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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

アジアの潜在能力を解き放つために、誰一人取り残さない成長路線を

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2030年までに世界の経済成長の6割を、2040年までには世界の消費支出の4割をアジアが占め、2050年には世界の都市人口の9割近くがアジアとアフリカに集中することが予測されている――。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜の基調講演で、そう、さまざまなデータに基づいてアジアの可能性を熱く語ったのは、電通インターナショナルのチーフ・サステナビリティ・オフィサー、アナ・ラングレー氏だ。コロナ禍で世界中の生活も、消費も、考え方も激変し、「パンデミックは、私たちが知っている世界を根本的に変えてしまった」と言う同氏は、ポストコロナを見据えた成長のチャンスを掴むには、「アジアをはじめ、世界中の人々を誰一人取り残さず、一緒に成長路線に乗るための選択肢をとらねばならない」と訴えた。(廣末智子)

アジアはイノベーションと活気に満ちている

「今日のアジアほどその機会が現実のものになっているところはありません。この多様な文化と伝統を持つ地域の規模と拡大には目を見張るものがあり、絶え間なく変化する風景の中でイノベーションと活気に満ちています」。過去10年間、グローバルなメガトレンドがビジネスやブランドに与える影響や、マーケター・ブランドリーダーとして、消費者行動に意味のある進化をどう促すかについて考えてきたというラングレー氏の講演は、ここ日本を含むアジアの潜在的な可能性にストレートに言及する形で始まった。

現在、アジア太平洋地域には44億人以上が暮らし、特にインドと中国には、世界の28のメガシティのうち16のメガシティが存在する。また世界の都市人口の観点では、その54%がアジアに集中し、さらに2050年には90%近くがアジアとアフリカに集中すると予測されているという。特にポストコロナでは、それらの人口のすべてが過密な首都に流入するのではなく、別の都市に向かい、その外に新たなスマートシティをつくると予測。ラングレー氏によると、それは例えば、インドネシアのスラバヤや、ベトナムのダナンのような街であり、「このような都市は首都よりも遥かに早く成長しており、成長の起点がここにある」という。

さらにラングレー氏は、「2030年までにアジアは世界の経済成長の6割を占める」とする予測をもとに、「コロナの影響を受けたとしても、アジアは今後も経済発展の成長軌道をけん引していくだろう」と強調。もっともそれは、「貿易、イノベーション、人権や人々の働き方、暮らし方、そしてレジリエントな社会を構築するために世界が打ち出した新しい基準をも左右していくこと」を意味し、「この地域の経済発展には多くの責任が伴う」として、「資源が有限であること、さらにそれが事業戦略に影響することを認識しなければ、それだけの成長を支えることはできない」と述べた。

世界の重心が根本的に変わる 人々の目が欧米からアジアに向かう

日本や中国を含め、世界の3分の2の国が脱炭素社会の実現を目指す中、低炭素化経済への移行が加速し、あらゆる産業やセクターの抜本的な変革が今、求められている。そうした中、国連環境計画(UNEP)などによると、世界の消費者の支出は、2030年までに約32兆ドル(約3485兆円)にも達すると言われており、「2040年にはその約40%をアジアが占めるようになり、世界の重心が根本的に変わる」とする予測もある。ラングレー氏によると、これまで人々はリーダーシップとイノベーションを求めて欧州や米国に目を向けていたのが、「今度はアジアが変化を促し、物事を形づくる新たなリーダーになるチャンスが訪れている」というわけだ。しかし、そうなるには、アジアの消費者に、その消費の判断の意味を伝え、持続可能な選択肢を提供することが欠かせない。それによってのみ、アジアの将来の発展を損なうことなく、質の高い成長を維持することが可能になるからだ。

一方、国連環境計画はフードロスと廃棄物の削減を中心に持続可能な農業と食料生産のための、より資源効率的で健康的な食品の消費を促進しており、「消費者の意識の変化はブランドにとって大きなチャンスになっている」。アジア太平洋地域を対象に行われた世界最大規模の水産物の消費調査では、61%が海を守るためには持続可能な供給源からのみ魚介類を消費しなければならないと答えるなど、すでに「消費者行動の劇的なシフトを示す心強い結果」が得られている。認証制度のマーク付きの魚の認知度が飛躍的に上昇するなど、環境問題を理由にブランドや製品を切り替える傾向は、代替肉市場にも反映されており、製品の持続可能性やトレーサビリティーに関する情報を求める声も高まっている。

ラングレー氏は、こうしたトレンドはコロナによって加速されていると言い、「パンデミックは私たちが知っている世界を根本的に変えてしまった。生活も消費も、考え方も激変している。世界中の消費者は新しい視点で製品やブランドを見ており、欲しいものよりも、本質的に必要なものを優先させ、より意識的に買い物をするようになっている」と総括。そして、ここまで演題の「変化する消費者心理と持続可能なブランドの台頭」に則して、アジアを中心とする世界の経済成長や、増加する中流階級の消費者、そして都市化について語ってきた論調を転換し、「私たちはそうしたことを語る一方で、不平等の増大と、誰一人取り残さないことの重要性についても考えなければいけません。持続可能な消費とは、単にリサイクルや廃棄物の削減を進め、植物由来の代替品へと切り替えればいいということではないからです」と語気を強めた。

一方にある「アジアの真の脆弱性」 世界の新たな貧困層の大部分占める予測も

そこで出てきたのは、「アジアには真の脆弱性がある」という現実を伝える言葉だ。地理的、文化的にも多様なアジアでは商業的な風景も急速に変化しているが、「誰もがその対応への準備ができているわけではない」。不平等と貧困は増大し、途上国の都市化人口の3分の1は「インフラも水道も医療もないスラムで暮らしている」。さらに沿岸地域に住む多くの人にとっては海面上昇が脅威となり、熱帯地域では暑さにさらされて人々が死亡し、大気汚染が問題となっている。さらに、デジタル化が進む中、30%がインターネットを利用できていない。世界銀行によると、アジアの10億人以上の人々が銀行口座を持たず、ポストコロナではアジア太平洋地域において3億4700万人もの人々が貧困ラインを下回る可能性があり、それは世界の新たな貧困層の大部分を占めると推定されているのだ。

次の10年は行動の10年 今こそ考え方を変えるべき時だ

こうした現実の厳しさに触れた後、ラングレー氏は厳しい表情で、「私たちは成長のチャンスに乗り出す上で、世界の人々を誰一人残さず、一緒に成長路線へと連れていくための選択肢をとっていかねばならない」と強く主張した。そして、ブランドは人気のあるものを超えて重要なものへと移行し、単に事業を大きくするのではなく、データテクノロジーを用いた「人間中心」のビジネスモデルへと変革することが最重要課題であると指摘。さらに、「全人類の進歩という大きな観点からビジネスの課題を再考することで、ブランドは成長し、人類も一緒に成長することができる」とする見解を示した。

「そして最後に一言。変化のペースを甘く見てはいけないと言わせてください。今後数年間にこのチャンスを競争と捉える企業は多く出てくるはずで、躊躇しているものはそれだけ生き残ることができません。次の10年は行動の10年であり、今こそ考え方を変えるべき時です。革新性への意欲、そして有意義な進歩のための集団的な決意が、すべての人々の、そしてアジアの素晴らしい潜在力を解き放つのです」

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。