石炭火力の輸出にブレーキ、国際環境NGOら市場が圧力
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世界的な脱炭素のうねりや、環境NGOらの継続的な要請により、日本企業の海外における脱・石炭火力の動きがやっと見えてきた。2月末に三菱商事はベトナムで計画中の石炭火力発電所「ビンタン3」から撤退する方針を打ち出し、三井物産はインドネシアの石炭火力発電所「パイトン発電所」の権益を売却する意向を示した。背景には機関投資家などが石炭火力向け新規融資を停止し、ダイベストメントの流れが本格化していることがある。しかし、一方でベトナムの石炭火力発電所「ブンアン2」は計画が進んでおり、融資を予定する国内3大銀行は「原則、新規石炭火力発電所向け投融資を禁止する」という企業方針との矛盾を指摘されており、今後大きな論議を呼びそうだ。(環境ライター 箕輪弥生)
三菱商事が計画していた「ビンタン3」はベトナム南部ビントゥアン省に約200万キロワット、最新の超々臨界方式で発電する石炭火力発電所で2024年の稼働を予定していた。しかし、英大手銀行HSBCなどが、脱炭素の関心の高まりを受けて撤退を表明するなど、資金面でも不透明な状態となり、三菱商事も撤退を表明した。同社が計画中の石炭火力から撤退するのは初めてのことだ。
三井物産は、2012年からインドネシア・ジャワ島東部で稼働していた同国で最大級の石炭火力発電設備「パイトン発電所」の株式を売却する意向をインドネシア政府に表明した。
この他、東芝が昨年、石炭火力発電所の新規建設から撤退を表明し、伊藤忠商事も発電燃料用の石炭事業から撤退方針を決定し3つの石炭火力発電の権益を売却する意向を示すなど、日本の大手商社や企業が相次いで脱炭素への動きを加速させている。
一方で、ベトナムに計画されている石炭火力発電所「ブンアン2」は計画が進んでいる。これに対して、国際環境NGO FoE Japan、気候ネットワーク、メコン・ウォッチ、国際環境NGO 350.org Japan、「環境・持続社会」研究センターをはじめとする環境団体らは2019年10月から数回にわたり日本政府や融資や出資を予定する銀行や企業へ、ブンアン2からの撤退を求める要請書や声明を出した。
今年1月の要請書では、昨年末にブンアン2に対し約600億円の融資契約を締結した日本の公的金融機関である国際協力銀行(JBIC)や、融資や出資をした日本のメガバンクや三菱商事、中国電力などに対し、日本が昨年表明した2050年までにカーボンニュートラルを目指す方針に相反すると訴えた。
三菱商事前で脱石炭を求めアクションを行う 環境団体有志 (2020年3月、FoE Japan提供)
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また同時にこれは三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行の「原則、新規石炭火力発電所向け投融資を禁止」という方針とも矛盾すると指摘している。
「ブンアン2」の発電所は⼤気汚染物質の排出濃度が高いことも予想されており、周辺住民の健康被害も懸念される。
これに対して小泉進次郎環境相も1月末にブンアン2石炭火力発電所の建設計画に反対の立場を表明している。
国際環境NGO FoE Japan気候変動・エネルギーチームの深草亜悠美氏は「パリ協定の1.5℃目標達成のためには、ビンタン3やブンアン2などの新規案件だけではなく、すでに稼働したり建設されたりしている石炭火力発電所も廃止していく必要があります」と話し、「石炭火力発電事業の座礁資産化はすでに現実のものになり、企業にとっても石炭火力発電事業への投資を続けることはリスクになっている」ことを指摘した。
日本は昨年菅総理が2050年までに脱炭素の方針を打ち出してはいるが、金融面で見ると日本の3大メガバンクは今なお石炭業界への融資で世界の上位3位を占めている。いわば片手で脱炭素を訴え、もう一方では石炭火力発電所を推進するというダブルスタンダードが行われていることになる。
化石燃料に関する事業は座礁資産と言われダイベストメントが急拡大している今、石炭火力発電所を新設する計画を見直し、実態を伴った脱炭素へと舵を切ることが企業に求められている。