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三菱商事やレオナルド・ディカプリオも出資 アレフ・ファームズの3Dバイオプリント培養肉は持続可能な食の未来を切り開くか

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Scarlett Buckley
アレフ・ファームズの培養肉ステーキ

食肉の消費量は世界的に2023年まで毎年増加することが予想されている。一方で食料生産は世界の温室効果ガス排出量の26%を占め、世界で人が住める土地の50%は農業に使われ、その農地の80%は家畜に使用されているものの、家畜は世界の供給カロリーの20%にも満たない。そうした中、植物由来の肉や培養肉など代替肉市場が拡大している。最近、レオナルド・ディカプリオ氏が出資して話題になり、三菱商事も提携して国内展開を目指すイスラエルの培養牛肉のスタートアップ「アレフ・ファームズ」のディディエ・トゥビアCEOを米国のサステナブル・ブランドが取材した。(翻訳=梅原洋陽)

家畜を育てることによって生じる環境への甚大な影響はこれまでも十分に報告されてきた。工業的食肉産業は気候変動、水質汚染、森林破壊、森林火災、生物多様性の喪失、酸性雨、人権侵害、そして土地の収奪の主な原因となっている。集約的な畜産業は地球に大きな影響を与えており、その中でも牛肉は特に悪影響を及ぼしている。牛肉は1 kgあたり、60 kgの温室効果ガスを発生させ、900ガロン(約4090リットル)の水を必要とする。

食肉の需要が減ることはないために、世界中のイノベーターや科学者が環境に大きな負担をかけない、美味しい代替食品を作る取り組みをしている。植物性タンパク質の代替食品のマーケットが爆発的に拡大していることは、希望がもてる進展ではあるが、世界の人々の食欲を満たす持続可能な食肉の供給源も必要だろう。

イスラエルのスタートアップ企業アレフ・ファームズ(Aleph Farms)は、テクニオン・イスラエル工科大学のバイオメディカル・エンジニアリング学部と提携し、生きたまま培養された動物の組織を3Dバイオプリントして、世界初の無屠殺の培養リブアイステーキ(リブロースステーキ)を開発した。

ディディエ・トゥビアCEO(中央)と経営陣。アドバイザリーボードにはレオナルド・ディカプリオ氏やSB2021 Yokohamaに登壇したマーク・バックリー氏などが名を連ねる

アレフ・ファームズの共同設立者でありCEOのディディエ・トゥビア氏は「筋繊維入りのステーキを丸ごと1枚作っています。ステーキは動物の体外で、異なる種類の生きた動物の細胞を用いて、天然の構成要素を複製して作っていきます。われわれは、非遺伝子組み換えで、非不死化細胞を使用しています。そして、3Dバイオプリントした組織を培養すると、自然界と同じように細胞は成長し、相互作用しながら、本物のステーキのような質感と品質になっていきます」とサステナブル・ブランドに語った。

アレフ・ファームズの技術を使えば、環境に負荷をかけたり、動物を搾取せずに、食肉への欲求を満たすステーキを食べることができる。

ケージフリーの牛肉の味と食感を再現

ラボで作られた肉というのは、それ自体は新しいアイデアではない。米国を拠点とするハイテク企業のアップサイド・フーズ(元メンフィス・ミーツ)やその他のクリーンミート(培養肉)メーカーと同様に、アレフ・ファームズも動物から採取した細胞を、制御されたラボの中で成長させる。しかし、他の企業と違う点は、アレフ・ファームズの独自の工程では筋肉、脂肪、血管、そして結合組織などの肉の全ての部分を成長させることが可能で、ケージフリー(放し飼い)の牛肉の味と食感を提供しているところだ。ちなみに、アップサイド・フーズのラボで成長させた鶏肉は、従来の鶏肉のような食感が得られないと度々報告されている。

トゥビア氏は「動物の組織に本来存在する、血管のような機能を果たす構造を形成することに成功しています。それによって厚い組織にも栄養分が灌流し、家畜本来のような形や構造に似ているステーキを作ることができます」と言う。

