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SDGsで地域活性化を加速するために――自治体と企業による共創事例ピッチ〈後半〉

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SB国際会議2023東京・丸の内

高尾氏(左)、吉川氏

自治体と企業による共創事例ピッチ

地方創生の取り組みをひとつの自治体で推進するのは難しく、さまざまなステークホルダーとの連携が必要だ。そこで必要になるのがSDGsという共通言語であり、国が進める「地方創生SDGs」では、自治体業務の合理的な連携の促進が期待されている。自治体と企業による共創事例ピッチ〈後半〉では、ベッドタウンとしての生き残りをかけてDX化に挑んだ京都府城陽市、地域産業に結び付けセルロースナノファイバーを地域活性化のためのブランドにしようと取り組む静岡県富士市、自然災害からの復興を「レスポンシブルツーリズム」をテーマに高校生と取り組んでいる熊本市を紹介する。(市岡光子)

【先行事例5】 京都府城陽市における全庁DXの取り組み

吉川保也・京都府城陽市 企画管理部 次長
高尾征志・NECネッツエスアイ株式会社 ビジネスプロセスイノベーション推進本部 担当部長

京都・大阪のベッドタウンとして発展してきた城陽市は、他の地域の例にもれず、人口減少による「ベッドタウンとしての生き残りの限界」という課題を抱えていた。そこで「住」のみの単一機能だけでなく「職・遊・学」の多様な機能を備えた「職住調和都市」へと転換を図ることを決定。『NEW城陽』というビジョンを掲げ、さまざまな取り組みを展開した。その中の一つが「全庁的なDX推進プロジェクト」である。

業務の全面的なデジタル化を目指した同プロジェクトは、2021年11月より、NECネッツエスアイ(東京・港)との協働で約1年半に渡って実施された。城陽市の吉川氏は「現場の『やらされ感』を減らすために、3つの仕掛けを行った」という。それが「市長自らがDXの方針を全職員向けに動画で配信」「全庁全業務の棚卸し」「DX推進委員の任命」である。

特に力を入れたのが「全庁全業務の棚卸し」で、市役所の全79係に対し1回当たり2時間かけてヒアリングした。NECネッツエスアイの高尾氏は「最初は『特にありません』という回答だったが、根気よく聞き続けると『実はこんなことが』と打ち明けてくれた」と話す。それに対して吉川氏は「今までは(何をやっても仕方がないという)あきらめムードがあったが、ヒアリングを通じて『何か変えられるかも』という、DXに対する期待が生まれて来たのを感じた」と応じた。さらに、「DXで何ができるのか、自ら考え、実際に現場を変えていける職員を育てていきたい」と今後の抱負を語った。

【先行事例6】 セルロースナノファイバー(CNF)を活用し地方創生に取り組む

平野貴章・静岡県富士市 産業交流部産業政策課 主幹
松岡孝・日本製紙 バイオマスマテリアル事業推進本部 参与 本部長代理

松岡氏(左)、平野氏

2020年に「SDGs未来都市」に選定された富士市では、日本製紙と連携しながら、植物由来の新素材「セルロースナノファイバー(以下CNF)」を軸とした地域活性化に取り組んでいる。CNFは、環境省の「第五次環境基本計画」における6つの重点戦略のうち「持続可能性を支える技術の開発・普及」の項目のひとつとなっている。

まず、日本製紙(東京・千代田)の松岡氏からCNFについて、木材から得られるパルプ(木材繊維)をナノ単位にまで微細化したバイオマス素材だと説明があった。軽量で強度もある上、熱による変化も起きづらいといった特長があり、化粧品や自動車部品などさまざまな場面での活用が期待されている。

日本製紙のCNFの商品名である『cellenpia®(セレンピア)』は、国内製品で唯一、機能性食品添加材として食品に使用可能だという。菓子やパン、冷凍食品などにごく少量を加えることで、食感の改善だけでなく、賞味期限の延長や製造過程での歩留まり率向上など、フードロス削減にもつながる。

富士市の平野氏は、地域活性化の軸にCNFを据えた背景について「市の基幹産業はCNFと関連の深い製紙産業であり、食品や輸送機械などCNFが使われる産業も多い。国や県からのCNF関連産業の創出に対しての後押しもあった」と説明。2019年3月に「富士市CNF関連産業推進構想」を策定し本格的に取り組んだ。

この構想には、CNFを通じて富士市が目指すべき将来像の実現のため、5つの方針と3つのアクションが記されている。その中でも産学金官でCNFの用途開発を加速させ、関連産業を創出すると期待されているのが「富士市CNFプラットフォーム」だ。

このプラットフォームは、国内事業者なら誰でも無料で参画ことができ、取り組みのステージに応じた関わり方が出来るのが特徴だ。なかでも注目されているのが「つながる場・実施の場」というステージで、事業者同士のマッチングや勉強会の開催などが行われている。すでに市内の和菓子店と日本製紙との共創といった事例も生まれている。

今後の展望について平野氏は「CNFをブランド化し、プロモーションに活用したい。また、環境保全と経済発展の両立を図ることが可能なCNFを通じて、市としての新たな価値を見出し、持続可能な社会の実現を目指したい」と熱く語った。

【先行事例7】 創造的復興に向けたレスポンシブルツーリズム

ファシリテーター
椎葉隆介・日本旅行 事業共創推進本部 マネージャー
パネリスト
木村敬・熊本県 副知事(オンライン登壇)
吉田圭吾・日本旅行 事業共創推進本部 取締役 兼 常務執行役員

椎葉氏(左)、吉田氏

「熊本地震」や「令和2年7月豪雨」によって甚大な自然災害に見舞われた熊本県は、「創造的復興」をスローガンとして掲げ、ひと味違った被災地域の復興に取り組んでいる。オンラインで参加した木村副知事によれば、キーワードは「学びを通じた復興」だ。

「令和2年7月豪雨」で被害を受けた球磨川流域では、周辺地域を一つのキャンパスと捉え、自然の恵みや震災の記憶を学び、研究しながら交流する場として活用する「球磨川流域大学構想」を策定。食品会社の協力を得て、高校生が特産物の栗を使った商品開発を行うなどの活動をしている。

木村副知事は、「若者が観光を通じて地域を学び、発信することが地域の観光を盛り上げる起爆剤になる」と説明。そして、2022年10月末に日本旅行とともに実施したのが『Go Green プロジェクト in 熊本』だ。

日本旅行の吉田氏は、「これからの観光には、地域資源を生かしながら地域経済にも持続的に貢献するツアー作りが必要となる」と強調。プロジェクトでは、熊本地震からの復興に取り組む阿蘇市、豪雨水害からの復興に取り組む人吉市と球磨村を対象に、熊本市立千原台高校と熊本市立必由館高校の生徒と共に、新しい観光プログラム作りやプロモーション動画を制作した。

コンセプトの軸となったのは「レスポンシブルツーリズム」だ。観光資源保護のために旅行者も一定の責任を担う新しい観光のあり方で、こうした創造的な取り組みにより、コロナ禍の前に戻るのではなく未来に向けた観光を共創していくという狙いがある。