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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)

バンクーバーの歩みに学ぶ 都市の、地域のブランド化を――全国未来都市ブランド会議6

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持続可能なまちづくりに向けた、全国各地の自治体と企業のパートナーシップによる最先端の取り組みが紹介された「全国SDGs未来都市ブランド会議」。その最後を飾るパネルセッションでは、横浜の姉妹都市であるカナダ・バンクーバーから、Vancouver Economic Commission Asia Pacific Center Executive DirectorのJoan Elangovan氏をゲストに迎え、グローバルな視点でのSDGs戦略について理解を深め、認識を新たにした。まさに、SDGs未来都市ブランド会議の名前通り、都市を、地域をブランド化していくために今、私たちができる一歩とは。(廣末智子)

パネルセッション「 SDGs のその先に ~ 連携・共創でつくる都市のブランド /イノベーション~」

【ファシリテータ】
青木 茂樹 サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
【パネリスト】
Joan Elangovan Vancouver Economic Commission Asia Pacific Centre Executive Director
信時 正人 ヨコハマSDGsデザインセンター センター長
飯沼 瑞穂 東京工科大学 メディア学部 准教授

青木:サステナビリティに向けた世界の動きを見ると、日本はまだまだ欠けている面が多くあります。2年前にバンクーバーで開かれたカンファレンスに行ったのですが、エアポートを出ると、まずハイウェイがないのに驚きました。こんな街があるんだなあと。今日はそのバンクーバーからJoanさんに来ていただきました。Joanさんにはリレー・トークも聞いてもらいましたので、初めに、自己紹介も含めて、その感想をお聞きしたいと思います。

Elangovan バンクーバーと横浜は今年、姉妹都市提携を結んで55年。今日、私がここ横浜の地にいることは特別な意味があると思っています。先ほどのリレー・トークでは、日本で今、多くの自治体が企業との連携を進めている状況を知り、素晴らしいと思いました。バンクーバーでも公民のコラボレーションは非常に重要であると考えていますが、バンクーバーの場合、企業の95%が中小企業で、まずは商業的にイノベーションを実証することが課題になっています。

そこでバンクーバー市では、私たちの経済委員会を通じて市が所有している資産をデータベース化していこうということになりました。革新性に優れた企業は新しいテクノロジーを使ってエネルギーの利用率を測定し、改善することができます。日本におきましても、社会のさらなる改善を求めて自治体と民間企業が連携を進めていくということは素晴らしいですね。

青木:次に信時さん、横浜の事例についてお願いします。

信時:はい。横浜市は2018年にSDGs未来都市に選定されましたが、内閣府にSDGsの事業を提案する中で、メインに位置付けていたのが、この官民学をつなぐ中間支援組織としてのセンターの設置でした。当時、中間支援組織というものを打ち出したのは横浜市だけではなかったかと思います。センターは横浜市の外郭団体ではなく、完全に民間の組織です。

青木:ありがとうございます。では飯沼先生、会議の感想などを。

飯沼:はい。私は2017年に日本MOT振興協会ソーシャル・デザイン委員会という組織を立ち上げる機会をいただき、そちらでも活動しております。専門は教育工学や国際教育開発です。先ほどのリレー・トークでは、4つのケースとも地域に根ざしたローカルな課題を現場の社会的ネットワークを活用しながら解決されていることに素晴らしいなと思いました。新しい、斬新なアイデアで、自分たちの持っているリソースをフルに活用して解決されています。またどのケースにおいても、真の同志で、ウインウィンの関係をつくっていくというところが非常に重要な点なんじゃないかなと感じました。

世界でもっともグリーンな都市目指すバンクーバー――Joan Elangovan氏

青木:ではJoanさん、もう一度、バンクーバーがどういう町なのかプレゼンテーションをよろしくお願いします。

Elangovan はい。バンクーバーでは2009年に、「グリーンネストシティ2020(2020年までに世界で最もグリーンな都市を目指す都市計画)」を発表し、非常に大掛かりな取り組みを始めました。自分たちの街、バンクーバーを、しっかりとした地方経済を確立し、非常に生き生きとした多様な人たちが入って来られる街に、国際的にも認知され、何世代にもわたって期待に添える街にしたいと。計画策定には地元住民はもちろん、企業やNGOや大学、さらに世界中の都市の人たちにも入ってもらい、ベストプラクティスを学ばせていただきました。

実際、ソーシャルメディアも巻き込んで、世界中の3万5000人の人たちに構想に関するコメントをもらいました。またビジョンだけではなく、いろいろな測定値や指標というものをつくり、毎年の進捗状況を測定して発表しています。市として何をして、共同で何をしてきたのかということも。開始から5年で目標の8割を達成しました。「グリーンネストシティ」の取り組みは今年が最終年となりますがいろんな側面でとてもうまくいっています。

