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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

真のサステナビリティ経営は、葛藤や失敗、試行錯誤を重ねてこそ実現する

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SB国際会議2024東京・丸の内

左から大谷氏、吉川氏、牧氏

Day2 プレナリー

サステナビリティの推進は今や企業、ブランドにとって当然だが、「真のサステナビリティ経営」を実現するのはそう容易ではない。トップダウンで浸透させるだけでなく、組織横断型のコミュニケーションを進め、サステナビリティと経営をしっかりと統合させるには、どのような課題やジレンマ、試行錯誤があるのか――。グローバル企業3社の取り組みに、そのヒントを見る。

ファシリテーター
田中信康・SB国際会議ESGプロデューサー
パネリスト
大谷純子・花王 ESG部門 ESG戦略部 部長
牧陽子・日本マクドナルド サステナビリティ&ESG部 部長
吉川美奈子・アシックス エグゼクティブアドバイザー

セッションは冒頭、ファシリテーターの田中信康氏が「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の時代と言われるようになって数年が経ち、企業は変革の一途にある」と前置き。その上で、登壇者に対し、各社が「今、どんなふうに変わってきているか」と質問を投げかけ、スタートした。

これに対して、花王の大谷純子氏はストラッグル(葛藤)、試行錯誤という言葉を何度も重ねつつ、花王がミッションとする「豊かな共生世界の実現」に根差した活動を大事にしてきたことを語った。同社の商品はライフスタイルのさまざまな場面に関係しており、「事業活動そのものがサステナブルな社会の実現につながる」との思いがあるからだ。昨年公表した中期経営計画「K27」では「持続可能な社会に欠かせない企業になる」を基本方針として掲げ、長谷部佳宏社長の旗振りのもと、現場が奮闘しているところだという。

アシックスの吉川美奈子氏は「12年前はサステナビリティの方針自体もなかったが、ここ3年でガガガッと音がするぐらい経営に統合されてきた」とし、長期ビジョンや中期経営計画の中にサステナビリティ推進が位置付けられたことが大きい、と分析。具体的には、経営会議の常連トピックにサステナビリティの議題を入れ、経営計画の作成時にはサステナビリティの目標を盛り込むよう徹底してきたと言い、この間の流れを、「経営戦略に落とし込んだ後に、仕組み化し、企業文化にしてきた」と説明。このサイクルが回り続けることで「真の経営統合につながるのではないか」と続けた。

サステナビリティの浸透については、日本マクドナルドの牧陽子氏も「ここ数年かなり加速している印象」と述べる一方、変わらない「短期的な利益志向」を課題として指摘した。牧氏自身は職場を移しながらも、サステナビリティやCSRに20年以上関わってきた経験があり、「社会や環境への配慮なくして企業価値の向上はあり得ない」と強く信じる。その上でサステナビリティへの取り組みのキーワードとして、「長期的」「マイノリティ」「自分事」の3つを挙げ、経営層や他部署などに対して真摯(しんし)なコミュニケーションを重ねる重要性を強調した。

サステナビリティを推進する上で、グローバルとローカルの関係は

次に話題は、サステナビリティを推進する上で、グローバルとローカルの関係はどのように考えれば良いかというテーマに移り、大谷氏は「サステナビリティ戦略はグローバル共通であるべきだ」とする一方、「社会課題への対応はローカルで」と強調。具体例として、蚊を寄せつけない商品はマラリアやデング熱の被害の大きい国で展開しているとし、「気候変動で温暖化が進むと、蚊が生息するエリアも変わるだろう。ビジネスチャンスとしても広がりが出てくる」との見方も示した。

一方、アシックスは売上高の8割を海外が占め、吉川氏によると、「欧州のグリーン成長戦略に合った世界戦略を立てていくことを基本にしている」という。それは決して欧州を中心に考えているのではなく、サステナビリティを巡るさまざまな規制など、「欧州の経営環境を世界の先端と捉え、そこに合わせた戦略を本社としてしっかりと出し、それをローカルへと広げていくのがうちのやり方だ」と吉川氏は強調した。

また、言うまでもなく巨大なグローバル企業のマクドナルドの経営戦略について、牧氏は、「環境のイシューは本国からトップダウンで、社会のイシューはローカル主体で取り組むのが基本方針」と説明。環境面では「2030年までに2018年比で温室効果ガスを50.4%削減」というグローバルの中間目標を発表したばかりだが、一時期、日本で話題となった「レジ袋有料化」は、日本のローカルルールとして認められたものだという。そこには、グローバルで進める手提げ紙袋への移行が日本ではすぐには困難との判断があったといい、牧氏は「各マーケットのローカルな事情をデータや慣習とともに熱心に伝え、認めてもらう」ことも、サステナビリティを前に進める一つの方策ではないかと力説した。

セッション後半では、田中氏が「多様な人財」の重要性を指摘し、「お客さまの多様性が増す中で、クルー自体が多様性に富んでいることは、われわれのビジネスの強みだ」(牧氏)、「現場から上がったアイデアを不確実性の高いものであっても潰さず、実現化するまで経営としてコミットし、CO2排出量が世界最少のスニーカーの発売につなげた」(吉川氏)、「多様な社員がそれぞれの持ち場で挑戦している。みなさんが手に取る商品は、実は社員一人一人の熱い思いで作られている」(大谷氏)と、それぞれが「人にかける思い」を熱く述べる場面も。「真のサステナビリティ経営」への道は確かに平坦ではないが、さまざまな葛藤や失敗、試行錯誤の積み重ねがあって初めて、それは実現するに違いない。そう実感したセッションとなった。(眞崎裕史)

眞崎裕史 (まっさき・ひろし)

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。2020年からフリーランスのライター・編集者として活動し、ウェブメディアなどに寄稿。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。