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荒れた山林と児童養護施設はどんな関係? 一見無縁な2つが生み出した創意工夫の課題解決策

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地下資源から地上資源へ──。再生可能エネルギー、食、生態系サービスといった地上資源は日本の国土に広く薄く分散しており、それらを各地域が自立して最大限に活用することが求められている。その要になるのが地域の自然資源を使って地域起こし等をするソーシャルビジネスだ。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、そうした事業を表彰する環境省「グッドライフアワード」第8回最優秀賞の受賞記念プレゼンテーションを実施。そこで語られた里山を開拓することの意味と創意工夫の方程式とは? (いからしひろき)

佐々木 真二郎 環境省 大臣官房環境計画課企画調査室 室長
堀崎 茂 NPO法人 東京里山開拓団 代表

地域の自然資源を使って地域起こしするソーシャル・ビジネスを表彰

環境省の佐々木氏は、グッドライフアワード創設の背景について次のように説明する。

同アワード創設のきっかけは2015年9月、国連総会において「持続可能な開発目標(SDGs)」を含む「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されたこと。同年12月にはCOP21でパリ協定が採択され、脱炭素化が世界的な潮流になった。2020年には、菅総理も2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを表明。地球温暖化対策を日本の成長戦略へと位置づけた。

これを受けて環境省が取りまとめているのが、都道府県や市町村が2050年のカーボンニュートラルを宣言する「ゼロカーボンシティ」。コミットしている自治体人口は、2021年2月10日時点で9505万人に達している。

環境省は脱炭素、自然循環、自然共生の考え方を根底に据えて、地域の資源を活かし、地域の特製に応じて補完しあう「地域循環共生圏」を理想の国土のあり方だとしている。要になるのは、地域の自然資源を使って地域起こしするソーシャル・ビジネスだ。「グッドライフアワード」はそうした事業を表彰する取り組みとして創設された。昨年12月に行われた第8回の表彰では10の大臣賞と30の実行委員会特別賞が選ばれた。最優秀賞に選ばれたのが、今回プレゼンテーションを行った「東京里山開拓団」の取り組みである。

2足のわらじだからこそ実現できた持続可能な課題への取り組み

NPO法人 東京里山開拓団は厚生労働省の「第8回 健康寿命をのばそう!アワード」の子ども家庭局長賞も受賞し、環境保護と児童福祉の一石二鳥の活動を行っている。

堀崎氏が「ほかに例のない取り組み。試行錯誤しながら作り上げてきた」と自負するのは、荒れた山林を児童養護施設の子どもと切り拓き、里山を作っていく活動だ。コンセプトは「荒れた山林×児童養護施設=?」。一見無関係にも思える2つの活動を掛け合わせたことで、「現代都市社会のひずみを解く奇跡の方程式が生まれた」という。これは一体どういうことだろうか。

まずこの活動の背景には次の2つの社会課題がある。

荒れた山林の課題
現在、所有者不明の山林は国内に約300万ヘクタール。九州と同じくらいの広さだ。この荒れた山林により、林業崩壊、獣害、不法投棄といったさまざまな問題が起こっている。

子どもの虐待と貧困
全国600ほどの児童養護施設で暮らす児童は約3万人。国内で露見する児童虐待の件数は右肩上がりであり、深刻化している。新聞報道で見られる虐待死事件の一歩手前、命のリスクのある子どもが児童養護施設に収容されている。彼らの心のケアや、18歳になり退所した後の自立支援には継続的な課題がある。

堀崎氏は、15年前から趣味で切り拓いてきたという山林を、この2つの問題の解決に役立てることができるのではないかと考えた。児童養護施設の子たちと一緒に山林を切り開けば、里山保全にもなるし、子ども達の居心地のよい場所にもなる。そうして2012年にスタートした里山開拓の試みは、2021年2月までに67回を数えているという。

場所は東京の高尾駅からバスで20分ほどの八王子の山林。3つの児童養護施設から、毎月延べ約400人の子どもが現地に通っている。活動は、社会人や大学生などのボランティアスタッフとともに、山を切り拓いてツリーハウスを作ったり、畑を耕して種を植えたり、石カマドで焚き火料理を作って食べたり、ハンモックで休んだり、ということである。そうした自然とのふれあいを通して、子どもたちは心を開く。

「里山は自分の家みたい」「里山は自由な世界」という子どもの言葉は、NPOメンバーにとって「最大限の褒め言葉」だ。一時は命の危険にも晒された子どもの心をここまで引き出すのは「児童福祉のプロでも難しいだろう」と堀崎氏は自然の力を語る。

環境保全と児童福祉、それぞれを得意とする専門団体に、個別に課題解決を任せれば良いのではないかとも思えるが、実は活動を継続する上でも「2足のわらじ」のメリットがある。

環境保全団体は時に自己満足に終始してしまうことがあるという課題、子ども支援団体はスキルのレベルに差が出てしまい、その場だけの支援で終わることもあるという課題があるからだ。しかし、この活動は「子どもたちの笑顔とともに環境保全をやるから続く、そして里山でやるから初対面でも心を開いてくれる」と堀崎氏は話す。

現在、同団は、児童養護施設との里山開拓を柱として、里山を活用した企業向けの研修事業、全国の里山の地図サイト運営、大学生による活動支援という「支え合いの輪」を作り、それを循環させようと取り組んでいる。特に里山を使った企業研修はコロナ禍では3密回避に最適であり、焚き火やハンモックをしながらの会議・研修は、メンタル対策や社会貢献体験、チームワーク研修などに役立つという。

最後に堀崎氏は、会場にいる企業関係者に訴えた。

「一方的な支援や寄付では続かない。里山の受益者としても支え合いの輪に加わり、活動に参加するかたちで支援してほしい」

いからし ひろき

ライター・構成作家。旅・食・酒が得意分野だが、2児の父であることから育児や環境問題にも興味あり。著書に「開運酒場」「東京もっこり散歩」(いずれも自由国民社)がある。