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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
コミュニティ・ニュース

パーパスの構築から事業化へ:SB2021 Sustainable Marketing Day (1)

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サステナブル・ブランド ジャパン編集局

さまざまな社会課題に企業が向き合い、ESG経営を推し進めていくことが求められる今、それらが社会の力となり、ビジネスの力にもなるアクションであるのかどうかが問われている。ここでは、11月26日に開かれたサステナブル・ブランド ジャパンのセミナー「SB2021 Sustainable Marketing Day in 日本橋 MOVE ON 〜パーパスの構築から事業化への進展へ〜」の中から、真のブランド価値を高めるためのマーケティングやコミュニケーションを実践するキーパーソンたちによって語られた言葉を見てみたい。(サステナブル・ブランド ジャパン=廣末智子)

パンテーン「#HairWeGo」はどう生まれたか

まずは「ブランド価値を高める、SDGs時代のマーケティング」と題した、大倉佳晃・OKURA BOOTCAMP社長の基調講演から。大倉氏は2021年まで11年間P&Gに勤め、2017年に着任したパンテーンでブランドパーパスキャンペーン「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」をゼロから開発・成功させた。これによりカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのPR部門で受賞しただけでなく、当時、業績が低迷していたパンテーンの売上高と利益のV字回復をけん引した実績がある。

#HairWeGoは、その人らしい髪の美しさを通してすべての人の前向きな一歩をサポートし、一人ひとりの個性の尊重について考えるきっかけにしてもらおうというもの。「#この髪どうしてダメですか」といったハッシュタグとともに、生まれつき髪が茶色い中高生に学校が提出を求める「地毛証明書」などをテーマに制作されたドキュメンタリームービーが国内外で大きな反響を呼んだ。

「誇らしいのはこのキャンペーンをきっかけに、東京都教育委員会が学校での地毛の黒染め指導をやめることを明言するなど、まさに社会を少しだけ動かすことができたことです」と大倉氏。その一方で、キャンペーンはいわゆる“ソーシャルグッド”と呼ばれる社会に対して良いことをしたいという思いのみから始まったものではなく、あくまで、パンテーンの業況回復に向けた「ビジネスの機会がどこにあるのか」を探る中で生まれたものであることが強調された。

大倉氏によると、当時のパンテーンは、1年間で100以上の新ブランドが出てくるといわれているヘアケア市場にあって、シェアが少しづつ奪われ、競争力が落ち続けていた。そんな中で企業価値を上げ、ビジネスの成果を出すにはどうしたらいいのかを俯瞰的に見て気付いたのは「購買人数と購買単価を高める」必要があるということだった。それにはブランドの価値を高めることが必須であり、ブランドの価値を高めるには、「消費者(特に若い女性)が、これは私のためのブランドだと思えるようなキャンペーンをしなくてはいけない」という動機につながったのだという。

講演で大倉氏は、自身のそのような思考の流れ(シンキング・フロー)を、株主が投資したものに対してどれだけリターンが返ってくるのかを表す経営指標である“TSR=Total Shareholder Return”を用いた考え方や、売上高と利益率を向上させるための因子(ドライバー)、ブランド価値を高めるための要因(ファクター)などを交えて理論立てて説明。SDGs時代と言われる今、「まずはブランドが抱えているビジネスイシューを理解し、消費者が求めているものと、自分たちのブランドができることを考えてから(キャンペーンなどの)行動に移し、それを数年間かけて継続してこそ意味がある」と語った。

「パーパスを可視化するコミュニティ構想」テーマに良品計画とオールバーズが事例紹介

パネリスト:松橋衆・良品計画 営業本部 無印良品 東京有明 店長
蓑輪光浩・オールバーズ マーケティング本部長
ファシリテーター:高島太士・NEWHERO代表理事

次に紹介するのは、良品計画営業本部の無印良品東京有明店店長、松橋衆氏と、オールバーズ マーケティング本部長の箕輪光浩氏が登壇し、「パーパスを可視化するコミュニティ構想」と題してそれぞれの事例や考えを語ったセッションだ。ファシリテーターは、パンテーンのキャンペーンの映像も手掛け、クリエーターの目線から社会的課題の解決に取り組む、NEWHERO代表理事の高島太士氏が務めた。

良品計画 松橋氏「活動と売り上げがシンクロすれば、最良で最強の店舗に」

無印良品東京有明店は2020年12月、「今の無印を100として、プラス8つの新サービスとコンテンツを加える」という意味合いから、「無印良品 百八貨店 東京有明」としてオープン。暮らしにまつわるすべての商品を販売するだけでなく、家づくりと街づくり、暮らしのサポートの3つを軸に、これまでの小売店の業態を超えた「生活者や地域、社会にとって役立つ活動」を行っている。

