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日本の商社7社「森林破壊ゼロ」目標年設定に懸念――WWF調査で判明

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Photo by Janusz Maniak on Unsplash

世界自然保護基金(WWF)ジャパンはこのほど、「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き――『森林破壊・土地転換ゼロ』を事例に」と題した報告書を発表し、その中で、日本の大手総合商社7社の代表的な森林リスクコモディティにおける調達方針やその運用、開示状況などを比較・分析した調査結果(スコアカード)を公表した。世界中で気候危機と生物多様性の危機を同時に解決しようという機運が高まる中、両方の観点から重要となる森林・陸上生態系の保全に向け、企業が持続可能なサプライチェーンを構築する上でのガイダンスとして役立ててもらうのが狙いだ。(廣末智子)

世界の森林破壊の状況は、WWFが2021年に発表した報告書『森林破壊の最前線〜変わりゆく世界における森林減少の要因と対応』で、南米やサハラ以南のアフリカ、東南アジア、オセアニアを中心とする世界24カ所で、2004年から2017年までの間に約4300万ヘクタール以上、日本の1.2倍にも匹敵する大きさの森林が消失したことが明らかになっている。

また国連食糧農業機関(FAO)の調査でも、過去20年間に平均で毎年約1300万ヘクタールの森林が破壊されたことが報告されているほか、世界資源研究所(WRI)の調査によると、年代や地域によって変化はあるものの、森林破壊の約4割が、農林畜産物の生産を要因としているという。

WWF報告書「森林破壊の最前線〜変わりゆく世界における森林減少の要因と対応」より

スコアカードは総合商社7社(伊藤忠商事、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事)が取り扱う「木材」「紙パルプ」「パーム油」の3コモディティ(産品)を対象に、①調達方針の内容、②方針の運用、③情報開示、の3分野における取組状況を調査したもの。具体的には、WWFがCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などと協働し、複雑なサプライチェーンにおけるコモディティごとの違いを可能な限り共通言語化した「アカウンタビリティ・フレームワーク・イニシアチブ」の原則に沿い、各社が2022年5月〜9月時点でウェブサイト上で公開している情報を、41指標に分けて評価している。

WWF報告書「ネイチャーポジティブ実践に向けた手引き――『森林破壊・土地転換ゼロ』を事例に」より、日本の大手総合商社7社の代表的な森林リスクコモディティにおける調達方針やその運用、開示状況などを比較・分析した調査結果(スコアカード)の一部

その結果、調達方針に関しては「サステナビリティ方針がある」「別途人権方針がある」「労働安全衛生に関する方針が含まれている」「先住民や地域コミュニティの権利に関する方針が含まれている」の4指標について、7社の3コモディティとも「できている、または他社より進んでいる」の高評価を獲得。

一方で、「目標年の妥当性」や「方針や目標と整合するマイルストーンを設定している」「サプライチェーン上の労働安全衛生に関する記載がある」「サプライチェーン上の児童労働・強制労働などに関する記載がある」といった指標では「全くできていない、または存在すらしていない」と低評価を受けた企業もあり、ばらつきが出た。

またその運用に関しては、「個別調達方針を確認するためのDD(デューデリジェンス)手法がある」で高評価を得たのは半数に満たず、「DD項目に森林破壊ゼロに関する要素が設定されている」で高評価を得たのは1社の2コモディティのみ、「サプライヤーの森林破壊ゼロに関するコミットメントを確認している」で高評価を得た企業はゼロだった。

この結果について、WWFジャパンは、「各商社とも調達方針の策定は進んでおり、いずれも『森林破壊ゼロ』もしくは『No Deforestation, No Peat, No Exploitation(森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止)』を最終目標とする方針になっていることは評価できる」とした上で、「それらの方針を運用し、少なくとも自社の事業が関わる農林畜産物の生産や調達が及ぼしうる負の影響をいつまでに食い止めようとするかの期限を達成する目標年の設定については懸念が残る」と指摘。

さらに、2021年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)で採択され、日本も署名する「グラスゴー宣言」での世界の森林減少を食い止める目標年が2030年であるのに対し、今回調査対象となった3コモディティのすべてにおいてそれに整合する目標を掲げる企業はいなかったことを強調。これを踏まえ、「日本の多くの企業がその調達を少なからず商社に依存していることを考えれば、この影響は単に調査対象となった7社にとどまらない」と危惧する見方を示している。

森林リスク・コモディティや農林畜産物の持続可能な調達は、ESG投資をはじめとする、環境に配慮した金融のあり方の観点からも注目される。今回の報告書を受け、りそなアセットマネジメント執行役員責任投資部担当の松原稔氏は、「企業が自然資本をどう生かし、どう取り組んでいくのかは、投資家をはじめとするステークホルダーとの対話から進んでいくものと考える。スコアカードのような企業の取組評価を通じてステークホルダーと企業との対話がさらに深化し、気候変動や森林保全といった外部不経済性において、企業が内部化して取り組まれることを期待している」とするコメントを発表している。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan 編集局デスク 兼 記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。