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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)
Regeneration

自然の叡智に学ぶリジェネレーション

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東 嗣了

サステナブルブランド(SB)国際会議の新しいテーマは、「WE ARE REGENERATION」です。このグローバルの動きに合わせて、これまで、リジェネレーションの定義や背景、そしてリジェネレーションを創り出す意識の変容についてもお話させていただきました。

私たちは、サステナビリティ(持続可能性)を超えて、地球システム全体に対してよりポジティブで、より再生的な影響を与えていくことが必要なステージにいます。グローバル全体でサーキュラーエコノミーの動きも加速化している中、私たちのさらなる意識の変化と具体的なソリューションが、私たちが本当に願っているリジェネラティブ(再生的)な世界へ近づけてくれると信じています。

今回、再生型の社会やビジネスを創出していく切り口として、今世界で改めて注目されている「バイオミミクリー:自然の叡智からのイノベーション」をテーマに、リジェネレーションを実現していく具体的なアプローチを共に考えていきたいと思います。

人間主体のデザインが引き起こす悲劇

2020年10月。CNNが報道したある悲しい出来事に目が留まりました。米ペンシルベニア州において、鳥が高層ビルに衝突し、推計1500羽死傷したというニュースです。ちょうど渡り鳥のシーズンとも重なっていたようですが、米国では毎年、最多で10億羽の鳥がビルに衝突して死んでいるようです。

同州の鳥類保護団体によると、天候の悪化だけが原因ではなく、近くのビルなどが発する明るい光に惑わされ、進路の感覚が狂ったのではないかと推測しているそうです。ビルの窓は鏡のように外の景色を反射しますので、鳥たちは誤って激突死してしまうのは想像できます。また、同団体によると、このような出来事は今に始まったわけではなく、19世紀以降に目立ち始めた現象だそうです。さらにこれは、米国の一部地域の問題ではなく、世界的に起こっている社会課題でもあります。

ここで、私たちが意識を向けるポイントは、これは私たち人間が創り上げた「デザインの問題」であり、その前提として私たちにある「人間主体の意識」の問題という点です。私たちがどんなにスマートシティや、スマートビルディングといったエコの観点で、より熱効率の良い建物や建材を活用し、CO2の排出量の低減やエネルギー効率を上げたとしても、もしかしたら、それは私たち人間が主体となって作られたデザインであり、本質的には地球環境、生態環境にフィットしていない可能性があると思います。私たちの経済活動の中で、地球環境に配慮するという姿勢を持っていたとしても、自分たちがあくまでも主体であり、自然環境を管理・コントロールしていくというあり方では、どこかで問題が周辺化されてしまい、本質的なリジェネレーションの世界は創造できないのではないでしょうか?

ではどうすれば私たちの意識や経済活動をリデザインできるのでしょうか?その答えは意外にも私たちの目の前に存在しています。そう、「自然の叡智」です。38億年にもわたり培ってきた自然システムから学び、活かしていくイノベーション。これがこの時代に改めて注目されている「バイオミミクリー」の世界です。

蜘蛛の糸が窓をリデザインする

身近にある蜘蛛の糸に少し注意深く意識を向けてみましょう。ちょっとした雑木林に立ち入った時、蜘蛛の巣に顔が引っ掛かり、急いで手で振り払った経験はきっと誰にでもあるかと思います。実は、蜘蛛の糸はナイロンの2倍の伸縮性があり、強度も鋼鉄の5倍もあると言われています。雨が降った後、蜘蛛の巣に沢山の水滴が光り輝いている光景を思い出してみてください。この糸は防水性にも優れていると言われています。今、この蜘蛛の糸を切り口に、繊維の世界では再生可能性が高い繊維のイノベーションが数多く生まれています。

先ほどの鳥の激突死の問題に戻りますが、鳥はなぜ木が沢山覆い茂る森の中で、蜘蛛の巣に引っかかる事なく、自由に飛び回ることができるのでしょうか?実は蜘蛛の巣は紫外線を反射しており、私たち人間では認識できない光の波動を鳥たちは認識できるのです。蜘蛛にとっても、鳥たちが蜘蛛の巣に引っかかって、自分たちの巣を壊されたくないでしょう。

