「障がい者の可能性を示したい」元裁判所職員がeスポーツで就労支援
乙武洋匡さんと寺田ユースケさんはパズルゲームの「ぷよぷよeスポーツ」で対戦し、乙武さんが勝利した(提供:ePARA実行委員会事務局)
|
障がい者の雇用促進を目的としたeスポーツ大会「ePARA2019」が11月24日都内で開催され、出場者や企業の採用担当者に加えて乙武洋匡さんや企業に在籍している障がいのあるeスポーツ選手らも参加した。主催団体の代表を務める加藤大貴(だいき)さんは裁判所職員を辞めて福祉の世界に飛び込み、構想から4カ月で開催を実現、「障がい者が思う存分個人の能力や熱意を発揮できる場作りが大切」と意気込む。現在、出場した障がい者4人について採用が進んでいるという。(松島 香織)
2018年4月1日から民間企業では2.2%、国・地方公共団体では2.5%の障がい者雇用が義務付けられている。国は「障がい者が能力を最大限発揮し、適性に応じて働くことができる社会を目指す」と目標を掲げているが、受け入れる事業者側ではシュレッダー作業や、一日中ホームページを閲覧させるなど、採用した障がい者の能力を生かしきれず問題になっている。
加藤さんはそんな障がい者雇用のミスマッチを無くしたいと、社会福祉協議会やNPOの職員、障がい者就労支援事業者などと共に、ePARA実行委員会事務局を今年9月に設立した。ePARA実行委員会事務局は、eスポーツを通じて障がい者の練習・大会当日の様子を企業にアピールし、採用から職場定着までをサポートする。
加藤さんは2019年4月から東京・品川区社会福祉協議会の職員として成年後見に関わっている。「裁判所の職員だった時は公平中立が強く求められていたので、本当に支援が必要な人がいても積極的に助けることができず、歯がゆい思いをしていました。法律の知識を基に、より近くで寄り添える『伴走者』として福祉分野で働きたいと思いました」と話す。
福祉の分野で働くようになり、障がいのある人と接する機会が増え、「障がい者も健常者も全く変わらない」ことに改めて気づいたという。障がい者が思う存分個人の能力や熱意を発揮できる場を作り、社会全体が「障がいの有無で人を区別するのはおかしい」と再認識する機会にしたいと考えた。
そのきっかけ作りに選んだのがeスポーツだった。障がいがあっても、コントローラーなどの入力機器を工夫すれば、誰でも公平に対戦できるからだ。知人のつてをたどって、eスポーツを作業療法に取り入れている国立病院機構八雲病院の作業療法士・田中栄一さんに連絡し、障がい者用ゲームデバイスについて助言をもらったりした。
ePARA2019は身体障がいや精神障がい、知的障がいなどを抱えた障がい者と健常者15名が出場し、1チーム3名制で対戦、九州から参加したプロのeスポーツ選手を目指している障がいのある男性チームが優勝した。当日の様子は、YouTubeで自身の「車イスヒッチハイクの旅」を発信している寺田ユースケさんのチャンネル「寺田家TV」から生中継し、約2000人が視聴したという。
加藤大貴さんは「障がい者の可能性を示す、障がい者eスポーツという新しい文化を実現したい」と語った
|
「障がい者雇用が義務となったなか、意思の疎通がしやすい身体障がい者は、売り手市場になるので受け入れ候補となる企業は多い。逆に精神障がい者の雇用について、積極的に受け入れを表明する企業は少ないですが、ゲーム業界やIT企業の担当者の反応は良いように感じています」と加藤さんはePARA2019開催を通じた障がい者雇用に手応えを感じている。
一方で大会運営には課題もあったという。対戦中にハウリング音が鳴りやまず、障がいを持つ選手に負担をかけてしまったことや、会場のフロアには段差があったり、多目的トイレが無く、障がいのある参加者へのフォローが足りなかった。
来春開催予定のePARA2020では、バリアフリーの会場でもっと広く参加者を募るという。またePARAの主旨に賛同した事業者から会場提供の申し出があり、ePARA2020とは別のeスポーツイベントを開催するという。
会場を提供する事業者から「地域の人たちの参加を促したい」と要望があり、地域住民を中心に広く参加を呼び掛けて、障がい者、子ども、高齢者と多様な人たちが集まるeスポーツイベントになる予定だ。交流することで障がい者と健常者の相互理解が進み、平等な就労が可能になることを加藤さんは期待している。