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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

ジェンダード・イノベーションが未来を開く

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SB国際会議2023東京・丸の内

(左から)佐々木氏、田中氏、齊藤氏

Day1 ブレイクアウト

日本のジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム発表、2022年)の順位は、146カ国中116位と先進国で最低レベルだ。政府や企業は女性活躍推進を掲げ、管理職への積極的登用を打ち出すが、現状は変わっていない。サステナブル・ブランド国際会議2023丸の内では、性差にかかわらず包摂的で公正な社会を実現する「ジェンダード・イノベーション」をテーマに、低迷する取り組み状況の打開に向け議論された。(横田伸治)

ファシリテーター
山岡仁美・サステナブル・ブランド国際会議 D&Iプロデューサー
パネリスト
齊藤淳一・貝印 広報宣伝部 次長
佐々木成江・お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所 特任教授
田中彩諭理・MEDITA 代表取締役社長
平岡昭良・BIPROGY 代表取締役社長 CEO・CHO

お茶の水女子大学 ジェンダード・イノベーション研究所の佐々木成江氏は、研究開発分野において男性が主な実験・研究対象となっていることに警鐘を鳴らした。薬学分野では、ほとんどの場合女性の健康被害リスクが高いにもかかわらず同じ処方がされることや、工学分野では自動車の衝突実験において男性の人形が使用される一方で、女性の重傷リスクや流産リスクが見過ごされているという。

こうした状況に対し、例えばAIアシスタント音声を多様化したり、白人男性に偏った顔認証システムの機械学習を改めることで精度を高めたりなど、性差を認めることで研究開発の在り方を変えていく動きが「ジェンダード・イノベーション」だ。佐々木氏は「新たな技術開発、新たなビジネスチャンス、そして包摂的で公正な社会を実現する点が期待できる」と評した。

(SB国際会議資料より)

ビジネス面での具体例を披露したのが、女性の健康維持のための包括的サポートを手がける早稲田大学発のベンチャー企業MEDITA代表取締役社長の田中彩諭理氏だ。同社では、女性の体調変化による社会経済的負担を、年間6000億円(うち約4900億円が労働損失)と推定している。田中氏は「女性のライフステージやホルモンバランスに考慮できていない。企業のサポート体制が不十分だ」と述べ、「心身の不調の可視化」「専門家によるエスカレーション」「生理用品やOTC薬品(薬局などで購入できる一般用医薬品と要指導医薬品)の企業の福利厚生への導入」のサービスを紹介。「女性だけの問題ではない。男性・女性の隔たりなく、公平性を保って働けるようサービスを提供していく」と決意を語った。

(SB国際会議資料より)

刃物メーカーの貝印からは、女性の剃毛文化に寄り添った事例が報告された。齊藤淳一氏は「ムダ毛」という言葉から、体毛に関する固定観念に着目。「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーと腋毛を生やしたバーチャルモデル女性のビジュアルを用いた広告事例を通し、「本来は剃ることを推奨する刃物メーカーながら、どちらの選択にも寄り添う」というメッセージを発信したことを伝えた。

同社は、小中学生向けに体毛に関する正しい知識を啓蒙する冊子「FIRST SHAVE BOOK」の配布事業や、ジェンダーニュートラルなデザインにこだわりつつ環境負荷も軽減した紙カミソリ商品を紹介した。

最後に、BIPROGY(ビプロジー:旧日本ユニシス)の平岡昭良氏がダイバーシティやジェンダーの課題に対し「私たち企業経営者の責任が多分にある」と述べ、社員一人一人の自己実現を応援する組織文化醸成に向けた取り組みについて説明。企業理念として「多様性の受容と獲得」を明示し、D&I施策の核として、1人がマネージャー、エンジニア、プロデューサーなど複数の役割を担う「ロールズ」の概念を取り入れている。平岡氏は「チームの多様性の前に、自分の中に多様性を作れば、多様な価値観を認めざるを得なくなる。そうなれば他者の多様性を尊重できる」と意図を明かした。

山岡氏

ファシリテーターの山岡仁美・SB国際会議D&Iプロデューサーは、それぞれの報告を受け、「性差を認識し、ファクトに基づいたジェンダード・イノベーションへの理解が大切。これはマイノリティ全体の問題でもある」と訴え、セッションを締めくくった。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバを経てフリーライター。若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりの領域でも活動中。