少し前の事例にはなりますが、ドイツにあるグラベルク・アーノルド社は、この鳥が蜘蛛の巣を避けるという「戦略」に注目し、あるイノベーションを生み出しました。それが、鳥を衝突から守るオルニラクスというガラス窓です。このガラス窓には、紫外線を反射する「より糸」が乱雑なパターンで埋め込まれています。私たち人間の目には捉えることはできないのですが、鳥たちにはそれがまるで蜘蛛の糸が張り巡らされているように見えます。このオルニラクスを使用しているビルでは、鳥の衝突率が約75%も減少したそうです。これはまさに、自然の叡智を注意深く観察し、そこからイノベーションを生み出したバイオミミクリーの一例です。

さらに、グラベルク・アーノルド社は、大きく3つの変革に取り組んでいます。一つ目が教育とアウェアネスです。鳥の激突死の問題をまずは社会に知っていただく取り組みをしています。鳥の衝突のイメージをアーティストとコラボレーションして認知を広げています。二つ目が先ほどご紹介したバイオミミクリーによるガラス窓のイノベーション。そして三つ目が、建築業会全体の意識と行動変容です。LEEDというグリービルディングの認証にこの鳥の衝突を防ぐ項目を取り入れることをサポートしながら、業界全体の「Behavioral Change」に貢献しています。まさに彼らの自然の叡智からのアクションは、リジェネレーションに向けた具体的な解決方法の一つと言えます。

アーノルド社 配布チラシより

38億年の叡智から学ぶバイオミミクリーとは?

ギリシャ語で「生命」を意味するbiosと「模倣」を意味するmimesisを組み合わせたバイオミミクリーは、1997年にナチュラリストであり、教育家であるジャニン・ベニュスが考案しました。彼女は非営利団体であるBiomimicry3.8とBiomimicry Instituteの共同設立者であり、モンタナ州の自然溢れる山の中で、バイオミミクリーを活かした自宅に住み、世界に向けて大切なメッセージを発信しています。先日のSBオンラインカンファレンスでも、リジェネレーションをテーマにお話をされておりました。

彼女は、バイオミミクリーを「Innovation Inspired by Nature」と表現しています。私は現在、ジャニンと共にBiomimicry3.8の共同創立者であるDr. Dayna Baumeisterから直接バイオミミクリーを学んでおり、彼女の発信と合わせて私なりにバイオミミクリー を日本語で定義してみました。

バイオミミクリーとは、

「自然の形状、プロセス、システムと繋がり、学び、注意深く模倣することで、
リジェネラティブなデザインやホールシステムを生み出すこと」 

です。

つまり、自然や生物の素材や形状だけを模すのではなく、プロセスから全体システムまで意識を広げ、再生型の商品デザインから、ビジネスモデル、そして社会全体システムへと生かしていく考え方であり、アイデアを生み出すメソッドだと考えています。

よく生態系のような組織、自然界のように循環していく社会を創ろう!という話を耳にします。しかし、具体的なHOWがあまり存在していないのが実情です。そんな時、社会課題と自然界の叡智を橋渡ししてあげる考え方、イノベーションを生み出すフレームワークがバイオミミクリーなのです。

自然という大いなる存在は、38億年もの長い年月を経て、何が機能するか?何が適切なのか?そして何が地球上に残るかを学び実践してきました。まさに地球自身が再生可能な世界を創造するために、R&D(リサーチ&デベロップメント)を長い年月をかけて実践してきたと言えるのです。それは、素材や形というレベルもあれば、プロセスレベルの話もあります。そして全体システムとしての仕組みも学ぶべき叡智が沢山詰まっているのです。私たちがその自然の叡智に意識的に繋がり、模倣していくことで、新しいリジェネラティブな世界が創造していけるのではないでしょうか?

