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女性社外役員のヘッドハンティング増加 上場企業の女性役員、徐々に増えるも目標遠く

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SDGsがあらゆるセクターで重要指針に位置づけられ、世界的にESG投資が拡大する中、日本でも上場企業の女性役員比率を高める動きが徐々に広がっている。今年6月に改訂された東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」でも女性役員の積極登用を促し、経団連も2030年までに女性の役員比率を30%以上とする目標を掲げていることから、企業は対応を迫られているためだ。調査データからは上場企業の女性役員数がこの数年でそれなりに増えていることが分かるが、目標達成には程遠く、今後は女性社外役員の獲得競争が激化するという見方もなされている。一方で、キャリアに基づいた女性の役員登用を社内で積極的に進めることなく、社外役員を増やすだけでは問題の根本的な解決にはならない。(廣末智子)

上場企業の女性役員数2012〜2020年で4倍、2528人に

内閣府男女共同参画局の女性役員情報サイトによると、上場企業の女性役員数は、東洋経済新報社の「会社四季報」調べで2012年に630人だったのが2020年7月では2528人になり、8年間で約4倍に増えた。もっとも同時点での割合は6.2%と、諸外国の女性役員割合と比較しても低水準にとどまっていることに変わりはない。

また東京商工リサーチの調べによる2021年3月期決算の上場企業2220社の女性役員数は2017年3月期決算の870人から1835人にまで増え、割合も3.25%から7.4%に上昇(前年比でも1.4ポイント上昇)するなど、数字の上ではまだまだ少ないとはいえ、女性役員登用の社会的気運が高まっているのは確かだ。

女性社外役員専門ヘッドハンティングサービスも盛況

こうした流れを背景に、上場企業を中心に求められる社外女性役員の要件にかなう人材を紹介・育成するサービスを展開する企業もある。

昨年7月、女性社外役員に的を絞ったヘッドハンディングサービスを始めた「プロフェッショナルバンク」(東京・千代田)もその一つだ。一般的な登録型の人材紹介やマッチングサービスと異なり、上場企業約3800社の現任を含めた女性の社外役員経験者とダイレクトなネットワークを築いているのが強みという。

同社によると、社外女性役員に対する上場企業のニーズとしては、10年先を見据えた事業計画の中で取締役の専門性を補完する目的や、グローバル展開を強化する上で過去に海外進出で成功した経営層人材を探せない、専門領域の知見がある役員候補を探せない、といった声がある。2021年上期には前年同期比で1.9倍の問い合わせがあり、目標に対して268%の売上高を達成した。

事例としては、東証一部上場の大手小売りスーパーや大手電機メーカーに、DXソリューションコンサルティングの専門性の高い女性や、国内外の企業でCSR部門を経験し、ESG投資の知見が豊富な女性を紹介したケースを挙げる。いずれも50代の社外取締役の経験者だったという。もっとも「日本ではさまざまな分野で活躍する専門性の高い女性の存在を知る機会がまだまだ少ないことから、女性社外役員の獲得競争が激化し、求める人材の獲得が難航することが予測される」として、今後はさらにスキルマトリックス(取締役会に必要なスキルを分野ごとに表にまとめたもの)に沿った人材紹介の仕組みを強化していく考えだ。

「裾野を広げることが重要」 セミナーでロールモデル提示や、実務の習得も

一方、今年2月に創業したOnBoard(東京・千代田)は、女性役員の育成と紹介に特化し、女性役員の候補者や既に役員に就任している人たちを対象にトレーニングセミナーを提供する。同社CEOの弁護士で、自身も社外取締役を務める松澤香氏は、2030年までに女性役員を30%にするという経団連の目標達成は「このままいくと厳しい」とする見方をしており、一人が複数の企業の社外取締役を兼任するのにも限りがあることから、「女性役員の裾野を広げることが重要だ」と話す。

このためセミナーでは、さまざまなロールモデルを示すため、「第一線で活躍する女性役員」をゲストにそれぞれの役員としての実務や貢献、自身のキャリア形成などについて聞いたり、取締役や監査役に求められる基礎知識や実務を習得し、相互に研さんを図る場を設けている。参加者には、今の会社では役員まで昇級するチャンスがないため早期退職をして別の企業での役員としてのキャリアアップを考えていたり、弁護士や会計士などの資格を役員として生かしたいといった人が多く、「役員になるための十分な能力を持っているが、いきなり上場企業の役員になるにはハードルが高い」という人たちの育成に力を入れているという。

上記の内閣府男女共同参画局の女性役員情報サイトには、東証一部上場企業の女性役員の状況について、2020年7月末時点の有価証券報告書に基づく業種別女性役員数のランキングのほか、「女性役員がいない企業リスト」についても約900社の企業名が公開されている。また政府は第5次男女共同参画基本計画において、東証一部上場企業の役員に占める女性の割合を2022年までに12%とする目標値を設定しており、女性役員確保を巡る企業への外圧は増す一方だ。

さらには同年4月の東証の市場区分再編で最上位となる「プライム市場」に属する企業については特に、取締役会の3分の1以上にさまざまな経験を有する社外取締役の専任が求められている。もっとも女性役員を増やす以前に、女性管理職の登用が急がれるのは言うまでもなく、ジェンダー平等に向け、政府の掲げる女性活躍社会を実現する道筋を示すべき時がきている。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。