アレフ・ファームズの培養方法は、従来の食肉の育成と比べると、ほんのわずかな時間と資源しか必要としない。同社は世界中のさまざまな食文化における消費者の多様な好みに対応できるように、豊富な培養肉のラインナップの構築を目指している。

人間が地球に与える影響を最小限にするためには、今まで通りの食肉生産をやめていくことが不可欠だ。いくつかのLCA分析(ライフサイクルアセスメント分析:商品のライフサイクルにおける環境負荷を測定する分析)は、培養肉の生産が温室効果ガスの排出量を劇的に削減し、土地の使用を90%、水の使用を50%以上減らす可能性があるとしている。また、培養肉の生産に必要なエネルギー量は中程度とされてはいるが、オランダのリサーチ・コンサルタント企業CEデルフトの最近のLCAでは、もし生産を100%再生可能エネルギーで実施すれば、培養肉は、牛肉生産によって生じる二酸化炭素の排出量を92%削減できると推定している。

アレフ・ファームズは、培養肉の環境的メリットに留まらず、新しいこの業界で唯一2025年までにカーボンニュートラルでの生産を目指し、サプライチェーン全体で2030年までにカーボンニュートラルを達成することにコミットしている企業だ。

2040年までに消費される肉の35%が培養肉に?

アレフ・ファームズの培養肉

戦略・マネージメントを行うコンサルティング企業のATカーニーは2040年までに世界全体の肉の消費の35%はラボで作られた細胞由来のものになるだろうと最近発表した。しかし、この新しい業界は世界のマーケットからの需要を満たしていくことで必死だ。トゥビア氏は、アレフ・ファームズは独自の大量生産のプロセスに5つのユニークなテクノロジーを活用していると言う。

「われわれの工程では、従来の培養肉生産で必要とされる時間や資源が大幅に削減できます。管理された環境下なので、抗生物質も必要ありません。また従来の方法では2年間かかる農場から食卓までの期間が3週間に縮まります。このような商品供給に必要な時間の大幅な短縮によってニーズに柔軟に対応できることは、特に危機的な事態ではマーケットにとって大きなアドバンテージになるはずです。これはレジリエントなサプライチェーンと食肉業界のより安全な基準を作る大きな一歩となると思います」

アレフ・ファームズをはじめ培養肉業界のイノベーターたちは最近、技術面そして規制面での進歩があり、マーケットへの浸透が進んでいる。「過去3年間にわたりUSDA(米国農務省)とFDA(米国食品医薬品局)とやりとりをしてきましたが、米国は培養肉の販売を許可する最初の国になると信じています」とトゥビア氏は言う。

多くの培養肉生産企業が商品の発売を間近に控え、マーケットは着実に育ってきている。別のイスラエル企業、フューチャー・ミート・テクノロジーズは手ごろな価格の鶏の培養胸肉の発売を開始しようとしている。米国では培養肉に関する規制の枠組みがまだ定められてはいないが、多くの企業が比較的早く商品をマーケットに出せると考えているようだ。メディア『フード・ダイブ』によると、培養鶏肉を製造するスタートアップのイート・ジャスト、ラボ由来のシーフード製造企業のブルーナルやアップサイドは製品の発売は間近だと発表している。

アレフ・ファームズはバイオファームというパイロット工場をイスラエルに建設している。トゥビア氏によると、この施設は2022年末までには操業を開始する予定で、アレフはこの施設で、薄切りのビーフ・ステーキの生産を2022年中に目指す。

トゥビア氏は「培養肉は、もはや長期的なビジョンではなく、食料生産に関する現代の最も危機的な問題に対処する実用的な解決策です。現在の状況は培養肉製品を世界のマーケットに展開してくための、継続的なプロセスです」と主張する。

科学とテクノロジーのコラボレーションによって、アレフ・ファームズのような細胞培養肉のイノベーター企業は、土地や動物を長年にわたる搾取や虐待から解放する。そして、今後数十年間にわたり、人口が増え続ける中、牛肉の供給量が十分とは言えない空腹なマーケットを満たしていくだろう。