青木:グリーンネストシティ構想の冊子を見ますと、市民の皆さん、そしてコラボレーションする人たちが何を目指しているのかがとても分かりやすく示されていますね。日本の行政の資料は難しく、市民を巻き込みにくいと思いますので、これを見たときには本当に感動しました。次に信時さん、ヨコハマSDGsデザインセンターの取り組みについて教えてください。

中間組織のニーズ拡大している――信時 正人氏

信時:はい。少子高齢化や災害への不安、地球温暖化もそうですが、今、地域や社会で起きているさまざまな問題は複雑に絡み合っていて、どれも1つの主題では解決できないということがベースにあります。SDGsの17の目標もすべてつながっており、逆に言うと、どこからでもアプローチできます。

横浜市にはとても頑張っておられる中小企業さんがあり、トップの方は、やれることは小さくても、そこから世界に対してどう広げていくかという発想で事業を行なっています。どんなに小さな会社からでも17の目標につながるストーリーをつむいでいくことができるんですね。そこをわれわれが助けています。

概略図で言いますと、企業や大学、地域活動団体といったステークホルダーにニーズとシーズを持ってきていただき、それをわれわれの方で、マーケティングやコーディネート、イノベーションやプロモーションといった形でアレンジし、いろんな解決策を講じながら、パイロットプロジェクトをつくっていくための動きをしています。

青木:センターがマッチングの機能を果たしているのですね。

信時:はい。具体的には今、トータルで200近い案件が持ち込まれており、その中には個人も、大企業も、中小企業もあります。既に試行的取り組みが始まっているものには、磯子区汐見台での、ICTを活用した短時間勤務を職住近接で実現するショートタイムテレワークや、旭区若葉台団地でのオンデマンドバスの実証実験などがあります。また昨年は「ヨコハマDSDGsアイデア博」を開いたり、環境に興味のある企業とコンソーシアムを組んで情報交換を行うなど、ステークホルダーの方々とともにSDGsの達成に向けた道筋をデザインしているところです。

青木:まさに中間支援組織としての役割ですね。

信時:はい。同じ中間支援組織では、青森県下川町の「しもかわSDGsパートナーシップセンター」と連携していますが、他のSDGs未来都市でも中間支援組織をつくりたいと言われるところが出てきていますので、今後もネットワークが広がっていくと思います。自治体でもない、純粋に民間でもないというところで、今、中間支援組織に対するニーズが拡大してきていると感じますね。世界的にもバンクーバーはじめ環境先進都市との連携を強め、世界の都市の発展に貢献していきたいと考えています。

課題解決のため新しい秩序を――飯沼 瑞穂氏

青木:ありがとうございます。では飯沼さん、日本MOT振興協会の方ではどのような動きをなさっているのでしょうか。

飯沼:先ほどお話しがありましたように、社会課題が非常に複雑化している中で、連携が非常に重要になっており、今後、どのように連携していくかということで、私たち日本MOT振興協会は、ソーシャルデザインという概念の定義を行いました。ソーシャルデザインとは、持続可能な社会の実現に向けたアイデアや仕組み、それを支える過程や技術、新しいビジネス、さらには社会のシステムのデザインを指します。

問題解決と言うとどうしてもネガティブに、良くないものを消してくという風に捉えがちだと思うのですが、ここで言うデザインとは課題の解決のために意味のある秩序を新しくつくり出すということです。新しい秩序をつくっていくことによって、結果的に問題が解決していく。私たち、ソーシャルデザインスパイラルモデルと呼んでいますが、ステークホルダーがうまく連携していけばポジティブなスパイラルがどんどん上がり、横浜のSDGsセンターの取り組みのように、最終的にはグローバルパートナーシップにもつながります。

そういうグローバルの価値観と、ローカルの価値観の接点を、どのステークホルダーを巻き込んで、どう作り上げていくか、どう新しい価値を創造していくか、というところがこれからのSDGsのポイントであると思います。

青木:最後にJoanさん、持続可能な社会の実現に向け、メッセージをお願いします。

Elangovan バンクーバーはカナダでは3番目の都市で、ブリティッシュコロンビア州では最も大きな都市です。ブリティッシュコロンビア州にはオイルやガスといった天然資源があり、美しい自然で有名です。そのバンクーバーをブランドとして見たとき、どのような価値があるのか。人口はそれほど多くなく、地域レベルのGDPもそれほど大きなものではないバンクーバーですが、そのブランド価値を支える最も重要な要素が、グリーンで、持続可能な都市であることだと考えています。今は2050年までに再生可能エネルギー100%を目指す計画「Renewable City Action Plan」も掲げており、さらに進歩していきたいと思っています。

青木:ありがとうございます。地域がブランドになるということを強く意識して頑張れば、人口が少なくとも、GDPが小さくても、ブランドの価値はつくれるんだということがよくわかりました。われわれも本当にSDGs未来都市ブランドをつくれると勇気をもらいました。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。