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世界の「境界線」はどうすれば溶けるのか——“地球を1つの学校にする”平原依文さんの思いとは

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性別、国籍、文化、偏見。さまざまな軋轢の発端となる「境界線」は、どうすれば溶かすことができるのかーー。「リジェネレーション」をテーマに開かれたサステナブル・ブランド国際会議2022横浜は、“地球を一つの学校にする”をミッションに、SDGsを軸にした教育活動を行う平原依文さん=WORLD ROAD共同代表=の「境界線のない世界を目指して」と題したメッセージで幕を開けた。SNSで募った世界201カ国の人々が夢や生い立ちを語った本を出版したり、アーティストのAIさんと共にSDGsと音楽を組み合わせた楽曲を発信する彼女の言葉を通して、「私たちが生きる世界」を考えた。(三谷真依子)

平原さんは、保育園の頃からいじめに遭い、まだ小学2年生の時、自分探しをするために、影響を受けた友人の母国・中国に単身留学した。そこで出会った恩師から「過去は変えられないが、今この瞬間から始まる未来は変えられる。目の前の人と“こころ”で向き合い、“こころ”を通じて新しい歴史を築いてほしい」という言葉をかけられた。それをきっかけに性別や国籍、生い立ちなどあらゆる「境界線」をこころのつながりによって溶かす活動をしていきたいという思いを抱いたという。

中国の後も、カナダ、メキシコ、スペインと留学を続けた平原さん。その中で多くの「境界線」を感じる一方、「人として向き合えたからこそ友達になれた」と実感する経験を重ねて今がある。

東日本大震災がきっかけで帰国し、早稲田大学国際教養学部を経て一旦は外資系企業へ。そんななか2018年には日本代表として青年版ダボス会議に参加し、各国の若きリーダーと「世界が一つになるにはどんな壁を溶かせばいいのか」という討論を重ねたことが転機となって、2019年に「地球を1つの学校にする」ことをミッションに掲げるWORLD ROAD(東京・港)を立ち上げた。

その最初のプロジェクトが、「地球を一冊にした教科書をつくりたい」という思いで始め、2年がかりでまとめた本、『WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGs』だ。SNSで「あなたの夢、あなたの写真を応募してください」と呼びかけ、当初は40カ国ほどしか集まらなかったのが、「みんなの夢だからみんなで出版しよう」という励ましもあって、最終的に800人の声が寄せられた。その中から201カ国の202人にインタビューを行って夢や生い立ちを聞き取り、昨年6月、共著の形で、日本語版と英語版の出版に漕ぎ着けた。

本は現在、スペイン語訳も進めており、「いろんな国の方々が手をとりあい、本を通じて『境界線のない世界』を発信している」。この活動を通じて「IからWEの時代へ」というコンセプトを掲げるなかで、平原さんが実感しているのは、「一人ひとりが持つ夢の共創が、世界を一歩先に前進させてくれる」ということだ。

「サステナビリティやSDGsといった、言葉だけを聞くと遠く感じるかもしれないが、私たち一人ひとりのなかに解決したいこと、変えたい景色は必ずある。お互いの物語から学び合うことで境界線は溶けるということを浸透させていきたい」

AIさんと楽曲づくりも 「みなさんの夢は何ですか」

平原さんは、SDGsを多種多様な分野と掛け合わせる取り組みも行う。『WE HAVE A DREAM』は、「SDGs×授業」の位置付けで、教育機関や企業などの授業や研修に活用し、本に登場する人たちとオンラインで対話をする時間も設けている。また、「SDGs×ドキュメンタリー」として、写真に映っている子どもたちを撮影したドキュメンタリー映画を製作するため、近くネパールやハイチ、アゼルバイジャンなどを訪ねる予定もある。

SDGsを多種多様な分野と掛け合わせる取り組みはスポーツや音楽にも及び、音楽では、アーティストのAIさんが、次世代を担う14カ国のリーダーとコラボレーションしてつくった動画をYouTubeで配信。視聴される度に社会起業家に寄付がなされる仕組みだという。

最後に流れた音楽は、その名も「WE HAVE A DREAM」というタイトル。AIさんが平原さんらと共につくった2曲目の楽曲で、「少しでも世界中の人々が自分の夢を語り、そこから共感の輪を広げてほしいという思い。皆さんにとっても背中を押される曲になるんじゃないかと思います」と平原さん。この音楽に乗せ、「みなさんの夢は何ですか」と問いかけてメッセージを締めくくった。世界情勢が不安定に揺れ動く今、私たちは改めて夢を再確認する必要があるのかもしれない。

三谷真依子 (みたに・まいこ)

高知県出身。文芸創作を経てフリーライター。都内の大学に在学中、友人の誘いで、関東で高知をPRすることを目的とした学生団体の立ち上げに参加。同団体で、高知の食文化をはじめ地域で働く人々の想いや地方の持続性に触れ、記事執筆を始める。