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SDGsで地域活性化を加速するために――自治体と企業による共創事例ピッチ〈前半〉

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)高橋氏、野邉氏、檜垣氏

自治体と企業による共創事例ピッチ

国はかねてより、持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みをSDGsの理念に基づいて推進する「地方創生SDGs」を推奨してきた。SDGsという共通言語を持つことで、異なるステークホルダーが共創して地方創生に向けた取り組みが可能となり、自治体業務の合理的な連携の促進が期待されている。まず、各事例紹介に先立ち、未来まちづくりフォーラム実行委員長の笹谷秀光氏とサステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサーの青木茂樹氏が挨拶。青木氏は「SDGsの醍醐味はコラボレーション。自治体と企業が同じ視点で議論することが社会課題解決には重要」、笹谷氏は「ここまでコラボレーションが進んでいることに驚くはず。参加者もぜひ自ら発信してほしい」とそれぞれ呼びかけた。(市岡光子)

【先行事例1】 自治体における脱炭素社会の実現と情報ツールとしての紙の役割

森住貢一・大田区 環境計画課 係長
大野裕寿・エプソン販売 PMD部(ペーパーラボ) シニアスタッフ

大野氏(左)、森住氏

「大田区環境ビジョン2050」を掲げる大田区は、目標の一つとして「温室効果ガス排出量実質ゼロ」を設定。その達成に向けて「大田区役所エコオフィス推進プラン」を作成した。同プランにおいてコピー用紙の使用量に着目したところ、「区役所内で年間約397トン(令和元年度)もの紙を使用していた事実が明らかになった」(森住氏)という。

とはいえ、区民にあまねく情報を伝達するためチラシなどの紙の使用をゼロにするわけにはいかない。そこで、使用済みの紙から新たな紙を作るエプソンの乾式オフィス製紙機「PaperLab」を導入。その結果、2017年から2021年までに区内に配布した再生紙の数は累計105万枚以上になり、約3トンのCO2排出削減(エプソン調べ)に成功した。

紙やCO2を減らす効果だけでなく、さらに森住氏は、「見学可能なスペースに設置することによる区役所率先行動の可視化」「再生した紙を名刺やポスターなどに使用することによるPR効果」「再生紙アップサイクル品の販売による区民満足度向上」「職員の意識改革と子どもたちへの環境教育効果」の4つの効果を挙げた。

【先行事例2】 眠れる観光資源を掘り起こす――隠岐諸島におけるJTBの挑戦

野邉一寛・一般社団法人隠岐ジオパーク推進機構 事務局 事務局長
高橋秀幸・一般社団法人隠岐ジオパーク推進機構 事務局 地方創生プロジェクトマネージャー
檜垣克己・JTB 常務執行役員 ツーリズム事業本部 副本部長

野邉氏

まずJTBの檜垣氏は、コロナ禍を経たこれからの旅行企画のポイントについて、1.旅行会社として何をすべきか原点回帰すること、2.コロナ禍で進んだDXをさらに加速すること、3.持続可能な観光を模索すること、の3項目を挙げた。

これらを踏まえ、同社から観光地域づくり法人(DMO)である隠岐ジオパーク推進機構に出向中の高橋氏は、JTBが隠岐諸島の事業者などと連携して取り組む通称「隠岐プロジェクト」について紹介。高橋氏によると、本プロジェクトでは、社員が隠岐の 4つの有人島に計5人定住し、地域住民や事業者との人間関係を深めながら、観光資源の発掘や商品化に努めている。また、Webサイトでの記事公開や電子クーポン発行など、DX化も推進しているという。

檜垣氏がJTB参入による地域の変化について尋ねると、野邉氏は「JTB社員が隠岐全体をネットワーク化し、我々と地域の事業者をつないでくれた。事業者のやる気も変わってきた」と答え、苦労したことについては「地域の人に信用されること」と即答。最後に野邉氏は「持続可能な観光地として生き残るためには、稼げる観光地域がもっと必要。ぜひ強力なサポートをこれまで以上にお願いしたい」とJTBへの期待を示した。

【先行事例3】 デジタル田園都市国家構想への長野原町の挑戦――地域をつなぐ

佐藤博史・長野原町役場 未来ビジョン推進課 主任
堀谷順平・ドコモビジネスソリューションズ ソリューション営業部 群馬支店 主査

堀谷氏(左)、佐藤氏

まずは堀谷氏が、今回のキー・ソリューションである「LGPF(Local Government Platform)」について説明。行政や地域の事業者がアプリ上で住民への情報発信を行い、その閲覧データやGPSによる位置情報などを分析・可視化して、施策や営業促進などに生かす仕組みだという。運用にあたっては「『誰一人取り残さない』をコンセプトに、高齢者向けのスマホ教室やデータ活用講座なども行う」と堀谷氏。

続いて、佐藤氏が長野原町の活用事例を紹介。主な活用シーンを「広報誌の配信」「イベント情報・お知らせ配信」「災害対策」「地域内の施設・お店への来訪促進施策」の4つとした上で、「閲覧データの活用、ターゲットを絞った配信などにより、無駄のない広報活動が実現できている」と評価した。

堀谷氏から導入の経緯について聞かれた佐藤氏は、「町内に多い別荘滞在者への情報伝達の手段がこれまでなく、ホームページもどれだけ見られているかわからなかった。しかし、LGPFによって課題解決の可能性が見えてきた」と話し、地域の事業者からも「広報の手段が増えた」「高齢者でも簡単に使える」と好評だという。

課題は「導入率が人口の3割程度であること」。だが堀谷氏は「開始3ヶ月で3割はなかなかの進捗」と答えた。それを受けて佐藤氏は、「ますますアプリの魅力を周知したい」「ゆくゆくはマイナンバーカードと連携した健康領域の施策や交通弱者対策に関する施策も行っていきたい」と前向きに語った。

【先行事例4】 誰ひとり医療アクセスから取り残さない、医療MaaSの取り組み

渡辺大樹・千葉市 国家戦略特区推進課 主査
石川沙莉・東京海上日動火災保険 デジタルイノベーション部アライアンス推進室 課長代理
高橋敦・デロイトトーマツ コンサルティング合同会社 Smart X Lab./Future of Cities シニアマネジャー

(左から)高橋氏、石川氏、渡辺氏

2022年5〜8月の間、千葉市内で医療MaaS(Mobility as a Service)の実証実験が行われた。10の自治体や医療機関や企業による取り組みだが、千葉市、東京海上日動火災保険、デロイト トーマツ コンサルティングが代表して登壇した。

まず、石川氏から医療MaaSとは、医療とモビリティをかけ合わせた社会課題解決手法であり、今回の実証実験では患者の通院における「負」を解決することにフォーカスを当てたと説明があった。

具体的には、通院日の配車を予約できるアプリをモニター患者に提供。配車だけでなく、介助士のマッチング機能と小売店への立ち寄り機能をオプションとしてつけ、家族に気兼ねせずついでに食事や買い物も楽しめるなど、通院のモチベーションアップにつながる工夫がされているという。

実験の場を提供した千葉市の渡辺氏は、高齢化による医療ニーズと社会保障費の増大に課題を感じていた。また、市内にある2つの市立病院へは交通の便が悪く、通院による患者やその家族の負担は大きいという。高橋氏は「そうした通院の壁が慢性疾患の治療中断に結びつきやすい」と補足した。

最後に渡辺氏は「最終的にビジネスとして成立させていくことが課題」としながら、「参加できなかった患者さんからも、千葉市の取り組みに対して好意的な声が寄せられたことは、非常に勇気をもらえた」と総括した。