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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

いま求められる「インナー・サステナビリティ」 自分を見つめることが持続可能な社会をつくる

ファシリテーターの東氏

持続可能な社会を実現するには、まず「自分」がサステナブルになること──そんな機運が近年高まっている。個々人の心と体の内側は、文字通り「インナー・サステナビリティ」。企業も組織づくりやリーダー育成の手段として注目し始めている。サステナブル・ブランド国際会議2020横浜では、このインナー・サステナビリティをテーマにしたランチセッションを開催。参加者は、自然体験などを通じて心と体をつなげる活動をしているパネリストの話に耳を傾けたが、それはつかの間の忙しさを忘れ、自分自身と向き合う貴重な体験となったようだ。(いからしひろき)

ファシリテーターはSYSTEMIC CHANGE代表取締役の東嗣了氏。パネリストはHARAPPA代表取締役 ガクチョーの塚越暁氏とグリーンドック 保健農園ホテルフフ山梨取締役の春日未歩子氏。

まずは東氏から、今回のセッションの企画意図について説明があった。

東氏は仕事柄さまざまな企業の人達と交流があり、近年サステナビリティやSDGsが活動の重要なテーマになってきていると実感しつつ、そうした理念と企業で働く個々人との間には「分断」が起きているのではないかと危惧する。

例えばあるSDGs担当者から「僕がもう持続可能じゃなくなっています」という言葉を聞いたこともあり、「外に向けてのサステナビリティも大事だが、内側=自分自身のサステナビリティがないと上手くいかないのでは」と思うようになったという。

実際、これまでに海外で開催されたSB国際会議では「内側」を扱うセッションが多いという。例えば2年前のSB国際会議デトロイトでは、早朝に参加者がヨガを行うセッションが行われたり、屋外の自然の中でワークショップをしたりということが、東氏には印象的だったそう。しかし日本ではまだ理念や活動実績など外側をテーマにしたものが多く、内側のことはあまり扱われていないと東氏は話す。

どうすれば「インナー・サステナビリティ」を獲得できるのか。その鍵を握るのが「自然との関わり」だ。

デトロイトでは「自然と触れ合う体験や自然を愛する心がない人にサステナビリティは語れない」という言葉も出た。これは逆説的に「自然とふれあう体験を増やし、自然を愛する心を養うことが、サステナビリティ実現の近道になる」とも言える。

そこで今回、ともに「自然」をフィールドあるいはツールに用いることで内側のサステナビリティにつながる活動をしている2人に登壇してもらったというわけだ。

「まずはやってみて」

HARAPPAの塚越氏は「原っぱ大学」という「親子のための遊びの学校」を運営し、自らその「ガクチョー」を名乗っている。行っているのは「ただただ遊ぶ」ということで、ポイントは「子どもだけでなく大人も遊ぶ」ということ。放置林をフィールドに焚き火をしたり小屋を作ったり、アスレチックを作ったり、泥だらけになって遊んだり、虫をつかまえてきて食べたり(ダンゴムシは調理するとエビの味がするそうだ)、イカダを作って川に浮かべたり……など、自然を相手にした遊び全般、つまり「なんでもあり」。

「ただし自然保護活動ではない」と塚越氏は強調する。例えば、生えている木にペンキを塗ったりすることも厭わない。それが「子どもたちの自然な欲求」だからだという。

また、ゴール設定や課題意識などもまったくないと強調する。「まずやってみて、その結果から何かを得られれば良い」というスタンスだ。さらに、この活動のメリットや子どもの生育上の効果などについても一切約束しない。なぜなら目的のためでは面白くないし、遊びにならないからだ。いわば「いいからやろうぜ」の精神である。

塚越氏は「子どもが好き、という大人には警戒する」という。塚越氏は子どもと大人を分けて考えないのがポリシーで、その理由は「子どもは特別な存在じゃない」から。子どもは平気で他の子を蹴っ飛ばしたり、陰で意地悪したりする。しかしそれが人間であり、大人もそうである。だから、安全管理の面は別として、子どもだけを特別扱いする必要はないという考えだ。

日本人は「分断」されている

グリーンドック 保健農園ホテルフフ山梨の春日氏は、精神保健福祉士と公認心理師の資格を持ち、メンタルヘルスの専門家として27年の実績がある。

春日氏は塚越氏の活動を引き合いに出し、「大人が遊ぶためには──特に日本人は──まず疲れを取る必要がある」と述べた。日本人は健康長寿だがメンタル面が脆弱で、「メンタルが身体に不健康な状況をつくっている」のだそうだ。日本人の自殺者も、総数こそ減っているが、被雇用者の自殺が増えているのも仕事の疲れが原因だという。ではなぜ疲れがとれないか? それはさまざまな「分断」のせいであると春日氏は言う。

