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「事業による社会課題解決」を経営の中核に据える企業が増えてきました。こうした潮流は、マーケティングの新しい定義からも見てとれます。企業が『社会の役に立つ』ために、経営者目線で押さえておきたい大事な概念を整理しておきましょう。
経営戦略として、『社会の役に立つ』ために
多くの会社が、「パーパス(Purpose)」を標榜(ひょうぼう)するようになりました。会社の目的、社会における存在意義が端的に表現されています。そこには、ほとんど全てと言ってよいくらいに「社会を幸せにする」「社会を豊かにする」といった概念が込められています。サステナビリティ時代において、パーパスを実現するためには、社会の『要請と期待』に応えることが必須です。
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したがって、自社がいかに社会の役に立つかを経営の軸足に置くならば、まずは、社会に迷惑をかけるわけにいきません。これが、『要請』に対応して悪い影響(Negative Impact)を防ぐ「基本的CSR」です。その要請をきちんと果たした上で、「社会の役に立つ」ために良い影響(Positive Impact)を創出します。こちらが『期待』に応える方で、Off Businessで行う「社会貢献活動」と、On Businessで取り組む「事業による社会課題解決(CSV:Creating Shared Value:共通価値の創造)」の2つの側面があります
こうした文脈から留意すべきことは、いくらサステナブルな商品でも、サプライチェーン等で環境や人権を害することがあっては元も子もないということです。基本的なCSRが担保されていてこそ、CSVが成り立つということです。
社会貢献活動の恩恵
『事業による社会課題解決』の考え方が普及する中、企業の「社会貢献活動」はどのような役割を担うべきかというテーマはますます重要となっています。経団連の定義では、「社会貢献とは、自発的に社会の課題に取り組み、直接の対価を求めることなく、資源や専門能力を投入し、その解決に貢献すること」とされています。
すなわち、企業は社会の一員であり、社会は企業の存立基盤なので、その社会が抱える課題に、自発的に経営資源を投入することが求められています。企業の社会貢献活動は、社会に付加価値を提供したり、地球環境保全や健全な社会づくり等に寄与することに加え、結果として企業側もさまざまな恩恵を受けます。社会的なリスクへの感度が高まり、社会からの信頼度や好感度が醸成されるとともに、社員の社会性が磨かれ、能力開発や士気の高揚、自社へのロイヤルティー醸成など『人的資本』の向上につながります。
さらに、『自社らしさ』を生かしたプログラムが開発できれば、実は最も経営効率の良い社会貢献となります。つまり、単なる他社のまねや横並びで、解決能力が未熟な分野での取り組みは、かえってリスクとなります。逆に、『売るほどある』商品・サービス、それにまつわる「餅は餅屋」の専門性・知見・ノウハウが投入されれば、最も経営資源が効率的に、安全に、効果的に活用されることになります。
こうした観点は、金融機関や投資家等のステークホルダーから調達した資金を、責任を持って投入する企業にとって大変重要です。社会貢献活動は、企業の資源を事業ではなく社会に拠出する以上、ステークホルダーへの説明責任の観点から、情報開示が急速に進展してきています。企業理念やパーパスとの整合性を担保し、得意技や伝家の宝刀による『自社らしい社会貢献』を行い、結果として、コーポレートブランドや中長期的な企業価値向上につなげていくという骨太なストーリーを語りたいものです。
マーケティングの新定義より
当初は『事業による社会課題解決』というと、ともすると肩ひじを張って構えて取り組む様相がありましたが、今やビジネスの自然体となりつつあります。こうした中、公益社団法人日本マーケティング協会が、34年ぶりに『マーケティングの定義』を刷新しました。主な背景として、社会全体のデジタル化の急速な進展、企業と顧客や社会との価値共創の潮流、長期的な視点でサステナビリティに貢献することが企業評価の新しいモノサシになってきた点などが挙げられます。
下記が、マーケティングの新定義です。
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである ~日本マーケティング協会 2024年
マーケティングの世界においても、顧客に対する製品・サービスの提供はもとより、ステークホルダーとの良好な関係のもとに、『地球や社会にもよい』といった社会的価値がますます志向されるようになってきました。あわせて顧客価値においても、サステナビリティ要素が重要視されるようになり、競争優位の源泉となってきています。『社会の役に立つ』というアプローチは、現代におけるマーケティングの芯や背骨と言えましょう。