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脱炭素特集

断熱性能を義務化する「建築物省エネ法」改正法が成立、新たな断熱等級もスタート

ZEHを超える省エネ性を持つLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅も出てきている(エコワークス社のモデルハウス)

他国と比べても規制が緩かった国内の建物の断熱性能を義務化し、木材利用を促進する建築物省エネ法の改正法が6月13日、国会で成立した。2050年カーボンニュートラル実現のためにはエネルギー消費の約3割を占める建築物分野での省エネ対策が急務とされているからだ。具体的にはすべての新築住宅・非住宅に省エネ基準「断熱等級4」の適合を義務付け、2025年以降はこれを下回る建物は新たに建てられなくなる。断熱等級5~7も今年中にスタートするが、脱炭素を実現するための省エネ基準をめざすには、既存の建物の断熱改修をどう進めるか、性能表示をどうするか、課題はなお山積する。(環境ライター 箕輪弥生)

市民の声やエネルギー危機が義務化を後押し

今国会で成立した建築物省エネ法の改正法は、建築物分野での省エネ対策を強化しつつ、木材需要の約4割を占める同分野での木材利用を促進するものだ。(詳しくは表参照)

今回の改正案に盛り込まれた断熱性能の基準達成の義務化は、冷暖房のためのエネルギー使用量を抑制するのと同時に、ヒートショックなどの健康被害も減らす。木材利用により、建築時の二酸化炭素排出は少なくなり、炭素も固定され貯蔵される。

改正法の概要

「今回の改正法が成立した意義は、これまで義務化から外れていた断熱性能が法律で定められたことにある」と東北芸術工科大の竹内昌義教授はその意義を強調する。

欧州の脱炭素化政策は、再生可能エネルギーの利用拡大と同時に、建築物の断熱化もセットで進めて成果をあげてきた。しかし、日本では元々家庭のエネルギー消費量が欧米に比べて少ないことや、対策のための費用加算で住宅販売が落ち込むことなどへの懸念もあり、国は建築物の省エネ化に積極的ではなかった。

そのため、再三の建築物省エネ法の改正のチャンスがあったにも関わらず、成立が見送られてきた。それを今回一転して成立にこぎつけた背景には、竹内教授が発信人となり市民や業界団体、環境団体などから多くの署名を集めたことがある。

さらに、「ウクライナ情勢と国内の電力逼迫によるエネルギー危機が顕在化したことも、状況を変えていくことにつながった」と竹内教授は分析する。

断熱等級4の意味 カーボンニュートラルに必要な断熱性能とは

今回の省エネ法改正により、すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準「断熱等級4」の適合を義務付け、2025年以降はこれを下回る建物は新たに建てられなくなる。

「断熱等級4」とは、壁や天井だけでなく、開口部も断熱を行うことが必要とされる。具体的には、グラスウールなどの断熱材を屋根裏に20㎝、壁に10cm程度、サッシはアルミサッシのペアガラスを使うことで実現できる。

「もちろん断熱性能が義務化されたことは大きな成果だが、基準となる断熱等級4というのは欧州などから比べたら低いレベルでクリアすべき最低基準」と話すのは、九州地域で環境に配慮した住宅の販売に力を入れるエコワークス(福岡市)の小山貴史社長だ。

現状の新築物件は8割がこの基準をすでに超えているのに対し、既存の建物では12~13%に留まる。

実際、国内でも4月には23年ぶりに上位等級となる「断熱等級5」が新設され、10月には「断熱等級6・7」が創設される。

カーボンニュートラルを目指すためには、「断熱等級6にソーラーパネルを載せるぐらいのレベルでないと難しい」と竹内教授は話す。

小山社長も「等級5や6があると知ることで、(等級4よりも)さらに高い断熱性能についての消費者の関心が高まるのでは」と期待する。

また、新築だけでなく、等級4の基準を満たしていない8割以上の既存の建物の断熱改修も急がれる。「全く何の対策もしていない家の断熱改修をすることは、大きな効果を生む」と竹内教授も指摘する。

既存の建物の断熱改修は、「屋根裏に断熱材を入れたり、床下の気流を止める、内窓をつけるなどの対策をするだけでもエネルギー消費を大きく抑える効果がある」(竹内教授)という。

家の燃費も評価する時代へ

等級が増えるに伴い、住宅の省エネ性能の評価も重要となる。ドイツでは2008年から、建物の年間のエネルギー消費量とCO2排出量の表示を義務付ける「エネルギーパス制度」があり、不動産売買でも指標のひとつとなっている。

日本でも「住宅性能評価」などの制度はあるが、温熱環境、エネルギー消費に特化した評価の義務化はこれからだ。

さらに、今回の省エネ基準の義務化は地域での脱炭素を促進する効果があると竹内教授は指摘する。

「建物省エネ法の義務化によって自治体が、それぞれの目標に合わせて条例を変えていくことができる」と竹内教授が言うように、すでに地方自治体では長野県のように、国に先行して建物のエネルギー消費性能を重視する県もある。

今後は、地方自治体の二酸化炭素削減目標に合わせて、独自に住宅の断熱性能などを設定する自治体が増えていく可能性がある。

国がようやく重い腰をあげて始まった建物の断熱性能の義務化だが、竹内教授が「スタートライン」と評するように、既存の建物の断熱改修、カーボンニュートラルを実現するためのさらなる断熱性能の追求、エネルギー消費量や断熱性能を評価する仕組みなど、日本が取り組む課題はまだまだ多いようだ。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/