イノベーション都市を目指す横浜、みなとみらいに企業のR&D拠点続々
横浜・みなとみらい地区が企業のR&D(研究開発)拠点の集積地となっている。富士ゼロックスが2010年に「富士ゼロックス R&D スクエア(現:横浜みなとみらい事業所)」を竣工して以来、資生堂、日立製作所、村田製作所、日産自動車、京セラ、LGエレクトロニクスなど、現在では主要な大企業だけでも20を超えるR&D拠点が密集する。関連企業が集まることで連携が生まれ、オープンイノベーションが盛り上がる契機になるという。連携を呼びかけるのは「イノベーション都市」を大きく掲げる横浜市だ。スタートアップ企業が集まる隣接の関内地区とも連動させ、都市をブランド化する狙い。
研究施設を一般開放:資生堂
資生堂のR&D拠点「S/PARK」2階はミュージアムとして開放。最新技術の体験も
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資生堂は今年4月、みなとみらいに研究開発拠点「グローバルイノベーションセンター」をオープンした。同センターの1-2階は「S/PARK(エスパーク)」として一般に開放している。来場者の肌の調子をカウンセリングした上でオリジナルの化粧品をその場で調合する「ビューティーバー」やカフェなどを展開し、企業の研究施設というより商業施設のような雰囲気だ。
資生堂のR&D戦略部部長の荒木秀文氏は「この先も成長を続けるために『日本の化粧品会社』という枠を超えたいと考えた」と話す。化粧品以外の再生医療などの分野にアプローチを始めたほか、5年前には研究開発への大幅な投資を意思決定し、研究施設をグローバルイノベーションセンターに移転した。
「マーケットは速度感を持って変化し、お客様が情報をたくさん持っている時代。お客様とともに価値づくりをしないとキャッチアップできないと考え、1-2階を一般開放することにした」と荒木氏は話す。消費者を呼び込むことはビジネスが狙いではなく、研究員が顧客とダイレクトにコミュニケーションをとることに価値があるという。
みなとみらい地区は企業が密集するためコラボレーションしやすい環境であることに加え、ミュージックホールや美術館、パシフィコ横浜などの施設が徒歩圏内にある。「社員がファッションやトレンドを感じながら研究できる。これから資生堂がやっていきたい活動と照らし合わせると、みなとみらいはベストな場所」だと話した。
「みなとみらいは企業間連携の動きがとても盛んで、ここにR&D拠点を持つことで世界が広がった。『このエリアだからこそ』の価値が今後も拡大していくという実感がある」(荒木氏)
ガジェット祭りでイノベーション拡大:富士ゼロックス
富士ゼロックス R&Dスクエア(現:横浜みなとみらい事業所)
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みなとみらい周辺の企業や団体が集まり技術を生かした製品やプロトタイプなどを展示する「ガジェット祭り」が今年10月、5回目の開催を迎えた。オープンイノベーションを目の当たりにするような催しだが、2回目までは富士ゼロックスの開発拠点「R&Dスクエア(現:横浜みなとみらい事業所)」の社内イベントだったという。
「同じ社内でも自分が働くフロア以外で何を開発しているのか、意外と知らなかった。社内の技術をお互い知り、社員のつながりを増やす狙いで始めた」と説明するのは同社の新成長事業創出部の森田洋平氏。
開催3年目からは横浜市が関わることで近隣企業を巻き込み、より広くオープンイノベーションを推進する催しものに発展。今年は約100の出展、延べ6000人以上の来場者が訪れた。さらに企業だけではなく、ものづくりを楽しんでいる個人どうしのつながりをつくったり、横浜市の小中学校にチラシを配り子どもたちに技術の面白さも伝えたいという思いがあるという。
「ガジェット祭りの参加企業は年々増えていて、その姿勢も積極的になり、この数年はみなとみらいエリアの熱をとても感じる。これからどのような協業ができるのか、すごく期待している」(森田氏)
子どもたちにも、ものづくりの楽しさを伝える
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富士ゼロックスの出展「自律神経指標を活用した組織活性化支援技術」。電極を通してリアルタイムで従業員の体調、パフォーマンスを測定
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村田製作所の生産技術部の新入社員が研修として企画・制作したガジェットたちはユニーク
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まちづくりとビジネスのイノベーション、両輪で:京浜急行電鉄
研究開発拠点は持たないが、みなとみらい地区に本社を置き、周辺企業との連携に大きな価値を見出す企業もある。今年6月に同地区に本社ビルを竣工した京浜急行電鉄(以下、京急電鉄)もそのひとつだ。同社が関わり2023年に始動を予定する、みなとみらい21の開発ではオープンイノベーション拠点も建設予定だという。新本社ビルはガジェット祭りの展示会場のひとつにもなった。
京急電鉄の新規事業企画室主査・橋本雄太氏は「まちづくりのなかにどうイノベーションを取り組むかが目下の課題」だと話す。所有から共有、集中から分散というパラダイムシフトの中で、これまでのインフラとしての事業運営から、サービスとしての鉄道業の在り方へと事業をシフトする必要がある。モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出のため、同社はオープンイノベーションを積極的に推進し「スタートアップ企業との連携で世界観をつくっていこうとしている」(橋本氏)という。
スタートアップ企業との事業協創を行う京急アクセラレータープログラムでは今年、5社のプロジェクトが採択された
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「オープンイノベーションを進める上で大事にしていることは、外部の方々とお話ができるように組織とマインドを変えていくこと。ガジェット祭りはその良い機会。まちづくりのイノベーション推進と、京急電鉄自体のビジネスをイノベーティブにすること、それらを両軸としてクロスさせることが必要だ」(橋本氏)
企業の連携つなぐ横浜市
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これら企業間のオープンイノベーションは横浜市が積極的に推進している。林文子・横浜市長は今年1月「イノベーション都市横浜宣言」を発した。みなとみらい地区と関内地区での同市の取り組みはイノベーション・ブランド「YOXO(よくぞ/YOKOHAMA CROSS OVER)」に集約される。
横浜市内には30の大学があり、うち9つが理工系の大学および大学院だ。市内のものづくりに関わる企業は約6000社、特に半導体産業に関わる企業は約3000社にも及び、発案から1カ月で量産化直前のチップができるとも言われるほど。研究力と人材には優位性がある。
その資源を生かすため、みなとみらい地区には電子部品を使う完成品メーカーのレノボやLGエレクトロニクス、富士ゼロックス、携帯電話メーカーのOPPO、日産自動車や中国最大の蓄電池メーカーであるCATLなど、企業のR&D拠点が集積し、協働体制にある関連企業が近隣に集まることで事業のスピード感が出る。一方で関内地区にはスタートアップ企業が活動しやすい環境を形成する。両地区の企業間のコラボレーションを推進する取り組みで「まちぐるみでのイノベーション」を実現するという。
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「YOXO」はIoTとライフ、それぞれを軸にしたイノベーション・プラットフォームを持ち、年間50以上のプロジェクトが稼働する。例えば同市とドコモ、and factory(東京・目黒)が連携したスマートホームの実証実験「未来の家プロジェクト」だ。実験参加者は1週間程度を目安に、実際にスマートホームに居住。IoTによる全自動的な健康管理や、鏡を情報表示デバイスにするといった技術活用、スマホからの家電の操作といった生活を体験する。
資生堂や富士ゼロックス、京急電鉄といった例に限らず、企業の研究開発やオープンイノベーションの先にあるのは人の生活の豊かさだ。歴史や文化は言うまでもなく、それらを背景に集まる企業や人がつながることで、横浜という地域は未来を創造しようとしているのかもしれない。