「まず心と体の分断が起きている。本当は体を休ませたいのに、頭でやらなければいけないことがたくさんあって、そこが繋がっていない。そして、人と人とも安心したつながりが持てていない。さらには自分が本当にやりたいことも分かっていない、これは魂の分断だ。生活している場所も自然と分断されている。このようにさまざまな『つながり』が分断されている状態に、今の日本人の精神状況はある」

そうした「分断」を再びつなぐための場所として作られたのが、「保健農園ホテルフフ山梨」だ。山梨市の捨て置かれたホテルをリサイクルしたもので、敷地は2万坪。畑もある。

宿泊者は、そこでさまざまなプログラムを体験することで、自分を取り戻していく。ここでも重要な媒介役となっているのが「自然」だ。

「畑仕事や森林浴などから自然の仕組みを学ぶことで、自然の循環を体に染み込ませることが大事。頭ではなく体で感じないと本当に自分でやりたいことは見つからない」

森が持つ癒やしの効果は絶大だ。同ホテルの森林セラピーでは森のベッドで眠る体験も行っているが、虫が嫌いな人でも平気で寝られるという。そして普段不眠に悩む人も「寝落ちする」そうだ。

「2泊3日で皆さん元気になります。大地とちゃんと繋がることで視野が広がり、過去ではなく今を中心に未来を見据えることができるようになるから。それはエネルギーの循環が起きているということ。自然の持つ『人間を回復させる力』は大きい」

自然の中で「鎧」を脱ぐ

さて、では「人が自然とつながる」と、どんな変化が人間に生まれるのだろうか。塚越氏は、「大人が一番変わります」と言う。

子どもは放っておけば勝手に遊ぶが、大人は社会的な役割意識が強く、活動にも無意識に「親」という役割で重武装して来る。それが親自身の心を固く閉ざす原因になっているのだが、自然との活動を通じてその「鎧」が脱ぎ落されるという。

例えばある参加者の母子。母親は小学生の息子を心配するあまり、常に子どもの先回りをし、「それは迷惑だよ」「危ないよ」と行動に制限をかけていた。そんなあるとき子どもが「木の上にトンカチを打ちたい」と言い出した。塚越氏が肩車をして助けてやったが、子供は小さいので釘1本打つのに時間がかかる。親は自分の子どもが塚越氏を専有していることを申し訳なく思い、手助けして早く終わらせようとする。しかし塚越氏は「ちょっと待って」と制止。そして30分後、子どもがなんとか釘を打ち終えた時、母親に変化が見えた。

「後ろに立っていたお母さんの空気がフッと変わったんです。ホロリと涙したようにも感じました。それ以来、お母さんは子どもの先回りすることがなくなり、自分自身が他の人とおしゃべりしたり、料理をしたり、自分自身の時間を使えるようになりました。親子が『人と人』として繋がれたからでしょう」

このエピソードに対し、春日氏はこう意見を述べた。「子どもの成功体験で母親の自己肯定感が上がったのでは。実は成功し続けることが自己肯定感を下げることもある。失敗してもいいという気持ちがあるからこそ、初めて自己肯定感が上がる。日本人は完璧主義なので自己肯定感が低い。チャレンジを許せるくらいの不確実性は、自己肯定感を上げるために必要」

塚越氏も「自然相手はまさに不確実性だらけ」と同調する。「イカダを作るぞ!といって川に行っても、30センチも進まず沈没。でも皆が大喜び。失敗が許されるのは屋外ならではなんです」。

自身も子どもと「原っぱ大学」に参加している東氏は、五右衛門風呂に入ろうと思ったら冬で冷たくて皆凍えたり、1人目が入ったら泥だらけになってしまったりした失敗体験を挙げ、「そうしたハプニングが起こることで不確実性が学べる」と指摘する。

3人の話をまとめれば、「失敗を恐れずなんでもやってみること」が大事なのだろう。その結果、われわれの「内側」には何が起こるのか。

塚越氏によれば、「原っぱ大学ではとってきた虫を調理して食べたりするが、いざ食べてみると、虫に対するハードルが下がる」という。そこに起きているのは、自分は虫が嫌い、という思い込みからの脱却。つまり人間は、体験することで新しい自分、本当の自分にシフトしていけるのだという。

「いまトラウマ治療のエビデンスの最前線は曝露療法。嫌いだと思っていることに向き合わないと良くならない。それと向き合い、越えて行くための時間やスペースが今後は重要になってくるはず」(春日氏)

あっと言う間の45分間だった。最後に春日氏の主導により、参加者全員で瞑想を行った。

姿勢を正して目をつぶり、春日氏の打ち鳴らす鈴の音に集中すると、不思議と心がリセットされた気がした。こうした時間を日常の中に少しでも持つことは大事だろう。

最後にファシリテーターの東氏がこうまとめる。

「個人の感情や思いを大事にしていかないと組織は変わらない。本当は自分がどうしたいのか、きわめてパーソナルな思いを語れる環境づくりが重要。人の心のすべてがビジネスにつながっていく、そういう時代が来ていると思う」

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」(自由国民社)がある。