どのように企業パーパスを届け、共感を得るのか――花王とサントリーの生活者コミュニケーション
SB国際会議2024東京・丸の内
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企業は、自社のパーパスをどのように生活者に届け共感を得て、社会課題の解決につなげるのか。2月21日に行われたセッションでは、パーパスを社内に浸透させ、社内外で共有しながら生活者とのコミュニケーション活動を推進する、花王とサントリーホールディングスの最新事例を紹介。22日には、その具体的なアイデアの創出方法を、米国サステナブル・ブランドが参画するタスクフォース「Brands for Good」が開発した『SB Pull Factor Workshop』の体験を通して学んだ。(いからしひろき)
Day1 ブレイクアウト
ファシリテーター
高島太士・Brands for Good+ コミュニケーション・プロデューサー
パネリスト
市川里津子・花王 PR戦略部門 PR戦略センター 事業PR戦略部 部長
大塚江美・サントリーホールディングス コミュニケーションデザイン本部企画部 課長
「もったいないを、ほっとけない。」花王の生活者コミュニケーション
花王の市川里津子氏は、まず同社のパーパス「豊かな共生世界の実現」を紹介した。このパーパス実現には、人や製品を通して人々の生活に役立つ「ブランドコミュニケーション」と、それにプラスして社会や地球に貢献する「企業コミュニケーション」の両輪で取り組んでいるという。
こうした取り組みのひとつに、「よきモノづくり」という同社の企業理念を前提にした、暮らしの中のもったいないに気づき、生活者がアクションを起こすきっかけをつくる「もったいないを、ほっとけない。」がある。コアターゲットは、20〜30代とし、「ほっとけない」という言葉に「当社と同じようにもったいない、ほっとけないという共通認識をもっていただきたい」(市川氏)という思いを込めた。
市川氏
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「もったいない」の一例として、「洗剤を使い過ぎ」、「食器洗いの水を使い過ぎ」、洗剤などの「詰め替え時の液残り」を挙げ、それぞれ、泡切れの改善や液が残らない容器を開発したり、詰め替えパックの水平リサイクルなどをしている。動画「もったいなインタビュー」では、Tシャツやフライパンにインタビューするというスタイルで、そうした取り組みを紹介。コミカルなやり取りが笑いを誘い、ブランドマーク(月の形)がさりげなくどこかに入っているという遊び心をプラスした。
この動画について市川氏は、「実は社内で異論があった」と話す。そこでターゲットと同じ年齢層の社員にヒアリングしたところ「説教臭くなく、すっと入ってくる」と評価が高かったため、採用に至ったという。市川氏は、「こうしたエビデンスの積み重ねが、社内の説得材料になる」と付け足した。
また生活者により深く理解してもらうため、親子セミナーや花王のファンづくりイベント「月祭(つきさい)」など、リアルイベントにも力を入れている。詰め替えパックの水平リサイクルは「いかに使い終わった詰め替えパックを集めるか」がポイントになるため、社内で回収を呼びかけ、社員の意識向上を図っているという。アンケート調査では、業務で意識するようになった社員が50%、生活で実践する社員が46%という結果が得られた。市川氏は、「みんなが『もったいないを、ほっとけない。』という意識をもつようになれば、社会や地球は少しずつ変わっていく。ぜひ、そのきっかけをつくっていきたい」と結んだ。
「#素晴らしい過去になろう」に込めたサントリーの描く未来
サントリーホールディングスの大塚江美氏は、「“サントリー”というブランドは、ありがたいことに認知されており、いかにこのブランドにイメージを寄せていくかを重視している」と話す。
同社のコミュニケーション戦略「#素晴らしい過去になろう」は、2021年に始まり、翌年からは「新しい地図」がイメージタレントとして出演している。「消費者の共感を得ることと、未来の“自分ゴト化”を促すこと」を伝える内容だ。「子どもたちの未来を用意するのは、いずれ過去となる自分たち」というメッセージは、幅広い世代からの高評価を得ているという。
