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代替たんぱく質は最も資本効率の高い気候変動緩和策 BCG調査

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Photo by Maddi Bazzocco on Unsplash

近年、食料安全保障やこれまでの家畜中心の農業が気候変動に与える影響への世界的な懸念が高まり、またコロナ禍での動物性食品の価格上昇も相まって、代替たんぱく質の販売や資金調達は活況を呈し、世間の関心も増すばかりだ。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と、持続可能な食料システムの構築に特化したインパクト投資会社「ブルー・ホライズン(Blue Horizon)」は7月、新たなレポート『代替たんぱく質にみる、手付かずの気候変動機会(The Untapped Climate Opportunity in Alternative Proteins)』を発表した。

レポートによると、世界の温室効果ガス排出量の26%は食品のバリューチェーン(食料システム)が原因だ。代替たんぱく質への転換は、気候変動に対処する上で、最も資本効率が良く、インパクトのある解決策となる可能性があるという。

レポートでは、2035年までに世界で消費される肉や魚介類、卵、乳製品などのたんぱく質消費量の少なくとも11%を代替たんぱく質が占めると予想されている。技術の発展や投資家、規制当局の後押しが加速すれば、同年までに22%に上る可能性もある。さらに、植物由来の代替たんぱく質への転換は、気候変動の緩和に最も効果があるとされるセメントの脱炭素化に比べ、1ドルの投資で3倍の排出量を削減できることが分かったという。

植物由来の代替たんぱく質は、他のセクターの脱炭素化対策よりも投下資本の効果が高い

新たなレポートの調査は、中国、フランス、ドイツ、スペイン、アラブ首長国連邦、英国、米国の7カ国3700人以上の消費者を対象に行われた。レポートでは、代替たんぱく質を試す理由と、継続購入を阻む要因に関する調査結果が紹介されている。

回答者の4分の3は代替たんぱく質に切り替える主な動機として、より健康的な食生活を挙げた。さらに、3割以上の回答者が切り替えることで気候変動に大きな好影響を与えられると考えられれば、日々の食事を完全に代替たんぱく質に切り替えると回答した。

7カ国の消費者は、代替たんぱく質を前向きにとらえていることが分かった。76%が代替たんぱく質の存在を知っており、10人中9人がこれまでに試した代替たんぱく製品のうち少なくともいくつかは気に入っていると回答した。

中国とドイツの消費者は従来のたんぱく質の価格に近い価格を代替たんぱく質に支払うことに最も前向きだが、いずれの調査対象者も味、食感、栄養面で肉と同等の代替たんぱく質にプレミアム価格(上乗せ価格)を支払うことには前向きでない。プレミアム価格で販売するには、気候変動への影響以上の付加価値が必要だ。

BCG マネージングディレクター兼パートナーの ベン・モラック氏はこう話している。

「世界ではおよそ3人に1人が食料不足に直面している。地政学的な危機によりサプライチェーンや食料価格への影響は増しており、世界の食料システムにさまざまな課題が生じている。

そうしたなか、動物性たんぱく質からの脱却がサプライチェーンを縮め、よりレジリエントで、ローカルな調達網の構築につながる可能性もある。代替タンパク質が広がることで、サプライチェーンが混乱するリスクを排除し、気候変動への取り組みに重要な役割を果たすこともできる。消費者は、こうした移行を推進する上で重要な役割を果たす」

加速する資金調達

代替たんぱく質への投下資本は、2019年の10億ドルから2021年の50億ドルへと年率124%で増加している。サステナブル・ブランド ジャパンでも紹介したアレフ・ファームズオパリアなどの発酵や動物細胞を使って代替たんぱく質を製造する企業への投資が伸びてきている。

代替たんぱく質への投資は世界的に拡大している。中東の投資家は、動物細胞を使い培養肉をつくる企業への投資に重点を置く傾向があるが、昨年の代替たんぱく質への投資額は世界全体の投資の11%を占め、植物由来の代替たんぱく質関連のAPAC(アジア太平洋地域)への投資は2020年から2021年にかけて92%増加した。

投資家にとって今回のレポートの重要点は、植物性たんぱく質への投資が、他のどの産業よりも二酸化炭素やメタン排出の削減において設備投資効率が高いということだ。

植物性たんぱく質市場の拡大により、2035年までに0.85ギガトンの温室効果ガス排出量を削減することができる見込みだ。これは、航空業界の大半を脱炭素化する量に相当する。植物性たんぱく質への投資は、投資資本当たりの排出量削減効果が最も高く、セメントや鉄鋼、化学、運輸への投資の少なくとも2倍の効果がある。

イスラエルや中国、代替たんぱく質の規制に大きな進捗

レポートが指摘するように、代替たんぱく質市場でイノベーションが加速し、急成長する中、安全で健康的かつ透明性の高い食品を顧客に確実に提供するには、実用的で効果的な規制が不可欠だ。

世界の規制当局は、発酵技術や動物細胞を用いた代替たんぱく質商品の承認を加速している。イスラエルは2015年、食品安全を規制する新たな枠組みを代替たんぱく質に適用することを発表して先陣を切った。

中国は、2022年1月に発表した最新の5カ年計画で、「従来の作物や家畜、家禽にとどまらず、より豊富な生物資源を拡大する」ことの必要性を明かし、動物細胞由来の代替肉やその他の代替たんぱく質を食料安全保障戦略の一部に位置づけた。

連携と変化が求められる5分野

たんぱく質への転換を加速させ、持続可能な食料システムへの移行をさらに広く推進する上で、誰もが利害関係者となる。政策立案者や規制当局、バリューチェーン上の企業、投資家、スタートアップ、消費者など、各ステークホルダーがとるべきそれぞれの行動がある。

レポートは今後、5つの分野において協調して行動を起こしていく必要があると指摘する。

・農家の支援
・公平な競争条件の保証
・食料システムに変革を起こすベンチャー企業への資金投入
・資源と廃棄物の回収の最適化
・代替たんぱく質への消費者の受容を継続的に高める

ブルー・ホライズンのビョーン・ウィッテCEOは、「技術革新が進むことで、消費者が現在、毎日のように目にしている製品については、より透明性が高く、健康的で、美味しい代替タンパク質を使った製品が新たに誕生するだろう」と語る。

「自社のポートフォリオのみならず、フードテック業界全体において技術が急速に発展しており、消費者向け製品のラインナップが全体的により向上していることを実感している。消費者にとって素晴らしいニュースだが、まだスタート地点だ。代替たんぱく質への転換が地球環境に与える影響は明らかで、未来の世代に大きな恩恵をもたらすだろう。

今回のレポートは、代替たんぱく質への転換が、温室効果ガスの排出を防ぎ、投下資本の効果を生み出す最も資本効率の良い方法であることを裏付けるものだ。代替たんぱく質の市場浸透率が2035年までに11%に達せば、航空セクターの95%(2019年の同セクターの排出量を基準)を脱炭素化するより多くの二酸化炭素排出量を削減できる。このポジティブなインパクトは非常に大きく、かつてないほど関心が高まっており、今こそ投資する時だ」

世界の食料システム、特に食肉部門は現状のままでは持続不可能だが、技術によって動物の使用を完全に置き換えることもできる。アレフ・ファームのサステナビリティの責任者であるリー・レヒト博士が最近指摘したように、地球環境に最大かつ最速の影響をもたらすには、食物の栽培・生産過程における取り組みを推進することが必要だ。より持続可能な食料システムを構築するには、環境負荷を低減する形で生産された従来のたんぱく質と代替たんぱく質の共存が鍵になるだろう。