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世界を救う「サステナブルデザイン建築」 フロントランナーLAGIの挑戦【前編】

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LAGI(Land Art Generator Initiative)

[取材・文] 杉田真理子 [編集] 岡徳之

LAGI 創業者の2人

本来建築は、人間の快適さと自然のバランスを保ちながら、両者の共生を目指すものでした。しかし、現在、建築・建設産業から排出されるCO2の量は、世界の全産業の排出量の40%を占めると言われています。そんな中、今その重要性が叫ばれ、世界の建設業界で浸透しつつあるのが、「サステナブルデザイン建築」と呼ばれるコンセプトです。

このサステナブルデザイン建築という新たな概念の浸透にこれまで貢献してきたのが、再生可能エネルギーとパブリックアートの融合の可能性を探るプラットフォーム「Land Art Generator」(以下、LAGI)。サステナビリティをテーマに据えた国際的な建築デザインコンペティションや市民参加ワークショップなどを世界11都市で開催してきました。そんなLAGIが今年、日本に進出することになりました。

そこで今回は、LAGIの創業者であるロバート・フェリー氏(Robert Ferry)とエリザベス・モノアン氏(Elizabeth Monoian)に、サステナブルデザイン建築とはなにか、そのコンセプトを浸透させるべくLAGIが行ってきた取り組みについて、話を聞きました。

森のように機能する呼吸する建築へ

1992年の国連環境開発会議(地球サミット)以来、世界的に「サステナビリティ」という言葉が定義され、あらゆる業界で積極的に用いられるようになっています。現在、枯渇状態にあると言われる地球上の資源を、どのようにして未来の世代に残していくかを考えるうえで出発点となり得る概念です。

このサステナビリティという概念は、建築やデザインの分野においても重要です。90年代以降、世界中でサステナビリティに関する数多くの認定プログラムが作られました。アメリカのLeadership in Energy and Environmental Design(LEED)Living Building Challenge (LBC) ​​などがその代表格で、建設業界がより少ないカーボンフットプリントを目指すよう促すものです。

そうした中、最近では、環境をただ現状維持するだけでなく、環境を修復し、さらに“再生” させるリジェネラティブ(再生的)なデザインまでもが、サステナブルデザイン建築の概念に内包されつつあると、LAGIの創業者であるフェリー氏は説明します。

「世界では、この10年、呼吸・循環する“生きた森”のような建築物、そして、その集合体としての都市空間づくりへの挑戦が一般化しています。カーボンフットプリントがゼロであるだけでなく、さまざまな生物の生息地を確保・調整して生物多様性を生み出すなど、周辺環境に対してむしろポジティブな影響をもたらす建築物や都市のことです」

フェリー氏がサステナブルデザイン建築の代表例として挙げるシアトルのブレットセンター。ここでは、ビルで使用されるエネルギーの100%が屋根に設置されたソーラーパネルでまかなわれている。

「ブレットセンターのように太陽光からエネルギーを得ると同時に、下水処理所に頼ることなく水を内部で循環できるようにすると、CO2排出量も少なくなる」(フェリー氏)

再生可能エネルギーを風景に溶け込ませる

そうした「サステナブルデザイン建築」という新たなコンセプトの浸透にこれまで貢献してきたのが、LAGIの2人。カーネギーメロン大学で建築を学んだロバート氏と、同大学院でファインアートを専攻したモノアン氏は2008年、建築・建設業界の再生可能エネルギーへの移行を推し進めるべく、LAGIを設立しました。

当時は、元アメリカ合衆国副大統領である、アル・ゴア氏が手掛けたドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開された直後。サステナビリティの概念が一般的に知られ、気候変動に対するアクションの重要性も叫ばれ始めたころでした。しかしそれでも、ソーラーパネルなど再生可能エネルギーのインフラの普及には遅れが見られていました。

「当時、再生可能エネルギーの重要性は認知されつつも、主に3つの観点で普及が遅れました。まず、美的観点での課題が多く、デザインの現場に取り入れづらい現実があったんです。また、大規模開発による環境汚染につながる危険性も叫ばれていました。さらに、エネルギーインフラが周辺の不動産価値を落とすものとも捉えられていたんです。その結果、大型ソーラーパネルを盛り込んだインフラ建設計画が、許可が下りずに却下されるケースも多くありました」(フェリー氏)

そこで、2人が思い描いたのは、ランドスケープアーティスト、建築家、デザイナーといったクリエイターと、科学者やエンジニアとが一緒になって、アートと再生可能エネルギーインフラが融合した新しい風景(= Art Energy Landscape)を作ることでした。

「クリエイティビティを取り入れることで、いかにして再生可能エネルギーへの移行を推し進めるようなポジティブなアクションを起こせるか。これが、LAGIのミッションとなったんです」(モノアン氏)

そうして2人が2010年に始めたのが、再生可能エネルギーと建築とを融合させた、2年に1度開催されるデザインコンペティション「LAGI」。各開催都市のエネルギー・社会・文化的課題を礎にして作られた募集要項に、毎回世界のクリエイター・エンジニア数百人がデザイン案を出品します。今ではサステナブルデザイン分野で最も人気のある国際イベントの1つになりました。

「再生可能エネルギーのインフラを、人びとが『わざわざ訪れたい』と思う公共空間、カルチャースポットとして提案するアイデアを発信できれば、石油や石炭など化石燃料から脱却した世界の美しさを伝えられるはず」(モノアン氏)

「建物の屋上だけでなく、建物と建物の間、街区レベルで気候変動に取り組んでいくダイナミックなアプローチを取るべきだと考えたんです」(フェリー氏)

こうして、日本進出へとつながっていくLAGIの取り組みは本格的に始動しました。後編では、サステナブルデザイン建築に取り組む中で見えてきたこと、そして、今後の日本進出の展望について、引き続きLAGIの2人に話を聞きます。

LAGI(Land Art Generator Initiative)
LAGI(Land Art Generator Initiative)

世界の建築家やデザイナー、エンジニアが集う“サステナブルデザイン”の国際イベントを企画・運営するアートNPOのLAGI(2009年設立、2022年から日本展開)。「再エネ施設のデザインコンペ」「STEAMワークショップ」を通じて、脱炭素まちづくりを目指します。コンペはコペンハーゲンやメルボルン等の10の環境都市で開催実績があり、現在2都市で進行中。ここでは、「建築・建設産業からのCO2排出量は、全産業の40%を占める」という現状を打破し、地域社会に還元する「サステナブルデザイン建築」のトレンドや実例をご紹介します。

https://japan.landartgenerator.org/about/overview/