店づくりの考え方を松橋氏は、「これからの小売りを考えた時、単純にモノを売っていくのでは限界があり、暮らし方や働き方といったことを快適にしていくような空間商売をしなくてはいけない」と説明。物販では、使うほどに風合いの良くなる家具などを提示するなど、必要以上にモノを持つことにブレーキをかけ、食品や洗剤のほか、マフラーまで量り売りすることで「必要な時に必要な分だけを買ってもらうことに挑戦」している。

暮らしのサポートに関しては、開業までの約1年をかけて、実際に店舗エリアの住民にアンケートを行ったり、雑談会を開くなどして接点を持ち、生活者が家事の中で何にいちばん困っているかを丁寧に拾い上げた結果、収納(片付け)であることが分かった。この過程を通じて松橋氏は、「三現主義」(現場で現物を観察し、現実を認識した上で問題の解決を図ろうとする考え方)の大切さを改めて実感させられたという。

さらに街全体を“自分の住まう空間”と捉えた街づくり事業では、「社内でスキルとやる気のある人材を有明に集結」させ、全国で法人や自治体向けにオフィスや公共の空間などを活用した企画を提案するサービスを展開。このほか店舗では余った食料品を回収し、必要としている人へと届けるフードドライブやフードパントリーへの参画、子ども食堂の開催など、環境問題や社会課題に対するさまざまなチャレンジを形にしている。

松橋氏は、これらの源はやはり三現主義にあり、「環境問題にしても社会の格差の問題にしても、現場でいろんなことを肌身で感じ、会話をして帰ってくると、全員が自然に自分ごとと捉え、思いを一つにできる」と強調。店長としては「お客さまに迷惑をかけず、法に触れないことであれば、あとはもうやってみよう」という気持ちを大事にしている。そうした活動の推進が「店舗の売上高とうまくシンクロしていけば、これはもう最良で最強の店舗ができ上がっていくはずだ」とする確信が伝わる発表となった。

「本当にいい商品だからこそ、サステナビリティの考え方が生きる」オールバーズ 箕輪氏

一方、日本では原宿と丸の内の2店舗があり、スニーカーを中心に展開するブランド「オールバーズ」について、箕輪氏は、元サッカーニュージーランド代表のティム・ブラウン氏とバイオテクノロジーの研究者であるジョーイ・ズウィリンジャー氏が2015年に設立したサンフランシスコ発のブランドであることを紹介。そのパーパスは「ビジネスの力で、気候変動を逆転させる」こと。例えば、一つひとつの製品には、それができるまでにどのぐらいの温室効果ガスが排出されたのかが分かるカーボンフットプリントの数値が表示されているという。

箕輪氏によると、カーボンフットプリントの数値を表示しているのは「ダイエットでも65キロを60キロに落とすには、まず体重を測らなくてはいけないのと同じで、温室効果ガスの排出量も数字が分かると、次に開発する時にそれより下げることができるから」。だがそれと同時に、同社はこのカーボンフットプリントの計算式をオープンソースとしてネット上で公開しているのが特徴だ。

オープンソースにしているのはそれだけでない。同社ではこれまで化石燃料から作られることの多かった靴底にサトウキビの繊維を使う方法をブラジルの工場とともに開発し、採用しているが、その方法についても公開し、既に100社以上が採りいれているという。

「インターネットの成り立ちもそうですが、オープンソースにすることで、いろいろな研究開発に使われ、いずれコストが安くなっていく。それが社会の問題解決の糸口にもなる。そう信じて行動しています」

シンプルにナチュラルに、商品のロゴをはじめ、なるべくいろんなものを削ぎ落とすことにも注力し、オンラインショップでの配送も箱に入れることなくそのまま宅急便の伝票を付ける形で行っている。それで消費者からクレームが来ることはなく、逆に評価されることが多いという。そのように、すべてのアクションの真ん中にサステナビリティを置く同社だが、基本にあるのは「履いてみて本当にいいなと思える商品だからこそ、サステナビリティの考え方が生きてくる」という考えだ。

このほかオールバーズでは、店舗スタッフが友人や地域の人たちも交えたサステナビリティの勉強会を自主的に開催していることなどが紹介された。ファシリテーターの高島氏は、「良品計画もオールバーズも、空間や人と人とのつながりをベースにコミュニティを広げている。規模や業種は違っても、そういった何かを大切にしながら、コミュニティを形成していくことは、おそらくほかの企業でもできるのではないか」と総括した。