サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイトです。ページの先頭です。

サステナブル・ブランド ジャパン | Sustainable Brands Japan のサイト

ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

先進国スウェーデンに学ぶ、ジェンダーギャップをなくす政策とは

  • Twitter
  • Facebook
TomasSereda

世界経済フォーラムによる国別のジェンダーギャップ指数報告書が発表され、日本は146カ国中116位だった。前年の156カ国中120位から順位を上げたものの、依然として主要7カ国(G7)で最下位。すべての人の命や尊厳、ウェルビーイングを守る社会を実現するには、さまざまな経済・社会システムの中に埋め込まれたジェンダー不平等・不公平を変えていく必要があるが、私たちが具体的にできることは何だろうか――。今回の記事では、そもそもなぜジェンダー平等が必要なのかを確認し、さらにジェンダーギャップ指数ランキング世界5位のスウェーデンの事例を紹介する。(松尾沙織)

2015年、世界中の人々が共につくり、SDGsの理念を記した「2030アジェンダ」の前文には「すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性と女児の能力強化を達成することを目指す」と明記されている。SDGsが施行して以来、世界ではさらにジェンダー平等、ダイバーシティ実現への意識が高まり、各国で取り組みが進んでいる。

日本でもダイバーシティ・インクルージョンの実現、女性の取締役や管理職採用への取り組みを重視する流れは以前からあるが、先のオリンピックをきっかけにジェンダーや多様性への関心はさらに高まった。

これまでのジェンダーの話題といえば、「女性の権利」の主張やリプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)にかかる生物学的な性差(sex)の話と混同されることも多かった。

そもそも「ジェンダー」とは、社会的・文化的性差のことを指す。つまり、社会や文化によって後付けされた性の役割分担やイメージと説明できる。それらはどのように私たちに影響を及ぼすのだろう。社会にジェンダーへの配慮が足りないこと、多様性が実現できていないことによって、一体どういったリスクを生み出すだろうか。

一つには、人権に含まれる尊厳や自己イメージを傷つけ、ウェルビーイングの実現を困難にすることがある。たとえば、男性でいえばお金を稼げないといけない、女性でいえば肌が白いことが良いなど、環境から受け取る規範やジェンダーイメージに苦しめられ、「そのことをしないといけない」「そうでないといけない」といういわゆる“義務” になってしまい、自己肯定感を下げてしまう可能性がある。ダイバーシティの実現が経済合理性に貢献するというデータもあるが、その人らしくいられないことは、働きづらい状況をつくりだすことにつながる。

また、昨年6月改訂の「コーポレートガバナンス・コード」で、上場企業は女性役員の積極登用や、多様な人材の管理職登用の数値目標を設定し、開示することが明記されたり、機関投資家がインデックスにジェンダー関連の指標を盛り込むなど、近年、特に、ジェンダーの取り組みは資金調達や企業ブランディングにも影響する。

さらに、不平等に設定された賃金や役割分担による活躍する機会の損失、不公平な制度によって貧困に陥り、命を守るための最低限の保障すら得られない事態に直面するケースもある。

そのような理由から、すべての人の命や尊厳、ウェルビーイングを守る社会を目指すには、既存の制度やサービス、経済、都市計画といったさまざまな社会システムの中に埋め込まれたジェンダー不平等・不公平を変えていく必要があるのだ。

“フェミニスト政府” スウェーデンが掲げる政策

男女共同参画白書 令和4年版 「諸外国の国会議員に占める女性の割合の推移」

スウェーデンは、毎年の世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数の報告書で、2006年以来、毎年5位以内に入っており、2022年も5位にランクインした。その理由は、まず政府の意識にある。「フェミニスト政府」を宣言し、1980年から職場での性差別は「違法」としている。

2009年に出されたスウェーデン差別法では、雇用主が男女平等を積極的に推進すること、ハラスメントへの対策を講じること、育児休暇の取得者に対する不当な扱いをなくすことなどが定められている(出典/政府HP)。

さらに、2021年9月にストックホルムで行われた欧州安全保障協力機構(OSCE)経済環境フォーラムでも、ジェンダーに配慮した法律や予算編成の重要性、デジタル格差を減らすことの重要性、家族における女性の役割、「ジェンダー平等」という用語の定義方法の見直しについて議論が行われ、ますます機運が高まっている。

このように政府が経済におけるジェンダー政策を強化していることから、女性の就職率は80.1%(2020年)とEUの中でも上位に位置する(フランスは72.1%、ドイツは78.1%)。上場企業の取締役会メンバーの女性比率の平均は35%と、まだこの点においては課題と認識されているが、女性の平均月収は男性の90.1%と他国と比較しても高い水準だ(出典/ 政府、統計局2020 )。

また、2015年から男女共同参画大使を設けたり、業界の男女共同参画賞を企画するなど、普及のための施策も積極的に行う。

スウェーデン企業の取り組み

企業でも、採用や人事制度においてジェンダーに配慮することは当たり前となっている。スウェーデン企業のイケアでは、すべての取締役会や店舗などで、50:50の性別バランス、同一賃金、機会均等を掲げるなど、先進的に取り組んでいる(出典/IKEA)。

スウェーデンの銀行 「Swedbank(スウェドバンク)」は、ハラスメントやセクハラだけでなく、差別やいじめの防止にも取り組む。そうした問題が発生した場合の行動方法も含め、ポリシー、手順、ガイドラインも定めており、徹底した対策を講じている(出典/Swedbank)。

さらに組織内の賃金格差を「0%」にする目標を掲げて、給与格差を調整するための制度を設置、定期的に年俸や給与を測定・監査するような予防策も敷くなど、公平な雇用のあり方について徹底的に向き合っている。

地域での取り組み事例もある。住宅会社のBotkyrkabyggenが、地域に住んでいる外国人の女性失業者に対して、仕事や語学のクラス、ジェンダー平等、健康とフィットネス、脅迫や暴力的な状況に対処する方法についてのトレーニングを提供(出典/premiosdearquitectura)するなど、社会のジェンダー平等を実現するために取り組む。

これらの取り組み以外にも、スウェーデンでは外交や貿易政策で女性の資源や機会の公平性などの配慮がなされており、貿易交渉においても女性にプラスの影響をもたらす分野、サービス、製品を優先するとしている(出典/政府HP,2019)。

冒頭で紹介したように、日本は、最新の世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数の報告書で、世界146カ国中116位にとどまった。報告書は各国の男女格差を「教育(Educational Attainment)」と「健康(Health and Survival)」「政治(Political Empowerment)」「経済(Economic Participation and Opportunity)」の4分野(14項目)に分け、男女平等が完全に実現できていれば「1」、完全に不平等な場合は「0」として指標化している。日本の場合、教育(スコア1で1位=日本を含む21カ国が同スコアで1位)と、健康(同0.973で63位)は高い一方、経済(同0.564で121位)と政治(同0.061で139位)が低迷している。

日本では7月、女性活躍推進法が改正され、従業員301人以上の大企業に対し男女の賃金格差の開示が義務付けられた。今後さらにジェンダー平等の実現に向けて取り組みが加速することを期待したい。