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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Life Media, Inc.)

地域活性化は「まず街に出る」ことーーイノベーターが行政を巻き込む地域SDGsの秘訣

右上から時計回りに辻氏、山田氏、田中氏、藤原氏

わが国では2020年度現在でSDGs未来都市に計93都市が指定されるなど、地方自治体での持続可能性に関する取り組みは加速している。先進的に地域活性化を進めている現場では、民間・行政・イノベーターの協働を通して、どのように経済的・人材的な循環を作り出しているのか。サステナブル・ブランド国際会議2021横浜では、「日本一おかしな公務員」こと長野県塩尻市役所の山田崇氏、古民家を活用して地域全体をホテルにする「NIPPONIA」を展開するNOTE(兵庫・丹波篠山)の藤原岳史氏、岐阜県美濃市の和紙を生かしてまちづくりに取り組む丸重製紙企業組合の辻晃一氏らが、活動の原点からビジネス上の課題、後継者育成に至るまで、ローカルSDGs深化の秘訣を明かした。(横田伸治)

ファシリテーター:
田中 信康・サステナブル・ブランド国際会議 ESGプロデューサー、サンメッセ総合研究所(Sinc)代表
パネリスト:
藤原 岳史・NOTE 代表取締役社長
辻 晃一・丸重製紙企業組合 代表理事
山田 崇・塩尻市役所地方創生推進課地方創生推進係長

市役所職員として地方創生推進を担当しながら、イノベーターとして第一線で活躍する山田氏。自著のタイトルに「日本一おかしな公務員」と名付けたように役所内では一風変わった存在だが、その目標は塩尻市の活性化に他ならない。山田氏は、自腹で空き家を借り上げて経営に乗り出したという自身の出発点を、「街を盛り上げるためには、まずは街に出てみようと思った。イノベーションに取り組む勇気と、行動的スキルが大切。圧倒的な行動量が質につながる」と振り返る。現在は年間200以上の講演をこなしながら、空き家活用プロジェクト「nanoda」、首都圏の人材を塩尻市に呼び込む協働リーダーシップ・プログラム「MICHIKARA」など多方面に活動している。

一方、NOTEの藤原氏は「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」をテーマに、現在24地域で古民家ホテルNIPPONIAを展開。空き家や少子高齢化問題を視野に、あえて観光資源に乏しい地域で活動しているという。たとえば、兵庫県丹波篠山市では、城下町全体をホテルと見立て、空き家を改装した「客室」やショップ、ギャラリーなどを点在させることで、エリア全体としての活性化と経済の底上げを実現している。藤原氏は「NIPPONIAとはホテル名ではなく、ローカルな思想をグローバルな事業で継承させる運動のこと」と語るが、それは「自然」「循環」「手作りの豊かさ」などの要素を、経済的な合理性を備えて課題解決に向けたビジネスモデルの中に取り込んでいくことを意味している。

さらに、丸重製紙企業組合の辻氏は「美濃と和紙を元気にする」ために、美濃市の伝統工芸であり家業でもある和紙生産を通じた地域ブランディングに取り組む。NOTEが同市で展開するNIPPONIA商家町内には和紙専門店「Washi-nary(ワシナリー)」を立ち上げ、オリジナル商品の販売も手掛けている。さらに水力発電によってエネルギーの地産地消とクリーンエネルギーの推進を図る会社も経営する一方で、シェアオフィスの運営にも乗り出し、若者の誘致にも動いている。こうした活動の背景として辻氏は「私は山間部に住んでいるが、小学校も廃校になり、かつての同級生は誰も帰ってこない。パラダイムシフトを今起こさないと、子どもたちに恨まれる。どう子どもたちに誇りを持ってもらうか」と地元活性化への使命感を語る。

セッション後半では、山田氏が「丹波のNIPPONIAは4年前に講演しに行き、田んぼの先にレストランや客室が現れることに驚いた。昨年はワシナリーでマスクを買った」と、登壇者同士のつながりに触れて会場を盛り上げた後、登壇者らが、ファシリテーターを務めたサステナブル・ブランド国際会議ESGプロデューサーの田中信康氏を中心として意見を交わした。

空き家活用事業については、山田氏が「『まずやってみる』ことにした結果、今では6軒を借りている。実際に借りてみたら、各物件にあるストーリー、当事者の思いが分かった。市役所の中にいたら気づけないことの、橋渡しをやってきた」と意義を語ると、藤原氏が「人口減少は正解のない問題。課題を挙げてもきりがないが、実際に物件を借りてみて初めて、そこが空き家になっていた理由、何かのしがらみも分かったりする」と行動の大切さに同意した。山田氏は「上司や上の世代ではなく私たちが初めて気づくことがある。計画を変更したり、新しい打ち手を試したりと、民間が得意な視点が役所にも育ってきている」と手ごたえを感じているようだ。

NIPPONIAと美濃和紙のコラボレーションの話題では、藤原・辻の両氏が「課題を共有しており、同じ匂いがした」と、即座に協働を決めた経緯を明かす。藤原氏は「地元の方と関わっていく中で、その地域ならではの『軸』が分かる。そして、『宿泊するというよりも、住民になる』コンテンツが見えてくる」と収穫を語り、辻氏は「NOTEというある種の『よそ者』を迎えて、同じ仲間として一緒に事業を作り上げ、実際に観光客が訪れてくれるようになった。その結果、地元に誇りを持ち、地元愛を発信する人が増えた」と市民の意識の変化を振り返った。

最後の話題となった後進の発掘、育成についても、3人の視点は一致していた。山田氏が「自分より下の世代にも、『まずはやってみろ』という背中を見せたい」と語ると、辻氏も「背中を見せていくしかない。行動を起こせば、何かしらの動きや思い、仕事が生まれる。その繰り返しだ。私自身も、適材がいれば譲るところは譲りながらも、しばらくは率先して動き続ける」と頷いた。藤原氏は「類は友を呼ぶ。同じ波長を持つ人が集まってきたら、それがすでに人材育成だと考えている。このまま放っておいたらなくなってしまうものを任せる人材を発掘するために、前に立って、事業を生み続けていくしかない」と力強く締めくくった。

横田伸治(よこた・しんじ)

東京都練馬区出身。東京大学文学部卒業後、毎日新聞記者として愛知県・岐阜県の警察・行政・教育・スポーツなどを担当、執筆。退職後はフリーライターとして活動する一方、NPO法人カタリバで勤務中。