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国際

世界24カ所で日本の1.2倍の森林が消失:WWF「森林破壊の最前線」報告

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Photo by Justus Menke on Unsplash

世界24カ所で日本の1.2倍に匹敵する森がなくなった——。世界自然保護基金(WWF)はこのほど、南米やサハラ以南のアフリカ、東南アジア、オセアニアを中心とする世界24カ所で、2004年から2017年までの間に約4300万ヘクタール以上、日本の1.2倍にも匹敵する大きさの森林が消失したとする報告書を発表した。森林の減少は地球温暖化や生物多様性の損失に直結するばかりか、新型コロナウイルスのような動物由来の感染症を引き起こすリスクも高めるとされる。森林の価値が再認識される今、これ以上の森林減少を食い止めるにはどうすれば良いのか。報告書では時と場所によって異なる森林減少の要因とさまざまな対応策を分析。真の効果を生み出すために、経済や食料、金融システムを大きく転換するなど、人と自然との関わりを抜本的に見直すことの重要性を提起している。(廣末智子)

報告書のタイトルは『森林破壊の最前線〜変わりゆく世界における森林減少の要因と対応』。ここでいう「森林破壊の最前線」とは、森林が急速に失われ、且つ残された森林もさらなる減少の危機にある地域を指し、衛星画像など5つのデータソースから熱帯と亜熱帯に絞って調査した。その結果、対象地域は、2015年の調査でも名前が挙がっていたアマゾン、中央アフリカ、メコン、インドネシアのほか、新たに西アフリカ、東アフリカ、南米を加えた24カ所の総面積約7億1000万ヘクタールに広がっている。このうち約半分は現在のところ森に覆われているものの、2004年から2017年の間に、残された森の10%以上に当たる約4300万ヘクタールの森林が消失していた。それらの地域ごとの要因とそれについての取り組みを包括的に分析した結果をまとめたものがこの報告書だ。

牛の放牧、大豆、パーム油の栽培など
商業的農業と植林地開拓が突出要因

それによると、こうした世界的な森林減少の要因として突出しているのが、大規模ないし小規模な商業的農業と植林地の開拓であり、インフラ整備や採掘など自然資源の採取も重要な要因となっている。これらは、グローバルな市場や投資動向、国内政治の変化や地域ごとの政治経済など、その時々によって、さまざまな影響を受け、変わる傾向がある。もっとも、多くの現場では、採掘と森林伐採の拡大に伴って道路開発が進み、その後に商業的農業開発が行われるという共通点が見られ、農地への転換は気候や地理条件、市場の物流、そして辺境地域に根強く残る投機的な土地取引とも関係するとしている。

その上で報告書は、24の森林破壊の最前線について、それぞれの地域で森林減少をもたらした要因を分析。南米では牛の放牧(主にアマゾン)と大豆の栽培(主にセラードとチャコ)を、東南アジアでは植林やパーム油のプランテーション開発などを直説的な一次要因として挙げた。またアフリカでは依然として自給的農業が主要因であるものの、商業的農業も拡大傾向にあり、同時にエネルギー源としての木材の採取が小規模に行われていることが森林劣化の原因となっている。さらにいくつかの新しい傾向として、カカオやパーム油、トウモロコシなどの栽培や畜牛などを行う小規模農家が増加しており、非公式の採掘や、人の居住地の拡大による圧力を受けている場所でも森林減少が拡大していることなどを指摘している。

世界各地で対応も顕著な効果に至らず
「万全なアプローチは存在しない」

『森林破壊の最前線〜変わりゆく世界における森林減少の要因と対応』

一方で報告書はこれ以上の森林減少を食い止めるため、国際的な枠組みや国、地方行政、企業、先住民、地域住民、NGOなどのさまざまなステークホルダーにより、世界各地で行われてきた取り組みと経緯についても詳細に説明。近年では、途上国が森林減少や劣化を防ぐことにより温室効果ガスの排出量を減少させた場合などに先進国からの経済的支援を受けられるメカニズムである「REDD +(レッドプラス)」や、政府や企業、地域住民などがそれぞれの経済的利益や社会的発展、環境保全を統合的に進展させる「管轄アプローチ」などの新しいイニシアチブも生まれていることにも言及している。

もっとも結果として、そうしたいずれの取り組みも森林破壊の最前線に顕著な効果をもたらすには至っていないのが現状であることから、森林減少を食い止める対応策について「万全なアプローチは存在しない」と結論付ける記述も。その上で、「違法な経済活動、地下経済や汚職が持続可能性の実現を阻み続けており、アカウンタビリティと透明性の確保が急務である」といった課題を指摘しつつ、「これまでのように経済成長と金銭的利益を過度に重視するのをやめ、過剰な消費と向き合い、健康と公正性により高い価値を置くことで自然との関係を変えることこそが重要だ」と結んでいる。

2030年までに自然を回復軌道に乗せ、脱炭素社会の実現を

また報告書の巻頭で、WWFインターナショナルのマルコ・ランベルティーニ事務局長は、「森林の減少や劣化は、新型コロナウイルスなど動物由来の感染症が蔓延する大きな要因にもなっている。今こそ自然が私たちにもたらしてくれる恵みを再評価する時であり、中でも見直すべきは森林だ。本報告書が示しているように、私たちは各地の事情を考慮した統合的な解決策を探るとともに人と自然の双方に利するよう、森林保有国から、森林減少を招く消費や暮らしをしている国に至るまで、すべての人々が力を合わせて行動を起こす必要がある」と述べ、2030年までに自然を回復軌道に乗せ、真に持続可能な開発とカーボン・ニュートラルを実現し、ネイチャー・ボジティブで公正な社会の実現を目指す「人と自然との新たな関わり方(New Deal For Nature and People)」について提言している。

インドネシアでは泥炭湿地の農地化深刻
日本も無関係ではない。意識持って生活を

一方、報告書の発表に際して行われたメディアブリーフィングでは、WWFの古澤千明氏が、インドネシア・スマトラ島の現状などについて解説。自然林を大規模に伐採した後に植えられるユーカリやアカシアといった製紙原料用の広葉樹は成長のスピードが速く、5〜7年で収穫され、且つ1種類しか植えられないため、元あった森林環境とは大きく異なることを、うっそうとした濃い緑の森林の手前に、緑の色が薄く、背の低い製紙原料用の植林が大規模に広がる写真を例に示した。また自然の森の価値を理解する上で分かりやすい事例として、インドネシアに多い泥炭湿地を人為的に乾燥させた産業用の植林地や農地を挙げた。湿地を乾燥させる過程で地中に含まれている炭素が大量に噴出されるだけでなく、そこで野焼きや焼畑を行ったり、もしくは自然発生的に火がついてしまうことによって大規模な火災が発生し、2015年にはCO2換算で17億トンもの温室効果ガスを排出するなど、大きな問題になっていることを報告した。

さらに古澤氏は、森林破壊の最前線には含まれていない日本の現状について、「日本は木材や紙、パーム油、天然ゴム、バイオマス燃料、大豆、牛肉など多くの林産物、農畜産物を海外から輸入し、消費している。その時点で、日本に暮らす人々のビジネスや生活は、森林減少と決して無関係ではなく、大きな関わりがある」と強調。「例えばそれらの原料の多くが生産されているインドネシアでは、森林の伐採によって大きく生態系が損なわれ、場所によっては人権問題も生じている」と、日本でも森林破壊について高い意識を持って生活することの重要性をあらためて訴えた。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年10月からSustainable Brands Japan編集局デスク兼記者に。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。