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釜石市とLIFULL、空き家の再生システム構築し「地域資源」に――全国SDGs未来都市ブランド会議 5

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窪田 優一・釜石市 副市長(左)と渡辺 昌宏・株式会社LIFULL 地方創生推進部 部長

自治体と企業の連携による最先端事例を紹介する「全国SDGs未来都市ブランド会議」のリレー・トーク。4つ目の事例は「空き家活用」をテーマに、岩手県釜石市の窪田優一副市長と、不動産情報サイトを展開するLIFULLの渡辺昌宏・地方創生推進部部長が登壇し、全国各地で地域課題になっている空き家の課題解決に向け、自治体と企業がタッグを組んで推進中の活動を報告した。空き家を地域資源と捉えて交流人口の拡大を目指す持続可能なまちづくりとは。 (廣末智子)

【ナビゲーター】
青木 茂樹・サステナブル・ブランド国際会議 アカデミックプロデューサー
【パネリスト】
窪田 優一・釜石市 副市長
渡辺 昌宏・株式会社LIFULL 地方創生推進部 部長

釜石に暮らす、関わる可能性の最大化を

東日本大震災による死者と行方不明者が1000人を超え、大きな被害を受けた釜石市。窪田副市長の説明によると、今年度中にすべての公営住宅が完成するなど、住宅や施設の再建が進み、三陸鉄道の全線開通などインフラの整備もなされて「利便性という点では震災の前よりも回復してきている」という。2019年のラグビーワールドカップでは「33000人の小さな町の復興スタジアムに14000人を超える世界中の方々が訪れた」のも「鉄と魚とラグビーのまち」の嬉しいニュースだった。

もっとも、この50年でみると6割ほど人口が減少しており、震災後もそれはさらに進んでいる。そうした中、SDGsを踏まえ、市民の有志と市の若手職員が構想した「釜石市オープンシティー戦略」を2016年に策定。「つながり人口(観光客以上、移住者未満に関わりを有する人材・企業)」と「活動人口(コミュニティ活動、経済活動へ積極的に参画する市民)」の2つをキーワードに地域の活力を維持する施策をさまざまに行い、その中でも力を入れているのが空き家の再生だ。

釜石市でも空き家は増えており、現在「空き家と推定される建物」は831件ある。この空き家を同市は地域資源であり、「地域交流の場所、地域活性化の場所」として捉え、2017年12月にLIFULLと連携協定を締結した。具体的には、LIFULLの社員が同市で「地域おこし企業人」として活動したり、「空き家バンク」の認知度向上に向けたパンフレット制作や、空き家所有者とのコミュニケーションを通じた物件の低価格化などを行い、それまで21カ月で4件のみだった空き家バンクの成約件数は、協定締結後、22カ月で10件、10年間で54件のペースにまで増えた。

さらに釜石に移住してきた建築士らの協力も得て空き店舗や空き家の多い商店街を舞台にしたエリアリノベーションも展開中で、市としては「釜石に暮らす、関わる可能性を最大化するエコシステム」を構築すると同時に、釜石発の空き家利活用のモデルケースをLIFULLの事業にも還元していく、ウインウインの関係づくりが進んでいる。

一方、LIFULLの渡辺部長によると、1997年設立の同社は、「未来は空き家にあった」をコンセプトに、空き家による地方創生を実践中。全国に約850万件あり、増え続けている空き家の共通データベース化を進め、空き家と利用者をマッチングする人材の育成や、空き家のプロデュース、空き家を活用する際の資金調達支援などを行なっている。空き家活用のノウハウをすべて見える化し、情報発信することで、空き家をめぐる多岐にわたる課題を広く解決していくための仕組み(空き家再生のエコシステム)をつくりあげているところで、釜石市でもこのシステムに則った人材育成や相談窓口の活性化に取り組んでいる。

今後もこのシステムやノウハウを全国の自治体や事業者と連携しながら広げる方針で、渡辺部長は「地域に喜ばれる空き家の多様な活用シーンを創出し、より広域の空き家の課題解決を目指していきたい」と話した。

廣末智子(ひろすえ・ともこ)

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーに。サステナビリティを通して、さまざまな現場の当事者の思いを発信中。