こうしたコミュニケーションは、こどもの日や6月5日の世界環境デーなどに合わせて発信。同社は1973年から、鳥が住める美しい川の保全のため「愛鳥活動」をしており、昨年、活動50周年を迎えた。CMで語られる「これからも、大自然の仲間に相談したいことがいっぱいあるんだ」を引用し、大塚氏は、「私たちは自然の一部であり、自然に生かされ、特に当社は自然の恵みを使わせていただいている。会社として自然への畏敬が強くある」と話し、「サントリーらしさが表れた、社員の思いがこもった作品」だと満足げだ。
大塚氏
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リサイクルに関しては、2030年までに使用するペットボトルを100%サステナブル素材に変更する目標を掲げ、家庭での正しい分別方法や外出先でのリサイクルの重要性を伝えるキャンペーンを展開している。自社だけでなく、社会全体の問題としてリサイクルを捉え、より広い範囲での実現を目指す。
大塚氏によると、こうした取り組みはサントリーの企業文化に根ざしており、社員同士が積極的に協力し合い行動していることが成功の鍵だという。さらに、他社との協業も行っており、「パーパスが同じであればより多くの企業と連携していきたい」と大塚氏は述べた。
大塚氏の話を受けて市川氏は、「先ほど紹介した『月祭』は社員が総出で参加している。社員が頑張っている姿に消費者の皆さんが感動してくださっている。社員の活動を消費者コミュニケーションとして前面に出すのは大切」だと話した。
高島氏は、「社員のモチベーションアップや、サステナブルリテラシーを上げるための一つの方法が、花王やサントリーのように社員が実際に行動すること。行動が積み重なって初めて、生活者マーケティングとしての形ができる」と実践の重要性を強調してセッションをまとめた。
DAY2 ワークショップ
生活者が望むコミュニケーションのアイデアを見つけ出す
高島氏
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『Pull Factor Workshop』は、「Brands for Good」の基本的な考え方を学び、具体的なアクションに落とし込むため、提供されている企業向けの研修ツールだ。Brands for Good+ コミュニケーション・プロデューサーの高島氏は、「消費者がブランドに製品以上の価値と社会的課題解決への貢献を期待している今、そのニーズに応える方法やアイデアを見つけだすことは企業の最重要課題」だと強調。高校生から企業のサステナビリティ担当者まで、さまざまな背景を持つ約20人の参加者が4〜5人のグループに分かれ、本来7時間かけて行われるワークショップのダイジェスト版を体験した。
まずは、細かく人物像が設定されている4人のペルソナから、1人を選ぶことからスタート。そのペルソナの“グッドライフ”を想像しながら、その人が好みそうな持続可能なアクションを見つけ、そこに企業としてどうアプローチできるかを探っていく。
参加者は「リサイクル品を選ぶのは難しいと言っているところにむしろ可能性を感じた」「彼女のような起業女性を自社は支援したい」などと話し合いながら、ペルソナを決め、その後、「水と食品廃棄を減らす」「公平さと機会の拡大」など『9 SUSTAINABLE ACTION』に当てはめていった。
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このアクションは、SDGsの17の目標を個人レベルに落とし込んだ行動指標で、大きく気候変動への対応、資源保持、多様な社会の促進に分かれる。これに加えて、『7 NEED STATES』と呼ばれる、人々の行動を動機付ける7つの要求(成長実感、自己承認・価値、帰属意識、シンプル、ルーツがある、楽しむ工夫、パーパス)に当てはめる。
この2つのツールを掛け合わせることで、アプローチ方法が半ば自動的に生まれるのが、このワークショップの醍醐味(だいごみ)だ。参加者は、グループごとに実際の商品やサービスに落とし込むところまで体験した。
「ペルソナ視点で考えることは、生活者のために考えること。このワークショップを通じて、ブランドが生活者とより深い関係を築き、サステナブルな生活文化を醸成する手法を見出してほしい」と高島氏は参加者に呼びかけた。参加者もそれぞれがその効果を実感した様子で、2時間に渡る充実したワークショップは幕を閉じた。