と呼ばれる建材の模索も近年盛んです。

実例: 「Gando Primary School」(Kéré Architecture)

Gando Primary School(写真:Erik-Jan Ouwerkerk)

バナキュラーデザインの実例として挙げられるのは、やはり先ほどのディエベド・フランシス・ケレ氏が率いる、ドイツ・ベルリンの設計事務所「ケレ・アーキテクチャー」による「Gando Primary School(ガンド小学校)」でしょう。同事務所はこれまで、アフリカを中心に、ドイツやデンマーク、イギリス、アメリカなどで、さまざまな建築プロジェクトに携わってきました。

その代表作といえるガンド小学校は、ケレ氏の故郷であるブルキナファソで、現地の人びとによって、その計画から施工までが行われ、2001年に完成したものです。

同国の建物では、金属製の波板屋根が一般的ですが、それでは直射日光を吸収して建物内を過度に温めてしまいます。その結果、それまで多くの教育施設が、採光と換気の悪さという2つの課題を抱えていました。

そこでケレ・アーキテクチャーは、小学校の屋根を内部空間から引き離すことに。そうすることで、室内の窓から冷たい空気を取り込み、屋根に開けられた穴から室内にこもった熱い空気を外に放出するように設計しました。これにより、冷暖房の必要性もなくなり、学校からのCO2排出量が大幅に削減されました。

その屋根の素材には、同国に豊富にあり、伝統的に家屋建築に用いられてきた粘土とセメントのハイブリッドで作られた、堅牢なレンガが利用されました。このレンガは製造が容易なだけでなく、暑い気候に耐える熱対策にもなります。

そうした土着の素材と伝統的な建築技法という、まさにバナキュラーデザインのアプローチに、現代のエンジニアリングを組み合わせたスタイルが評価され、2004年にはイスラム文化圏の優れた建築物に贈られるアガ・カーン建築賞を、そしてこのたびプリツカー賞も受賞しました。あわせて、地域コミュニティに雇用を生み出した点も秀逸です。

ケレ氏やケレ・アーキテクチャーの作品には、地元の人びとや彼らの文化・歴史に寄り添いながら、21世紀らしい建築デザインを実現するヒントに溢れています。

ガンド小学校の拡張工事には地元の人びとが従事(写真:Kéré Architecture)

トレンド③ サステナブル表現主義

それまで建てることができないと思われていた建物が、当時の最新技術で具現化された1970年代には、ボルトやダクトといった建材や設備を、建物の内外に露出させ、構造そのものをいち表現として捉える「構造表現主義」が建築界のトレンドでした。最新テクノロジーが、当時の建築デザインの主役だったのです。

一方、環境意識が加速度的に高まった現代、「最新」であることと同等、もしくはそれ以上に「環境にとって最適であること」に、私たち生活者の関心が集まっています。

そうした機運を受けて、新たに造る建物において、単に省エネや緑化に取り組むだけでなく、サステナビリティの推進をデザインの主題に据え、それを意図的、明示的に表現する「サステナブル表現主義」のトレンドが、建築家の間で広がっています。大型のソーラーキャノピーを遮光装置として採用したビルなどがその一例です。

最近では、都会のコンクリートジャングルであっても、壁面の緑化によって、目に入る景色に緑が増えてきたと感じる人もいるかもしれません。今後、オフィスビルや工場、集合住宅を造る際、建築産業に関わる人びとは、このサステナブル表現主義を無視できないでしょう。

実例:「1Hotel Paris」(隈研吾建築都市設計事務所)

1Hotel Paris(写真:LUXIGON, MIR)

その実例として、日本人建築家の隈研吾氏が手がけている「1Hotel Paris」が挙げられます(現在建築中)。大胆な屋根の緑化と木造のファサード(外観)を全面的に打ち出したエコラグジュアリーホテルとして、開業前から注目されています。

ファサード全体を植栽で覆うことは、視覚的なアピールだけでなく、ホテル内およびエリア全体にグリーンスポットを提供することにも寄与します。

また、自然浸食によって生み出されたかのような有機的かつ彫刻的なその形状は、レストランのある1階にまで自然光がふんだんに入り込むようデザインされています。その結果、室内照明にかかる消費エネルギーを減らすことにも貢献。

サステナブルな表現と機能とが融合し、旅行者に快適な時間と空間を提供するでしょう。

Hotel Paris(写真:LUXIGON)

さて、今回はサステナブルデザイン建築の最新トレンドと、その実例をご紹介しました。一口に「サステナブルデザイン建築」と言っても、そのアプローチは多岐に渡ることをお感じいただけたかと思います。

再生可能エネルギーと建築の新たな可能性を探るプラットフォーム「LAGI」は、本連載で今後、そうした最旬の建築プロジェクトを実際に手がけている著名な建築家の方々へのインタビューを行っていく予定です。ご期待ください。

LAGI(Land Art Generator Initiative)
LAGI(Land Art Generator Initiative)

世界の建築家やデザイナー、エンジニアが集う“サステナブルデザイン”の国際イベントを企画・運営するアートNPOのLAGI(2009年設立、2022年から日本展開)。「再エネ施設のデザインコンペ」「STEAMワークショップ」を通じて、脱炭素まちづくりを目指します。コンペはコペンハーゲンやメルボルン等の10の環境都市で開催実績があり、現在2都市で進行中。ここでは、「建築・建設産業からのCO2排出量は、全産業の40%を占める」という現状を打破し、地域社会に還元する「サステナブルデザイン建築」のトレンドや実例をご紹介します。

https://japan.landartgenerator.org/about/overview/