バイオミミクリーの3つの原理原則

ジャニンとデイナが提唱しているバイオミミクリーは、サイエンスの領域、専門性の高い領域だけの世界観でないことが、今改めてサステナビリティやリジェネレーションの文脈で注目されている理由の一つだと思います。自然を模倣する考え方や技術は、実は古くから存在しており、既に多くのイノベーションが日本からも生まれています。

カワセミのクチバシ形状と、水面を静かに切り裂き、魚を捕獲するプロセスから生まれた新幹線(500系)の形状は、世界的にもとても有名な事例です。いわゆるバイオミメティクス(Biomimetics)と呼ばれる科学技術の世界に深く敬意を払うと共に、バイオミミクリーはさらにサステナビリティの観点が前提として扱われることで改めて注目を集めています。自然模倣という概念だけではない点として、バイオミミクリーの3つの原理原則をご紹介します。

原理原則その1:Emulate (意識的な模倣)

いわゆるバイオミミクリーという概念で一般的によく注目されている領域がこのEmulate(意識的な模倣)です。地球の存在、生命と自然システムに注意深く意識を向け、その形、プロセス、全体システムから学び、模倣していく考えです。前回の記事でも少しご紹介しましたが、米インターフェース社はBiomimicry3.8を共同し、落ち葉が広がった森の地面を注意深く観察することで、あえて色が違うカオス状態の色彩を一つの価値として捉え、エントロピーというカーペットを開発しました。これにより染料のコストを削減したのと、ヤモリの手からインスパイアされた接着方法も生み出し、カーペット設置に伴う無駄な廃棄や接着剤のコストの削減、環境負荷の低減にも貢献しています。自然の叡智に対してイノベーションを生み出す「モデル」として見なすだけでなく、「メンター」的な存在であり、さらにイノベーションを「評価する存在」として扱っていくあり方も大切です。

原理原則その2:Ethos(生命への態度)

イーソスとは一般的に、精神、倫理的な価値観を指します。バイオミミクリーの文脈では、私たち人間が自然の叡智に対して、いかに敬意を払い関わっていくかというあり方になります。自然界には長きに渡り生命が循環し繋がっていく原理原則が存在しています。実はバイオミミクリーには、Life’s Principlesというさらに6つのプリンシプルが存在しているのですが、その原理原則に対して、私たちが生み出す商品や仕組みがいかにフィットしているのか?に常に立ち返る態度であると言えます。

ジャニンはよくこんな事例を紹介してくれます。鳥の羽や飛行のプロセスを模倣してどんなに素晴らしい飛行機やドローンを生み出したとしても、それを戦争に利用する、自然を破壊することに利用することは、バイオミミクリーではないと。大学院のコースでも、このEthosには何度も立ち返ることが多いです。私たちが生み出す価値は、本当に自然界の原則にフィットしているか?まさに、前述の鳥の激突死の問題にも繋がりますが、こうしたEthosがなければ、バイオハッキングという人間のエゴによる自然界の搾取となってしまうでしょう。

原理原則その3:(Re)connect(再び繋がる)

これは私たちが自然という存在に改めて深く繋がるあり方を指します。私たちは自然という存在を自分たちとは別の存在に捉えがちです。環境を守ろう!という言葉も、自分と自然環境を無自覚に切り離している意識から生まれているかもしれません。バイオミミクリーで大切にしている言葉で、「We are Nature」というものがあります。私たちや、あれらという概念がない世界です。私たち人間が自然自身であるというあり方です。

Biomimicry3.8は、あえて(Re)再びという言葉を頭につけています。これには、改めて繋がり方を変えていこうという意図があります。子供の頃、よく自然の中で遊んでいた人は、改めて子供の頃のように自然の中で遊んでみよう。生物学の世界で繋がっていた人は、少しそれを手放し、精神的な側面で自然と繋がってみよう。逆に精神的な充足として自然と繋がっていた人は、少し生物界、自然界のメカニズムにもっと興味を持って繋がってみよう。それぞれの繋がり方を変えてみる。タイミングや場所を変えてみる。自分自身とも繋がってみる。このような意図での(Re)なのです。

さらに、バイオミミクリーを切り口に多様な人と繋がってみることも大切です。私の先生のデイナは生物学のバックグラウンドがあります。他の学生を見ると、建築家、デザイナー、教師、エンジニア、社会起業家、そして私のようなリーダーシップ、組織開発の専門家もいます。バイオミミクリーは、こうした多様性のコラボレーションでイノベーションが生まれます。こうした多様性、それぞれの専門領域が繋がり合うことでさらなる可能性が広がると信じています。

誰にでも必要なバイオミミクリー思考

バイオミミクリーは、リジェネレーションを生み出す上で、より具体的なソリューションとなり得る考え方であり、あり方です。一部の専門領域、アカデミックな世界で留まらず、全てのビジネスパーソン、そして子供たちにも必要な概念だと私は強く信じています。Biomimicry3.8では、バイオミミクリーを体現する上で具体的なバイオミミクリー思考とフレームワークを提唱しており、私個人としてもこのフレームワークはすべての人に必要な思考だと実感しています。

ちょうど今、グループプロジェクトで、「気候変動による洪水で、多くの橋が流される社会課題に対して、どうバイオミミクリー思考を使って課題を解決していくか?」に取り組んでいますが、既に多くの発見とアイデアが創出されています。まさに、私たちの便利さを追求するために自然界を模倣するのではなくて、社会課題の解決や、リジェネレーションを生み出していく上で、より具体的なソリューションを生み出す思考であると言えます。

バイオミミクリー思考のアプローチは多岐に渡るのですが、大きくBtoCとCtoBの切り口で進めていきます。BtoCとは、Biology to Challengeと呼ばれており、自然の叡智を注意深く観察する中で、ある特定の形状、機能、プロセス、システムなどからインスピレーションを持ち、それを私たち人間界の課題(Challenge)に適用していくプロセスです。一方、CtoBはChallenge to Biologyの意味で、先ほどとは逆の流れでアイデアを着想していきます。社会課題に着眼し、その問題分析からスコーピングを始めます。イシューをより具体的に機能として抽出し、そこから生物学の世界に当てはめながらソリューションを探求していきます。デザインアイデアも常に自然システムの原理原則に当てはめながら、より再生的、循環的な解決策を追求していきます。いずれこの思考プロセスや、具体的なイノベーションのフレームワークはどこかでご紹介したいと考えております。

2014年にフォーブスが発表した企業が今後成功していく上で重要なテクノロジーのランキングでは、IoTやビッグデータを抜きバイオミミクリーが1位となりました。米国では、バイオミミクリービジネスが今後10年以上の期間の間に、160万人の雇用効果を創出するとも言われています。リジェネレーションの動きが広がる中、具体的な解決手段の一つとして、このバイオミミクリーはより必要性が高まるでしょう。

だからこそ、単に人間主体のビジネス、繁栄のために自然の叡智が使われるのではなく、すべての人たちが3つの原理原則を大切にしながら、自然界にフィットしていくために何ができるかを考えていくバイオミミクリーの世界を私は大切にしたいです。そして、多くの専門家や多様性と協働共創しながらリジェネレーションの世界を一緒に創っていきたいと思います。

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東 嗣了
東 嗣了(あずま ひであき)

サステナビリティ・リーダーシップコンサルタント。これまで400社、3万人以上を対象に、人と組織の本質的な変化・変革を支援。左脳的なロジックと右脳的な感性をバランス良く取り入れることが強み。日本におけるサステナビリティ・リーダーの育成に情熱を注ぐ。バイオミミクリーのコンサルティング会社「Biomimicry 3.8」の共同創業者であるデイナ・バウマイスター氏から、直接指導を受ける中、共創型ラーニングコミュニティ「バイオミミクリー大学」を立ち上げ、リジェネレーションに向けたシステム変容を支援している。アリゾナ州立大学院サステナビリティ・リーダーシップ学エグゼクティブ修士。(株式会社SYSTEMIC CHANGE www.systemichange.com )